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アニメキャラクターの性格を定量的に計測する方法について

要旨

 著者は、アニメまとめサイトに掲載されているTVアニメの画像を利用して、アニメキャラクターの表情を泣き顔、照れ顔、困り顔、笑い顔、疲労状態、通常状態の6種類に分類し、各キャラクターがどのような性格をしているかを計測する手法(以下、簡易式表情計測法と呼ぶ)を開発した。
 簡易式表情計測法を用いて24作品、126名のキャラクターの表情を調査した結果、以下のことが分かった。
 調査したキャラクターの中で最も泣き虫だったのは、『ハイスクール・フリート』の知床鈴であり、泣き顔発生率は27.8%であった。
 調査したキャラクターの中で最も恥ずかしがり屋だったのは、『星屑テレパス』の小ノ星海果であり、照れ顔発生率は40.7%であった。
 調査したキャラクターの中で最も困り顔の頻度が高かったのは、『ぼっち・ざ・ろっく!』の後藤ひとりであり、困り顔発生率は48.6%であった。
 調査したキャラクターの中で最も笑い顔の頻度が高かったのは、『ゆるキャン△』の斉藤恵那で、笑い顔発生率は38.8%であった。

図1 (a) 『ハイスクール・フリート』第2話より、知床鈴の泣き顔。 (b) 『星屑テレパス』第6話より、小ノ星海果の照れ顔。 (c) 『ぼっち・ざ・ろっく!』第10話より、後藤ひとりの困り顔。 (d) 『ゆるキャン△』第11話より、斉藤恵那の笑い顔。

本研究の目的

 突然だが皆さんは泣き虫なキャラクターや恥ずかしがり屋なキャラクターはお好きだろうか。著者は、アニメに出てくる可愛い女の子の泣き顔や、恥ずかしがってる様子が大好きなので、泣き虫だったり恥ずかしがり屋だったりするキャラクターが出ているアニメをなるべく多く見たいと思っている。
 であるからこそ、まだ見ていないアニメのキャラクターが泣き虫なのかどうか、恥ずかしがり屋なのかどうか、事前に分かっているとありがたい。また、「数あるアニメキャラの中で最も泣き虫だったのは誰か」とか「キャラクターどうしを比較してどちらがより恥ずかしがり屋か」といった疑問に答えられる方法があれば良いのにと思う。
 例えばピクシブ大百科には、泣き虫とされているキャラクターの一覧や、恥ずかしがり屋とされているキャラクターの一覧が掲載されている。

 しかし、特に理由等は書かれていないため、執筆者の主観によって記載されているだけだと思われる。そのような主観によらず、各キャラクターがどういう性格傾向を持っているのかを、より正確かつ定量的に判定できる方法が求められている。
 泣き虫とは一般に、泣いてる頻度が高い人という意味である。つまり、あるキャラクターの全ての登場シーンを調べて、その中でどれだけ泣いたかを計測していけば、そのキャラクターのいわば「泣き顔発生率」を知ることができる。泣き顔発生率が高ければ高いほど、そのキャラクターは泣き虫だと言える。恥ずかしがり屋についても、同様に「照れ顔発生率」を調べることができれば、あるキャラクターが恥ずかしがり屋かどうかを知ることができる。すなわち、アニメを構成している作画を全て見ていき、その中に描かれたキャラクターの表情を調べていけば、そのキャラクターの性格傾向を定量的に知ることができる。
 しかし、一般的なTVアニメ1話分の作画枚数は3000~4500枚と言われており(参考記事:製作工程について | 企業情報 | 東映アニメーション株式会社 (toei-anim.co.jp))、それらを一枚一枚しらみつぶしにチェックするのは膨大な時間と労力を要する。もし、その作画のうち何%かをランダムに抜き出して調査するということができれば、全数を調査する場合よりも格段に少ない労力で泣き顔発生率、照れ顔発生率を調べることが可能となる。そのような考えのもと、著者はアニメまとめサイトを使ってアニメキャラクターの表情を調査する方法を考案した。
 アニメまとめサイトでは、TVアニメ各話の画像が掲載され、作中の台詞や、それらに対するSNSや掲示板での反応がまとめられている。代表的なアニメまとめサイトは以下のようなサイトである。

