NPBにおけるドーピング事例のまとめ

これまで,NPBでは,合計7名の選手がアンチ・ドーピング規則違反の制裁を受けている。そこで,これまでの事例を簡単に振り返っていくが,その前に簡単にドーピング検査等について触れておく。
ドーピング検査の結果,禁止物質が検出された場合(「陽性」。),当該選手および球団に対し事情を説明する機会(「弁明の機会」)等を与えた上で,制裁が決定される。違反に対する制裁は,選手個人に対して,①譴責,②一定期間の出場停止(1試合以上10試合以下の公式試合の出場停止),③一定期間の出場資格停止(1年以下の公式試合の出場停止),④無期限の出場資格停止が定められており,所属する球団の関係者の関与が認められた場合にはその球団に対して1000万円以下の制裁金を科すことができるとされている(ようである。アンチ・ドーピング規程が公表されておらず,詳細不明。)。なお,制裁に不服がある場合には,異議申立てが認められている(NPBのドーピング検査等の詳細についてはこちら。)。
それでは,これまでの違反事例を振り返っていきたい。

第1 リッキー・ガトームソンの事例

1 制裁の内容
選手:20日間の出場停止処分
球団:制裁金750万円
2 通告日
2007年8月10日
3 検出物質
・フィナステリド(finasteride)
4 弁明の主な内容
・米国の医師の処方によって,飲む発毛剤としてフィナステリドを服用している。
・今春のキャンプで,球団のトレーナーにフィナステリドを服用していることを申告した。
・検査の時に,過去3日間に摂取した薬物はないか,と聞かれたが,発毛剤は問題ないと思っていたので,書類の記載欄には自分で「NONE」と書いた。
5 制裁決定の際の主な考慮要素
・飲む発毛剤フィナステリドを米国の医師の処方によって毎日一定量服用していたこと
・ドーピング禁止物質であることを知らなかったと述べていること
・キャンプ中に球団トレーナーの求めに応じてフィナステリドを服用していることを申告していたこと
・球団は少なくともNPB医事委員会に照会すべきであったがしなかったこと
・検査の際,過去3日間に摂取した薬物はないかと問われ,公式記録書に自ら「NONE」と記載、コメント欄に自ら「No Comment」と記載し,署名したこと
6 異議申立ての有無
なし
7 備考
フィナステリド(finasteride)は,検出技術の向上を理由に,2009年1月1日,禁止薬物から除外された。

第2 ルイス・ゴンザレスの事例

1 制裁の内容
選手:1年間の出場停止処分
球団:なし
2 通告日
2008年5月26日
3 検出物質
・クロベンゾレックス
・アンフェタミン
・パラヒドロキシアンフェタミン
4 弁明の内容
・検査日から数日さかのぼっても,この類の薬だけでなく,その他の錠剤を飲んだ事実はなく,特別なものを口にしたこともない。
・その時期に誰かから,何かを勧められて飲んだり,摂取したこともない。
・すべての検査の経過が公平に、まったく問題なく進められたから,検査に異議を唱えない。
・大リーグで時代に興奮剤を飲んだことはある。
・日本ではドーピングが厳しいことは知っていたし,体への悪影響だけでなく,制裁のこともわかっていた。
・陽性という科学的事実が覆らないことは理解している。
5 異議申立ての有無
あり

第3 ダニエル・リオスの事例

1 制裁の内容
選手:1年間の出場停止処分
球団:なし
2 通告日
2008年6月28日
3 検出物質
・ハイドロキシスタノゾロール
4 弁明の内容
・2年ほど前から背中に痛みを感じおり,2007年11月上旬から12月中旬の間,マイアミの医師から注射による治療を受けた。
・治療開始時に注射の内容についての説明を受けなかったが,治療開始後ドーピング禁止薬物であることを知った。
・医師は,この薬はすぐに体から出て行く,と言っていた。
・この期間以後は,治療は受けていない。
・キャンプ中にトリベスタンというサプリメントの摂取の可否についてNPB医事委員会に問い合わせた結果,その成分に禁止薬物でもあるテストステロンの体内合成を高める作用があったり,その化学構造がテストステロンに類似しているというものがあるので,摂取は避けた方がいい,と言われ,以後は摂取していない。
・検査の3日より前に,脂肪燃焼効果のあるサプリメントを摂取していた。
5 異議申立ての有無
あり

第4 井端弘和の事例

1 制裁の内容
選手:譴責処分
球団:制裁金300万円
2 通告日
2011年9月1日
3 検出物質
・プレドニゾロン
・プレドニン
・20β-ジヒドロプレドニゾロン
4 弁明の内容
①選手の弁明
・2年前にNPB医事委員会宛てTUEを提出しており,治療薬としてプレドニゾロンを申請が有効であるという理解のもと,プレドニゾロンの内服を継続していた。
・同薬品を使用していることは球団のトレーナーに報告していた。
②球団の弁明
・2年前に選手からTUEをNPB医事委員会宛てに送付していることは認識していたが,TUE判定書において,有効期限付きの承認を受けていた事は認識していなかった。
・行き違いでNPB医事委員会からの返答を確認できていなかった可能性がある。
・数回選手側に使用している薬物の確認を行ったが,井端選手から対象となる薬の報告はなかった。
5 制裁決定の際の主な考慮要素
①選手
・選手がTUE申請をしなかったのは,TUE判定書の有効期限を知らなかったことに起因するものであり,同選手が有効期限を知らなかったのは,球団が,井端選手に判定書を見る機会を与えなかったことによるものであること
・禁止物質は承認されてはじめて治療目的による使用として許されるのであるから,TUEを申請しなかったことについて,無過失とはいえないこと
②球団
・TUE申請をすればTUE判定が得られなくてもその効果が生じるものと誤信していたこと
・判定書(特に、TUEの有効期限及び特記事項)の確認を怠ったこと
・判定書の内容を選手に伝えず,かつ。その写しを井端選手に交付しなかったこと
・アンチ・ドーピング(TUEに関する手続の遂行を含む。)に関し,特に責任者を決めておらず,関係書類の保管にも不備があったこと
6 異議申立ての有無
なし

第5 ジャフェット・アマダーの事例

1 制裁の内容
選手:6か月間の出場停止処分
球団:なし
2 通告日
2018年8月9日
3 検出物質
・クロルタリドン
・フロセミド
4 弁明の内容
・意図的な摂取はない
5 異議申立ての有無
あり
6 備考
本件までの4件については制裁対象者に対する通知自体が公表されていたが,本件以降は制裁対象者に対する通知が公表されなくなったため,弁明の内容等の詳細が不明である。

第6 ジョーイ・メネセスの事例

1 制裁の内容
選手:1年間の出場停止処分
球団:なし
2 通告日
2019年6月27日
3 検出物質
・3‘-hydroxystanozolol
・16β-hydroxystanozolol
4 弁明の内容
・意図的な摂取はない
5 異議申立ての有無
なし

第7 サビエル・バティスタの事例

1 制裁の内容
選手:6か月間の出場停止処分
球団:なし
2 通告日
2019年9月3日
3 検出物質
・clomifene(クロミフェン)
・hydroxyclomifene(ヒドロキシクロミフェン)
4 弁明の内容
・意図的な摂取はない
5 異議申立ての有無
なし

2018年8月14日公開
2019年6月29日,同年9月29日加筆

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