異議申立てといわゆるキムチ弁解

2018年8月22日付で,東北楽天ゴールデンイーグルス所属のジャフェット・アマダー選手が,アンチドーピング規則違反の制裁処分について,NPBアンチ・ドーピング特別委員会に異議申立てをした。制裁処分に対する異議申立てがされたのは,これで3件目である。この機会に,これまでの異議申立てで主張されたちょっと気になる弁解を振り返ってみたい。

1 異議申立ての前例
これまでの異議申立ては,ルイス・ゴンザレス氏の2008年5月26日付制裁処分に対する同月27日付異議申立てと,ダニエル・リオス氏の同年6月28日付制裁処分に対する同年7月2日付異議申立ての2件のみであった。
ルイス・ゴンザレス氏の異議申立てに対しては同月14日で,ダニエル・リオス氏の異議申立てに対しては同年9月2日付で,それぞれ原処分を維持する旨の判断がされている。
このうち,今回は,ルイス・ゴンザレス氏の弁解を取り上げたい。

2 検出物質
ルイス・ゴンザレス氏は禁止薬物クロベンゾレックス、アンフェタミン及びパラヒドロキシアンフェタミンが検出されたとして制裁処分を受けている。
このうち,クロベンゾレックスは,日本の法律では摂取自体は禁止されておらず,輸入について若干の規制があるのみである(詳細については,参考文献②)。これに対して,アンフェタミンは覚せい剤取締法で所持・使用等が禁止されている「覚せい剤」であり,パラヒドロキシアンフェタミンはアンフェタミンの代謝物である。

3 具体的な弁解内容
異議申立てでは,検出物質の摂取経路についていろいろな弁解がなされている。この中で特に気になるのが「焼肉店で食べたキムチ」がある。これは,故意の否認の意味で主張していると思われる。
このようないわゆるキムチ弁解は,覚せい剤取締法違反事件でしばしば主張されている。ルイス・ゴンザレス氏のキムチ弁解は果たして一体誰の入れ知恵だったのだろうか。いろいろと想像してしまう。

4 いわゆるキムチ弁解裁判例
刑事裁判におけるいわゆるキムチ弁解についても簡単に触れておく。この弁解は,1984年4月に発表された某論文がきっかけとなり,昭和の終わりから平成初期にかけて世間をにぎわせた。この弁解は覚せい剤の使用という実行行為の否認または故意の否認の意味がある。
例えば,東京地判昭和59年7月25日判時1123号138頁,東京地判昭和59年7月26日判時1123号140頁,東京高判昭和59年8月29日刑月16巻7・8号541頁などで主張されているが,いずれも被告人の主張を排斥して有罪の判決が出されている(なお,残念ながらいずれの裁判例も裁判所ホームページでは公開されていない模様である。)。

裁判例もわざわざ印刷して,具体的な弁解を取り上げつつ記事を書こうかと思っていたのだが,そこまで触れようとしたら全然記事作成が進まなくなってしまったので,また機会があればということにする。そんなわけで,意外なところで,プロ野球と刑事裁判の共通点を見つけたのであった。

参考文献
①井上堯子・田中謙『改訂版 覚せい剤Q&A―捜査官のための化学ガイド』(2008,東京法令出版)
②小森榮「いわゆる『グリーニー』について」弁護士小森榮の薬物問題ノートhttps://33765910.at.webry.info/201602/article_7.html (2018.8.30)

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