 これらのサイトにある記事は、TVアニメのダイジェスト版のようなものだと言えるだろう。これらのサイトに上げられた画像中にいるキャラクターの表情を調べることで、各キャラクターの泣き顔発生率や照れ顔発生率を算出しようというのが本研究のアイディアである。以後、この方法を簡易式表情計測法と呼ぶ。
 本研究は、この簡易式表情計測法を用いて、多くのTVアニメのキャラの泣き顔発生率、照れ顔発生率などを調査し、各キャラクターがどのような性格なのかを定量的に判定できるようにすることを目的とする。また、多くのキャラクターについて同様の調査を行い、最も照れ屋なキャラ、最も恥ずかしがり屋なキャラは誰かを特定したり、キャラクターどうしの泣き顔発生率、照れ顔発生率を比較できるようにすることを目的とする。

調査方法

 本研究では「あにこ便」というまとめサイトを使用して調査を行うこととした。あにこ便を選んだのは、掲載されている作品数が多い、掲載されている画像数が1話当たり約200枚と多い、各話の初めから終わりまで偏りなく画像が掲載されている、といった理由による。
 あにこ便にまとめられているTVアニメのほとんどが2014年以降に放送された作品であるため、本研究の調査対象も2014年以降のTVアニメとした。その中でも、著者自身が視聴したことがある作品、比較的有名である作品、女性キャラクターが主人公となっている作品を24作品選び、調査を行うこととした。
 将来的には男性キャラクターも調査したいと考えているが、本研究ではひとまず女性キャラクターのみに対象を絞って調査を行うこととした。今回表情の調査を行ったのは、下表に示す24作品、123名の女性キャラクターである。

 ただし、参考のために、3名の男性キャラクターについても表情を調査した(表中の括弧で囲まれたキャラクターが男性キャラ)。
 本研究で用いたあにこ便のページについては、下記の補足資料の方にリンクを貼った。

アニメキャラクターの性格を定量的に計測する方法について(補足資料)|K_Hara (note.com)

 これらのページの中に含まれるキャラクターの表情を、泣き顔、照れ顔、困り顔、笑い顔、疲労状態、通常状態の6種類に分類し、各キャラクターがどのような表情をしているかを調査した。各表情の定義と、調査にあたっての細かいルール等については次章にて記載する。

表情の分類

 本章では、簡易式表情計測法を用いてアニメキャラクターの表情を分類する際のルールについてまとめた。

泣き顔の定義

 ひとえにアニメキャラクターの泣き顔と言っても、図2のように涙が滝のように溢れ出してる状態から、図3のように目に涙が滲んでるだけの状態まで、千差万別である。本研究では、涙の量に関係なく、目から涙が出ていれば泣き顔1回としてカウントする。

図2 『星屑テレパス』第10話より。泣いている小ノ星海果。
図3 『響け! ユーフォニアム2』第13話より。泣いている黄前久美子。

 さらに、泣いた理由についても問わないこととする。悲しくて泣いていようが、嬉し泣きだろうが、悔し泣きだろうが、家具に指をぶつけた痛みで泣いていようが、どれも等しく泣き顔1回としてカウントする。
 また、直接泣いてる描写が無くても、台詞や前後の文脈などから判断して明らかに泣いてると分かる場合は、泣き顔1回とカウントする。
 ただし、明らかに噓泣きだと分かる場合、あくびをしたことで涙が出た場合、笑いすぎで涙が出た場合などについては、泣き顔とは見なさないこととする。

図4 『ヤマノススメ セカンドシーズン』第12話より。笑いすぎて目に涙を浮かべる倉上ひなた。この場合は泣き顔ではなく笑い顔とする。
図5 『かぐや様は告らせたい』第2話より。嘘泣きしてる四宮かぐや。本当に泣いているわけではないので泣き顔とはせず、通常状態に含める。

 例えば、図4のように、爆笑して目に涙が浮かんできているようなケースは、泣き顔とは見なさない。また、図5はこれだけ見ると明らかに泣いているように見えるが、話を追っていけば明らかに嘘泣きであることが分かる。このような場合も泣き顔には含めないこととする。

