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【研究書評】ベーシックインカムによる働き方改革の実現可能性

「働き方改革」に求められる「働きがい」の視点とその意義
潜道文子

(2週目)

【要約】
・働きがいと働きやすさの比較
「働きがい」の向上に効果がある雇用管理制度
〈評価処遇・配置〉
本人の希望ができるだけ尊重される配置
〈人材育成〉
自分の希望に応じ、特定のスキルや知識を学べる研修
〈業務管理・組織管理・人間関係管理〉
各自に与えられた仕事の意義や重要性についての説明
従業員の意見の会社の経営計画への反映
提案制度などによる従業員の意見の吸い上げ
経験が浅い社員に責任ある仕事を任せ裁量権を与える
〈福利厚生・安全管理・精神衛生〉
職場の安全管理に関する研修

「働きやすさ」の向上に効果がある雇用管理制度
〈評価処遇・配置〉
本人の希望ができるだけ尊重される配置
〈人材育成〉
自分の希望に応じ、特定のスキルや知識を学べる研修
上司以外の決められた先輩担当者(メンター)による相談
〈業務管理・組織管理・人間関係管理〉
各自に与えられた仕事の意義や重要性についての説明
従業員の意見の会社の経営計画への反映
提案制度などによる従業員の意見の吸い上げ
〈福利厚生・安全管理・精神衛生〉
職場の安全管理に関する研修

・働きがいの源泉としてのフロー体験
Schaufeli and Bakker(2004)は「仕事に夢中になり、没頭することは『フロー』と呼ばれる状態に近い」と指摘しており、ポジティブ心理学分野の研究者であるミハイ・チクセントミハイはこのフローという体験を理論化して提唱している。ミハイ・チクセントミハイは自己目的的活動を「その活動自体のために行う価値のある活動」であるとし、その活動は内発的報酬を得られる活動であると主張している。そして、内発的報酬を創造する自己目的的活動がもたらす最適経験を「フロー体験」と呼んでいる。このフローを体験している時、人は楽しいと感じ、達成感や成長感・有能感も感じられる。このようなフローを体験できる条件は8つあるとされている。
①    目標が明確
②    迅速なフィードバック
③    挑戦の機会と能力とのバランス
④    集中の進化
⑤    重要なのは現在
⑥    コントロールには問題がない
⑦    時間感覚の変化
⑧    自我の喪失

「働き方改革」に求められる「働きがい」の視点とその意義
潜道文子

【選択理由】
今回は働き方改革にフォーカスした論文を読もうと思い、働き方改革の中でも賃金や労働時間ではなく働きがいをはじめとした

【要約】
・背景
 働く人々にとって長時間労働は肉体的・精神的に負担になることからワークライフバランスが確保されることは重要である。しかし、働き方改革に関する法律では人々の仕事に対するモチベーションや働きがいの向上にはほとんど触れられていない。デロイトトーマツグループが2013年より日本企業を対象にして実施している「働き方改革の実態調査」によると企業の働き方改革の目的として最も多く挙げられたのは「従業員満足度の向上・リテンション」(回答企業277社中238社)である。つまり、企業が働き方改革に求めるのは新しい仕組みの導入よりも従業員における変化であり、その変化を生み出すことは仕組みの導入よりも困難であると言える。

・若者の労働観
 日本総合研究所(2020)が全国の中学生・高校生・大学生を対象として行ったアンケートによると、「とてもそう思う」、「ややそう思う」の総計からみると最も割合が大きいのは「興味・好奇心を追求して働くことが重要だ」(70.3%)であり、給与所得などの「外的報酬に対する欲求」もより高い報酬を得たいという傾向は強いが、それ以上に「内発的報酬に対する欲求」の方が総じて強いと結論づけている。

・働きがいの意義
 厚生労働省(2019)『令和元年度版 労働経済白書』では、ワーク・エンゲイジメントを「仕事に関連するポジティブで充実した心理状態」と定義し、「仕事から活力を得ていきいきしている」(活力)、「仕事に誇りとやりがいを感じている」(熱意)、「仕事に熱心に取り組んでいる」(没頭)の3つが揃った状態と説明しており、働く人によって働きがいのある状態であるとしている。

【感想】
今回、この論文を読んで若者は内発的欲求が強いにも関わらず、職業選択の要素は収入が大きく影響しているという矛盾点を見つけた。どのタイミングでなぜこのような変化が起きるのか今後考えていきたい。

社会保障の財源問題
―社会福祉の安定・充実を目指す財源論―
鎌谷 勇宏

【選択理由】
前回の書評で租税回避行為への対策による財源確保を検討したが、それでも財源は満たされないことが考えられるため、改めて財源の候補を探すために本論文を選択した。

