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クラブに入るとき、事前に代表者から指導に関する哲学や指針、ルールなどの資料が手渡されるか? 【街クラブ経営/基礎01】

代表者のマネージメント能力が高いか、低いか。

これは選手や保護者が街クラブの良し悪しを決める上で、大きな判断材料だ。代表者のマネージメント能力は、クラブの経営や運営にダイレクトに反映される。基本的に代表がさまざまな決定権を現場に丸投げ、また指導内容も各コーチに依存度しているクラブは、取材経験上"縮小傾向"にある。

だから、"不要不急"のこの環境を逆に生かし、サッカー面ではなく、クラブの経営や運営について一度見直してみてはいかがだろうか?

まず、何から手をつけていくのか。それはクラブを俯瞰し、「地域に根づく」観点からより具体的に現状を把握し、自分たちで分析することだ。地域の子どもたちを預かり、対価をもらうのだから、地域の中における「クラブ環境」は客観的に知る必要がある。私はそう思っている。

どんな選手たちが集まっているか。
共働きなど選手の家庭環境はどうか。
選手たちは何校から通っているか。
グラウンドを借りている学校は考えは?… etc

「①クラブと選手/②クラブと保護者/③クラブとスタッフ」という3つの視点で情報を収集し、一つひとつ書き留めておく。それに加えて、地域のさまざまな店の時給や習い事の月謝なども把握することが重要だ。なぜならクラブに支払われる月謝、スタッフに支払う給料が正当な価格なのかも妥当なのかを見直すことも大事だからだ。

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その次に選手のプレー面に関わる資質を解析していく。まずはサッカー以外の「①心理性/②社会性/③思考性/④運動性など」の人としてのベースとなる部分を一人ひとり観察し、気づいたことでいいので全選手に対して挙げられるだけメモをとる。

ここから、ようやくプレー面「①技術面/②戦術面」について書き起こす。

もし代表一人で実践するのが「無理だ」と思えば、他のコーチに手伝ってもらうをオススメしたい。そうすると、自然にクラブスタッフとの共通認識事項が増えるし、そのコーチは哲学や指針などクラブの根幹となる部分から理解してくれる。そうすると、クラブ経営・運営の参謀になってくれる可能性が上がる。

こうして事前に洗い出したメモが自分たちのクラブに関わる情報であり、これがクラブ哲学、指導指針、ゲームモデルなどのキーワードとなる材料になる。つまり、これはクラブの財産だ。

あらかじめ、付箋に書き留めるようにしたのはここから「クラブが大事にしたいことだけ」を抽出したいからだ。まずは何も考えずにクラブとして「絶対に大事にしたいもの」の各項目で「高>中>低」の三段階くらいにしてみてほしい。

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たとえば、左から右に「上>中>下」と三階層分にわけたとすると、3つのテーマの「上」に一直線上に並ぶ言葉が「クラブ哲学」になる部分だ。そのままそれらを要約し、簡潔に説明できるように凝縮していくと「クラブ哲学」になる。

近い将来、「自分たちのクラブがどんなクラブなのか」を簡潔に説明できない街クラブは淘汰されていくと、個人的には考えている。

クラブ哲学が決まれば当然、指導指針とサッカースタイルに反映することができる。それは「クラブ哲学はそのクラブの絶対的な基準だから」だ。ここからはあたらめて考える必要がなく、すでに「クラブ環境/サッカー外の資質/プレーの資質」の3つのテーマを「高>中>低」にわけているので、それを見ながら自分たちで「指導指針←→サッカースタイル」を念頭において行き来しながら、より多くの項目が包括的に含まれるように簡潔に言葉にしてみる。

▼クラブ哲学
▼指導指針←→サッカースタイル

この3つが決まれば、あとは選手と共有するプレーのキーワードをひと言で表現してみよう。それは同時に指導の基準になり、チームをはかる上でも、個人をはかる上でもバロメーターになる。ちなみに、私がアドバイザーを務めた街クラブは次のような言葉になった。