照れ顔の定義

 キャラクターが羞恥心を感じて顔を赤くしている描写がある場合、照れ顔としてカウントする。図6のように、顔全体が赤くなっている場合も、図7のように、頬の部分だけ赤くなっている場合も、どちらも同じ照れ顔に含める。

図6 『かぐや様は告らせたい』第2話より。恥ずかしがっている四宮かぐや。
図7 『それでも歩は寄せてくる』第1話より。恥ずかしがっている八乙女うるし先輩。

 ただし、体調不良、激しい運動、辛い物を食べた、お風呂でのぼせた等の理由で体温が上がり顔が赤くなっている場合は、照れ顔とは見なさない。
 また、照れ顔かどうか判断が難しい場合には、キャラクターの表情や前後の文脈などから総合的に判断することとする。

図8 『星屑テレパス』第3話より。頬が紅潮しているように見える小ノ星海果、明内ユウ、宝木遥乃。羞恥心から顔が赤くなっているのではなく、もともとそういうキャラデザなだけであるため、照れ顔ではなく通常状態に含める。

 例えば、図8では、キャラクターの頬の部分が赤くなっているが、ここは別にキャラクターが羞恥心を感じているようなシーンではない。これはただ単に、キャラクターデザインで頬が赤く描かれているだけだと考えられる。このように、たとえ頬が赤かったとしても、恥ずかしがってる場面ではないことが明らかな場合は、照れ顔には含めないこととする。

困り顔の定義

 日本のアニメには、キャラクターが困惑していたり、焦っていたり、落ち込んでいたり、怖がっていたりする時の記号的表現が豊富にある。
 例えば、図9のように、顔に汗が描かれることで、困惑や焦りを表現している。あるいは図10のように、顔に影ができたり縦棒が入ることで、落ち込んでいることや緊張していることを表現することもある。また、キャラクターの周りにギザギザの線が描かれることで、恐怖などで体が震えていることを表現することもできる。このような表現が見られる場合は、すべて困り顔としてカウントする。

図9 『リコリス・リコイル』第6話より。汗をかいてる錦木千束。
図10 『ぼっち・ざ・ろっく!』第1話より。ショックを受けてる後藤ひとり。

 また、例えば図11のように、キャラクターの顔が映っていなくても、汗マークなどが描かれている場合には、困り顔に含めることとする。

図11 『ゆるキャン△』第2話より。各務原なでしこの後ろ姿と汗マーク。たとえ表情が見えなくても、このような汗マークが描かれて困惑していることが明らかな場合は、困り顔としてカウントする。

 その他、図9~11と類似する表現があれば、全て困り顔としてカウントすることとする。

笑い顔の定義

 下の図12のように、キャラクターの目が細まり笑っている場合は、笑い顔とカウントする。また、図13のように、「><」のような目になって笑っている場合にも笑い顔とカウントする。

図12 『おちこぼれフルーツタルト』第1話より。笑っている桜衣乃。
図13 『星屑テレパス』第3話より。笑っている明内ユウ。

 キャラクターが表面上は笑い顔になっていても、心の中では別のことを考えていて、いわゆる作り笑いをしているだけというケースも考えられるが、その場合でも笑い顔としてカウントする。理由は、キャラクターの笑顔が本心かどうかをいちいち判断していたら調査に時間がかかってしまうためである。

図14 『ハイスクール・フリート』第10話より。困惑している岬明乃艦長。目は笑い顔のように見えるが、顔に汗マークがあるので困り顔としてカウントする。

 ただし、図14のように、笑顔と合わせて汗マークが描かれているなどして、明らかに苦笑いや愛想笑いであることが分かる場合は、笑い顔ではなく困り顔としてカウントする。
 また、普段から目が細くて笑っているように見えるデザインのキャラクター、度の強い眼鏡に隠れて目が見えないキャラクター等については、表情や前後の文脈などから総合的に判断し、本当に笑っている場合にのみ笑い顔としてカウントする。