【要約】
社会保障の財源を扱う場合、「税」と「社会保険」に二分して議論されることが多いが、昨今では税財源推奨論者は所得税と法人税を中心で、社会保険料財源推奨論者は社会保険料を中心に据えつつ、所得税や消費税などの多様な税財源拡大を視野に入れていることから、本論文では「税財源論(金持ち課税型)」と「社会保険料主財源論(多様財源型)」と表現している。
・税財源論の主張
①    逆進性批判
②    社会保険の排除原理
③    低所得層の負担限界
これらをまとめると、社会保障の財源は所得税(高所得層)と法人税(大企業)に求めるべきで、逆進性の強い消費税や社会保険料は望ましくないという主張や論拠である。
・社会保険料主財源論(多様財源型)の主張
①    財源安定性と財源調達力
②    俯瞰的視点
負担率ではなく負担額、結果的にサービスを受けられない排除問題にも焦点を当てるべきである。
・財政的位置付け
税財源と国債費でまかなわれている国の一般会計歳出を見ても、社会保障関係費・地方交付税交付金・公共事業費・防衛費などが含まれており、税財源は競合が非常に多い財源と言える。つまり、税収が増加し一般歳出が増加したとしても社会保障関係費は一定割合に従う形でしか増加せず、税財源の配分バランスを大きく変えることは困難であると言える。
結論、社会福祉分野が十分な財源を確保するためには社会保険制度をできる限り社会保険料財源でまかなってもらう方法である。近年話題になっているベーシックインカムは医療・介護などの現物給付が考慮されておらず、現在の社会保障給付費を使い切る形となり最悪な結果となる可能性がある。

労働の価値とベーシックインカム
―支えあう社会であるためにー
薄木 公平

【選択理由】
前回の書評を読んで租税回避への対策をすることで得られる大まかな財源を計算することができたので、そこは書評と別で並行して進めていきたいと考えている。そして、今回はベーシックインカムと働き方をどのように繋げるかもう一度考え直すために本論文を選択した。

【要約】
・労働の形と労働の価値の変化
コロナをきっかけにUber eatsをはじめとした宅配等の外注の活性化が挙げられる。これはある意味で自由度の高い働き方ができる仕事が数多く出てきたと言える。視点を変えると、20年ほど前から企業は自社の主軸とは関係ない業務を外注するようになり、外注される側は大企業の社員ではなく、あくまで下請けとして従事することが多いため非正規雇用が増える。以上から導き出されるのは労働の形と価値の二極化である。1つは働き方改革という点で新しい形の労働を生み出しているが、同時に雇用・所得の不安定さを生み出し社会の不安につながっている。もう1つは労働者としての扱いではなくサービス提供者としての扱いになり、サービスの質や結果のみに目がいき、労働そのものに対する価値の低下を生み出すことになる。

・社会保障制度の課題
65歳以上の高齢者の就業率のデータから多くの日本の高齢者が老後も働き続けている現状があるが、働く理由として「生活費を得たい」「生活の糧を得る」と回答する人が多い状況から、歳をとっても働きたいというわけではなく就労に追い込まれているという方が近い。ではなぜ生活保護を利用しないのか。ここに通俗道徳と「勤労=生存」が重くのしかかっている可能性を見出せる。勤労をせずに誰かに頼ることは恥ずかしいと受け取られている。勤労と倹約や通俗道徳は否定しないが、人間を就労に追い込むための脅迫的な観念として作用しているのであれば労働の価値・生存の価値を下げることになりかねないため、「労働=生存」という考え方を見直す必要がある。ベーシックインカムが実現しない理由の1つが、「労働=生存」と通俗道徳となっている。これを否定するわけではないが、憲法とも照らし合わせて再考していく必要がある。「労働=所得=生存」ではなく「労働=?=生存」という形で?に入るものを追求する必要がある。

タックスヘイブンと闘いと国際租税法
―新課税権とグローバルミニマム税―
岡 直樹

【選択理由】
前回・前々回の書評では、租税回避への対策の歴史や海外の状況などを整理することができたので、今回は具体的な数値や税案などについて言及している本論文を選択した。

【要約】
・どれくらいの規模の金額が租税回避されているか
(近頃の租税回避事例で読み解く国際課税問題、渡辺美由紀)
ガブリエル・ズックマン著書の「失われた国家の富」のなかで世界全体の家計の金融資産は9500兆円で、そのうち租税回避地に少なくとも8%である760兆円、そして、その8割にあたる611兆円が税務申告されていないと申告されている。
(そのうち何%が日本かは不明)

・OECD・G20「BEPS包摂的枠組み」がとりまとめた対処案

Googleを実例に対処案がどのように作用するか整理する。Googleは高収益の契約を遠隔地であるアイルランドの子会社に締結させることで、多額の売上をアイルランドで計上していた。結果的にGoogleは当局の追求を受けてフランスでの納税義務を認め、計1175億円を支払うことで和解した。この事例に沿って考えると、①フランスの顧客に対する売上高に応じて定式的に計算された金額が拠点の有無に関わらずフランスで課税できる所得として配分される。(納税義務者はアイルランド法人)②アイルランド法人の税負担率が国際的に合意されたグローバルミニマム税の水準より低い場合、Googleの母国であるアメリカでミニマム税の水準まで追加課税できる。(納税義務者はアメリカの親会社)③仮にフランス法人からアイルランド法人に利益移転が行われていた場合、フランスにおいて外国法人であるアイルランド法人の所得について実質的な課税を行うこともできる。

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