【事例】
▼クラブ哲学
「誰も見捨てない」
▼サッカースタイル
「最後まで諦めず、全員で攻撃して全員でボールを奪って勝利を目指す」
▼プレーキーワード=指導指針
「サポート」

アドバイザーを務めた街クラブではクラブ環境を見渡して、哲学を「誰も見捨てない」にした。そこから「クラブ環境/サッカー外の資質/プレーの資質」の3つのテーマで書き出した言葉をいろいろと包括的に拾い上げていくと、上記のようなサッカースタイルに行き着いた。

さらに、地域でも勝ったり負けたりを繰り返す一般的なレベルの選手が集まっていたクラブだったので、その中で「勝利を目指す」には「個々がチームとして戦えばいい?」と考え、サッカースタイルをイメージしたときにプレーキーワードとして「サポート」が一番しっくりきた。

▼サポート→「クラブ哲学→サッカースタイル→指導指針」

サポートを哲学、スタイル、指針と確認していくと連なっているのがわかる。これが一環指導という形の原型であり、クラブの基準だ。これは実際に実験的に実施したことだが、私は哲学「誰も見捨てない」を指導実践に落とし込む方法として「会話」を重視した指導を行った。

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4年生を対象に半年間、月1〜2回のペースで現場指導し、その際は1人1回は練習や試合で会話をすることを心がけた。サッカーでも、日常でも、必ず子どもと触れ合って信頼関係を築いた。4試合限定だが、4年生の秋季リーグで20年ぶりに監督としてベンチに座り、2勝2敗の戦績だった。

その詳しい内容は、下記の定期購読マガジンを読んでもらえたらと思う。

「プレーに特化したクラブ形態でなければならない」

地域で活動する多くのジュニアクラブがこういう思いを持っているが、私はこのことを大人の思い込みだと捉えている。そして、ここに街クラブ経営の落とし穴が潜んでいる。街クラブの存在意義は、基本的に「子どもが友達とボールを蹴って楽しむ」環境を作ることにあり、これをどう実現すればいいかと進むことが結果的に「地域に根づくこと」につながると考えている。

子どもの笑顔は、親の、コーチの、笑顔を生む。

特に小さい頃は選手がサッカーにのめり込むまで、保護者は「サッカーが上手いとか下手とか」で子どもを見ておらず、楽しそうかどうかで判断している。保護者が上手下手のレベルを気にし出すのは「子どもがのめり込み始めてから」だ。選手の成長とともにレギュラーとか控えとかを急に意識し、まわりと比べ始めて、そこからトレセンや進路を話題にする。

だから、クラブにはきちんと言葉で説明できる哲学や指針が必要になるのだ。なぜなら入会するかしないかの段階で選手や保護者が確認できるし、それがあればコーチ側もクラブに合うかどうかが判断できるから。

現状、ジュニアの街クラブで入会する段階でクラブの哲学や指針などをまとめた資料を手渡し、きちんと説明会を開いているクラブは一定の選手数が在籍していて安定している印象だ。その大きな要因を生み出しているのは、クラブの代表者が経営や運営に対してマネジメント能力を発揮しているから。

たとえば、就職活動で企業理念などを提示できず、担当者が説明できない会社に入社しますか?

「街クラブも金銭の授受が発生している以上、ここへの等価交換を曖昧にしているクラブはおかしい」というのが、私の考えだ。実際に、今ここが不透明な街クラブは減少傾向にある。そこをクラブも、選手と保護者もしっかりと見つめてほしい。

木之下潤

【プロフィール】
文筆家&編集者/「年代別トレーニングの教科書」「グアルディオラ総論」など制作多数/子どもをテーマに「スポーツ×教育×発育発達」について取材・研究し、2020年1月からnoteで「#僕の仮説」を発表中!/2019年より女子U-18クラブユースのカップ戦「XF CUP」( @CupXf )の公式メディアディレクターを務める/趣味はお笑いを見ること

「僕の仮説を公開します」は2020年1月より有料になります。もし有益だと感じていただけたらサポートいただけますと幸いです。取材活動費をはじめ、企画実施費など大切に使わせていただきます。本当にありがとうございます。