疲労状態の定義

 上で見てきたように、アニメでは困り顔の表現として顔に汗が描かれることが非常に多い。しかし、下図に示すように、運動や体調不良、炎天下での活動などの身体的負荷によって汗を流しているだけのケースも存在する。このような表情は全て疲労状態にカウントする。

図15 『ウマ娘 プリティーダービー』第2話より。汗を流すスペシャルウィーク。
図16 『響け! ユーフォニアム』第12話より。汗を流す黄前久美子。

 同様に、何らかの身体的負荷によって顔が赤くなっている場合も、疲労状態としてカウントする。

通常状態の定義

 上で述べた泣き顔、照れ顔、困り顔、笑い顔、疲労状態のいずれにも該当しない表情については、通常状態とする。
 要するに、涙や羞恥心や笑顔や汗などが見られない「普通」の表情は全て通常状態である。
 キャラクターの口角が上がってやや笑顔になっているように見えても、上の図12や図13のような目をしていない場合は通常状態に分類する。
 その他、判断が難しい表情については、前後の文脈などから総合的に判断し、最も近しい表情に分類する。

表情が重複している場合

 例えば図17のように、恥ずかしさのあまり泣き出してしまったケースは、泣き顔であるともいえるし照れ顔であるともいえる。さらに言えば、体の周りに線が描かれていて震えを表現しているので困り顔ともとれる。また、上で示した図6や図7のように、赤くなっていると同時に顔に汗マークがある表情も、照れ顔とすべきか困り顔とすべきか迷う場合がある。さらに図18では、顔は笑っているが、直前まで激しい運動をして汗をかいているので、笑い顔か疲労状態か判断に迷う。

図17 『おちこぼれフルーツタルト』第7話より。泣いている貫井はゆ。泣き顔・照れ顔・困り顔の要素が含まれているが、泣き顔が最も優先順位が高いため、泣き顔とみなす。
図18 『ウマ娘 プリティーダービー Season 3』第4話より。汗をかいているキタサンブラック。顔は笑っているが、直前まで激しい運動をして汗をかいている。疲労状態でもあり笑い顔でもあるが、疲労状態の方が優先度が高いため、疲労状態と判断する。

 このように、表情が重複している場合には、下記の優先順位に従い、含まれる表情の中で優先順位の高い表情としてカウントする。

①泣き顔、②疲労状態、③照れ顔、④困り顔、⑤笑い顔、⑥普通状態

 図17のケースは、泣き顔・照れ顔・困り顔の要素が含まれているが、泣き顔が最も優先順位が高いため、泣き顔と判断する。図18のケースでは、疲労状態でもあり笑い顔でもあるが、疲労状態の方が優先順位が高いため、疲労状態と判断する。

その他のルール

 オープニング映像やエンディング映像に描かれたキャラクターについては、集計の対象外とする。同様に、アイキャッチやエンドカード、次回予告、前話のあらすじ等の場面についても、集計の対象外とする。いわゆるアバンやCパートにいるキャラクターについては、集計の対象に含める。本編の映像と同時にオープニング曲やエンディング曲が流れている場合(いわゆる特殊OPや特殊EDの場合)についても、集計の対象に含める。
 画像中にいるキャラクターが寝ている場合、意識を失っている場合については、集計対象外とする。
 画像中にいるキャラクターの顔が小さすぎてどのような表情をしているか判別できない場合は、集計対象外とする。同様に、キャラクターの顔が隠れていて、なおかつ、前後の文脈などからも表情が推測できない場合にも、集計対象外とする。

表情を6種に分類した理由

 上で見てきたような泣き顔、照れ顔、困り顔、笑い顔などは、涙や汗、顔の紅潮など、誰が見ても明らかな特徴に基づいて定義している。そのため、調査する人の主観によって結果が左右されず、客観的かつ正確にキャラクターの特徴を知ることが可能となる。
 また、涙や汗、顔の紅潮などの表現は、様々なTVアニメで広く使われているため、本分類法は様々なアニメで適用できる汎用性を持っていると言えよう。
 もし、表情の分類をこれ以上増やした場合、どの表情に分類すれば良いか分からずに調査に時間がかかったり、調査実施者の主観が入ってしまい調査結果にバラつきが生じてしまったりするおそれがある。逆に、表情の分類がこれ以上少ない場合には、キャラクターの特徴を正確に捉えられない不完全な調査となってしまうおそれがある。
 以上の理由により、簡易式表情計測法では、キャラクターの表情を6種類に分類することとした。

