くらげの骨

第2回私立古賀裕人文学賞 応募作品
テーマ:アメリカの入学式

古い言葉はよくできている。

例えば "類は友を呼ぶ"
紀元前8世紀の中国で生まれた言葉らしいが、これほど人生を端的に表した言葉はないだろう。

・上司の叱責に愚痴を漏らす部下
・家事をしない夫に不満を持つ妻

ありふれた光景だが、彼らは自分の人間関係を自分で選択していることにまるで気づいていない。選べない人間関係は、自分を産み落とす親の存在だけだ。

ーー

新しい言葉はよくできている。

例えば "なぁぜなぁぜ"
21世紀の日本で生まれた言葉らしいが、これほど生活で使える言葉はないだろう。

・部下の評価に影響しないようさまざまな場面でミスを被ってきたが、感情表現が不器用なせいか、社内での評判がよくないと知ったとき
・汎用家事ロボットを妻モードに設定して擬似的な結婚生活を楽しんでいたが、自分の意識もAIであることが発覚し、使役していたはずの妻ロボットにデータを消されるとき

ありふれた光景だが、彼らは「なぁぜ?」と唱えることで少し楽しい気持ちになるだろうか。取り返しがつかないのは、カップ焼きそばの湯切り前にソースを入れたときだけだ。

ーー

この世にない言葉はよくできている。

例えば "アメリカの入学式"
いつかどこかで生まれていない言葉らしいが、これほど無意味を意味する言葉はないだろう。

・死後の世界にあるのは、死ではないこと
・無を感じるということは、無ではないこと

ありふれた光景だが、自分以外の意識は最初からないのと同じだった。

ーー

ソースを1つ無駄にしたなら、同じ焼きそばを99個用意して、さらに友達を100人呼べばいいだろう。1%薄味の焼きそばが100人前。そうしたら、自分のぶんがないことにようやく気がつくはずだったが、そもそも自分の意識がずっと前からないことに、意識がないから気がつかなかった。



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