調査結果

 今回調査した全キャラクターの泣き顔計測数、照れ顔計測数、困り顔計測数、笑い顔計測数、疲労状態計測数、通常状態計測数、合計計測数については、下記の補足資料に記載してある。合計計測数とは、そのキャラクターの泣き顔計測数、照れ顔計測数、困り顔計測数、笑い顔計測数、疲労状態計測数、通常状態計測数を全て足し合わせたものである。
 各表情の計測数を合計計測数で割ったものを、泣き顔発生率、照れ顔発生率、困り顔発生率、笑い顔発生率、疲労状態発生率、通常状態発生率とする。これらも下記の補足資料に全て記載した。

アニメキャラクターの性格を定量的に計測する方法について(補足資料)|K_Hara (note.com)

 以下では、泣き顔発生率、照れ顔発生率、困り顔発生率、笑い顔発生率、疲労状態発生率、通常状態発生率のそれぞれについて、上位に位置しているキャラクターを挙げて考察を行う。

泣き虫なキャラクター上位10名

 第1位は『ハイスクール・フリート』の知床鈴で、泣き顔発生率は27.8%であった。知床鈴は同作の舞台となる軍艦・晴風の航海長で、いつも泣きながら舵を取っていた印象が強い。非常に怖がりかつ心配性な性格で、艦に何かあるたびに泣いてたので、2位以下を大きく突き放す圧倒的な1位の泣き虫キャラとなった。図19は、『ハイスクール・フリート』の各キャラクターの調査結果を、Microsoft Excelのデータバー機能を使って見やすくしたものである。図の一番下にある全体平均とは、今回調査した全126キャラクター(女性123名、男性3名)の発生率の平均である。『ハイスクール・フリート』の他のキャラクターの泣き顔発生率が0.8~2.6%であるのに対して、知床鈴だけが突出して泣き顔発生率が高いことが見て取れる。

図19 『ハイスクール・フリート』の各キャラクターの各表情の発生率。

 第2位は『くノ一ツバキの胸の内』のアサガオで、泣き顔発生率は12.2%だった。アサガオは、主人公・ツバキと同じ戌班に所属する長身で食いしん坊なキャラクター。自分の食べ物を誰かに食べられた時など、本当にしょうもないことで泣いたりするため、それらの積み重ねで2位となった。図20に示すように、こちらも同作品の他キャラクターに比べて圧倒的に泣き顔発生率が高いことが分かる。

図20 『くノ一ツバキの胸の内』の各キャラクターの各表情の発生率。

 第3位は『響け! ユーフォニアム』の鎧塚みぞれで、泣き顔発生率は10.2%だった。今回調査したアニメ1期および2期の範囲では出番が少ない上に、その少ない出番の中で何度も泣いていたので結果的に第3位となり、作中で泣き虫として知られている小笠原晴香よりも上位となった。図21に示す通り、『響け! ユーフォニアム』各キャラクターの泣き顔発生率は、鎧塚みぞれ、小笠原晴香、吉川優子の順に高いが、その差は僅差である。今後、各種劇場版やアニメ第3期(2024年4月から放送開始予定)について調査すれば、順位が入れ替わる可能性がある。

図21 『響け! ユーフォニアム』の各キャラクターの各表情の発生率。

 ちなみに、泣き顔発生率の最下位は0%(つまり作中で一度も泣かなかった)で、16名が該当している。
 また、この調査方法では、主人公級のキャラクターよりも、出番の少ない脇役キャラの方が泣き顔発生率が高くなる傾向があるようである。主人公キャラの中で一番泣き虫だったのは、『星屑テレパス』の小ノ星海果で、発生率6.0%(第10位)であった。

恥ずかしがり屋なキャラクター上位10名

 第1位は『星屑テレパス』の小ノ星海果で、照れ顔発生率は40.7%であった。海果は、引っ込み思案で人と話すのが苦手な女子高生で、何かあるたびに緊張したり恥ずかしがったりして顔を真っ赤にしている。図22に示す通り、他キャラと比べて小ノ星海果は泣き顔発生率と照れ顔発生率が圧倒的に高く、また、困り顔発生率も雷門瞬に次いで2位である。そのため、通常状態の発生率は31.1%と非常に低く、今回調査した全123キャラクターの中で最も低い。一方、笑い顔発生率については、明内ユウと宝木遥乃が非常に大きいという結果となっており、各キャラの性格に明確な違いがあるのが見て取れる。

図22 『星屑テレパス』の各キャラクターの各表情の発生率。

 第2位、第3位、第5位には、『荒ぶる季節の乙女どもよ。』のキャラクターがランクインした。図23に示すように、同作の調査対象キャラ5名は全員、照れ顔発生率が全体平均より上だったので、キャラクターの性格というよりも、照れ顔発生率が否が応でも高くなるストーリー展開だったと言えるだろう。

図23 『荒ぶる季節の乙女どもよ。』の各キャラクターの各表情の発生率。

 第4位は、『それでも歩は寄せてくる』の八乙女うるし先輩で、照れ顔発生率は32.6%であった。図24に示す通り、同作のキャラクターの中でうるし先輩は、泣き顔、照れ顔、困り顔、笑い顔の発生率が最も高い。逆に、うるし先輩と同じ将棋部に所属する田中歩は、それらの発生率が非常に低く、両者が非常に対照的なキャラクターとなっていることが分かる。

図24 『それでも歩は寄せてくる』の各キャラクターの各表情の発生率。

 第7位、第8位、第10位には『おちこぼれフルーツタルト』のキャラクターがランクインしていた。図25に示す通り、同作はどのキャラクターも泣き顔、照れ顔、困り顔の発生率が高い傾向にあった。

図25 『おちこぼれフルーツタルト』の各キャラクターの各表情の発生率。

 ちなみに、照れ顔発生率の最下位は0%で、23名が該当している。
 また、『荒ぶる季節の乙女どもよ。』『おちこぼれフルーツタルト』のように、照れ顔の計測数が多い作品もあれば、『ゆるキャン△』『リコリス・リコイル』のように、ほとんど照れ顔が見られない作品もあった。

困り顔が多いキャラクター上位10名

 第1位は、『ぼっち・ざ・ろっく!』の主人公・後藤ひとり(通称・ぼっちちゃん)で、発生率は48.6%であった。実に登場シーンの約半分は困り顔だったということになる。極度の人見知りで、ありとあらゆる場面で緊張したり、怖がったり、焦ったりしているため、非常に高い困り顔発生率となったのだろう。図26に示す通り、『ぼっち・ざ・ろっく!』の主要キャラクターの中で、後藤ひとりが圧倒的に困り顔発生率が高い。次いで、伊地知虹夏と喜多郁代が全体平均よりやや困り顔が多い傾向にあり、山田リョウについてはほとんど困り顔が見られないという結果となった。

図26 『ぼっち・ざ・ろっく!』の各キャラクターの各表情の発生率。

 第2位は、『放課後ていぼう日誌』の主人公・鶴木陽渚で、困り顔発生率は38.3%であった。鶴木陽渚は、元々インドア派の女の子だったが、ひょんなことから放課後に釣りをする部活であるていぼう部に入部した高校生。いつも魚や虫などにビビって震えたりしているため、困り顔が多く計測された。図27に示す通り、鶴木陽渚は泣き顔と困り顔について他キャラクターよりも高い傾向にある。

図27 『放課後ていぼう日誌』の各キャラクターの各表情の発生率。

 また、参考記録ではあるが、第3位と第4位に『かぐや様は告らせたい』の男性キャラ2名が入っている。この他、同作の伊井野ミコも第4位(参考記録の2名を除く)にランクインしている。図28に示すように、今回調査した『かぐや様』のキャラクター5名全てで、困り顔発生率が全体平均を上回っているため、作品の性質上、困り顔が発生しやすいのかもしれない。一方で、照れ顔発生率については四宮かぐやが、笑い顔発生率については藤原千花が、それぞれ圧倒的に高くなっており、キャラクターごとに性格の違いが明確に分かれていることが見て取れる。

図28 『かぐや様は告らせたい』の各キャラクターの各表情の発生率。

 ちなみに、困り顔発生率の最下位は0%で、3名(『BanG Dream! It's MyGO!!!!!』の要楽奈および若葉睦、『女子高生の無駄づかい』の鷺宮しおり)が該当している。

笑い顔が多いキャラクター上位10名

 第1位は『ゆるキャン△』の斉藤恵那で、笑い顔発生率は38.8%であった。また、『ゆるキャン△』のキャラクターでは、犬山あおいが第2位、各務原なでしこが第4位、大垣千明が17位に入っている。ただ一人志摩リンだけは笑い顔発生率が3.5%と低く、他4人とは対照的な性格をしていることが見て取れる(図29)。

図29 『ゆるキャン△』の各キャラクターの各表情の発生率。

 3位と5位には『星屑テレパス』のキャラクターが入っている。詳細な結果については、図22にまとめてあるため、ここでは省略する。
 7位と10位には『ヤマノススメ』のキャラクターが入っている。『ヤマノススメ』も『ゆるキャン△』と同様に、笑い顔発生率の高いキャラクターが多く見られるが、唯一黒崎ほのかについては笑い顔がほとんど見られないという結果となった(図30)。

図30 『ヤマノススメ』の各キャラクターの各表情の発生率。

 ちなみに、笑い顔発生率の最下位は0%で、6名が該当した。

疲労状態が多いキャラクター上位10名

 疲労状態の発生率については、上位を『はねバド!』と『ウマ娘 プリティーダービー』のキャラクターが独占している。両作品とも、激しい運動を伴う競技がメインテーマとなった作品であるため、この結果は当然であろう。

図31 『はねバド!』の各キャラクターの各表情の発生率。
図32 『ウマ娘 プリティーダービー』の各キャラクターの各表情の発生率。

無表情なキャラクター上位10名

 綾波レイ(『新世紀エヴァンゲリオン』)、長門有希(『涼宮ハルヒの憂鬱』)などに代表される無表情なキャラクターは、昔から多くのアニメで登場し人気を集めてきた。簡易式表情計測法を用いれば、各キャラがどの程度無表情なのかを調べることも可能である。
 一般に無表情とは、感情が表に出にくいことを指す。すなわち、本研究で定義した泣き顔、照れ顔、困り顔、笑い顔などが少ないほど、そのキャラは無表情だと考えられる。これは、通常状態発生率が高いほど、そのキャラクターは無表情である、と言い換えられる。
 以下では、通常状態発生率の上位10名を紹介する。

 『女子高生の無駄づかい』の鷺宮しおり(通称:ロボ)と『BanG Dream! It's MyGO!!!!!』の若葉睦が同率1位で、通常状態発生率は100%であった。アニメまとめサイトの画像において、鷺宮しおりは303回、若葉睦は134回、表情を確認することができたが、その全てにおいて通常状態だった。図33および図34に示す通り、他キャラクターと比べても、この2名の表情のパターンは非常に特徴的である。

図33 『女子高生の無駄づかい』の各キャラクターの各表情の発生率。
図34 『BanG Dream! It's MyGO!!!!!』の各キャラクターの各表情の発生率。

 ただし、若葉睦については『BanG Dream! It's MyGO!!!!!』の中では登場回数が少ないため、2025年に放送予定の続編の内容次第では順位が変わる可能性がある。
 3位以下は、『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』の天堂真矢など数名が僅差で並んでいる。いずれも、作中で無表情あるいはクールという印象が強かったキャラクターが並んでおり、我々の直感とも合致する結果であろう。

感情豊かなキャラクター上位10名

 上では、通常状態発生率が高いほど無表情なキャラクターだと考えられると述べたが、逆に、通常状態発生率が低ければ低いほど、そのキャラクターは感情豊かであると言えるだろう。
 以下では、通常状態発生率の下位10名を紹介する。

 最下位(126位)は『星屑テレパス』の小ノ星海果で、通常状態発生率31.1%であった。小ノ星海果は、泣き顔発生率6.0%(第10位)、照れ顔発生率40.7%(第1位)、困り顔発生率16.9%(第28位)など、画面に映るたびに泣いたり恥ずかしがったり慌てふためいたりしていたので、結果的に通常状態発生率が非常に低くなったと考えられる。

今後の課題

 本研究では、アニメまとめサイトにある画像を利用して、アニメキャラクターがどのような表情をしているかを調査した。上で述べたように、キャラクターの表情は泣き顔、照れ顔、困り顔、笑い顔、疲労状態、通常状態の6種類に分類し、各表情の発生率を算出するという手法をとった(簡易式表情計測法)。この手法によって、24作品、126キャラクターの各表情の発生率を明らかにすることができた。
 簡易式表情計測法は、キャラクターの性格等を分析する方法として、以下の3つの観点から優れていると言えよう。
 第一に、調査方法が簡便である。簡易式表情計測法は、アニメまとめサイトを使用することで、アニメのカットを1枚1枚しらみつぶしに調べるよりもはるかに容易にキャラクターの表情を調べることが可能である。
 第二に、得られる結果が客観的である。本手法では、アニメキャラクターの顔などに現れる明確な特徴を計測して、各キャラクターの分析を行う。そのため、調査する人の主観によらず、客観的にキャラクターの特徴を知ることができる。
 第三に、得られる結果が定量的である。本手法では、結果は各表情の発生率という数値として得られるため、あるキャラクターの結果を同作品の他キャラクターと比較したり、他作品のキャラクターと比較したりすることが可能となる。
 現段階ではまだ、24作品しか調査が出来ておらず、調査した作品のジャンルも偏っている。また、今回調査したキャラクターは女性がほとんどであった。今後、様々なジャンルのアニメについて同様の調査を行い、男性キャラも含む多数のキャラクターのデータを集めていけば、様々なアニメキャラクターの表情・性格の傾向を知ることのできるデータベースを構築することができるだろう。
 しかし、簡易式表情計測法には、以下のような課題も存在する。
 第一に、簡易式表情計測法で使用する画像が、キャラクターの性格を正確に反映しているかどうかは、実際のところ不明である。アニメの膨大なカットの中からどのカットを選んで掲載するかは、アニメまとめサイトの製作者の主観によって決められているからである。そのため、例えば本調査で泣き顔発生率が高いと判断されたキャラクターであっても、本当に泣き虫であるのか、アニメまとめサイトで泣き顔が選択的にピックアップされていただけなのかは分からない。本研究で使用したまとめサイトであるあにこ便は、話の最初から終わりまでを比較的平等に掲載しているので懸念は少ないと思われるが、使用するアニメまとめサイトによっては、上で述べたような問題点が顕在化する可能性もある。
 第二に、簡易式表情計測法では、アニメまとめサイトで記事になっていないマイナーな作品や、アニメまとめサイト自体が存在しない時代の古いアニメについては調査することができない。例えば、あにこ便の場合、記事が描かれているのは2014年以降のアニメがほとんどで、それ以前のアニメについては、再放送時の記事がわずかにあるのみである。また、当然ながら、各クール放送されている全てのアニメについて記事が書かれているわけではない。そのため、「ある年に放送された全てのTVアニメについて網羅的に調査したい」とか、「何十年も続いているアニメシリーズについて調査したい」といった場合には、アニメまとめサイトによらない別の調査方法を考えなければならない。
 第三に、簡易式表情計測法では、そもそもアニメ化されていない作品については調査することができない。TVアニメは各クールで数十本製作されているが、この世にはその何倍もの数の漫画、小説、ライトノベル、ゲームなどが販売されている。漫画については、コマをしらみつぶしに調べていけば良いかもしれないが、小説やライトノベルではその方法も取ることができない。
 以上のような課題は、アニメまとめサイトを利用する以上、避けては通れない課題である。それらの課題を回避し、より幅広い作品に適用可能な分析方法の開発が待たれるところである。

連絡先

 本研究に関する問い合わせは下記メールアドレス、または、本記事のコメント欄にてお願いいたします。

  • k.hara.note@gmail.com



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