あのなつ 2

タクシーの運転手さんに「甲子園球場まで」って行き先を告げるの、なんかよかった。

下道でなく高速を使ってもらって、とにかくはやく列に並ばなくては、とおもっていたな。そんな中でも、目に映る流れてく景色はなんだか映画のワンシーンみたいで そのどれもが初めて見るものだということがより高揚感を引き立てていた。

旅をしているのだ、とおもった。

球場周辺に着くと、人の影がまばらに見えた。「あの辺りから、だいたいいつも並んでる人がいますねえ」「ではここで」というふうにタクシーを降り、教えてくれた場所を目指す。

が、近づくにつれ人の数に圧倒される。焦る。

おいおいめちゃ人いるやんけ!っていうかこれ、どこが最後尾?どの列がどの方面のどの席狙い?おろおろしながら見つけた整備員さんに聞いて1塁側のアルプス席の最後尾に腰を下ろした。応援校が敗退してしまったので 決勝はどちらの席に付くか悩んだのだけど、なんとなくテレビとかでも星稜を応援しているひとのほうが多いムードを感じていたから、わたしは履正社を応援しようと決めたのだった。両校ともがんばれ!とおもっていたのだけど、どうしても特別応援席かアルプス席で観たかったので どちらかを決めなくてはならなかった。

やっぱり勘は当たっていたらしい。特別応援席を諦めてアルプス席の列に並んだけど、これでも本当にチケットが取れるか分からなかった。まだ暗い、橋の下みたいなところ。真夏なのにコンクリートがひんやりと冷たくて、わたしの周りのひとたちは少人数で来てる人が多くて会話もあまりない。向こう側には、いつから並んでいるのだろう きっとうんと早く来た人たちだ。ビニールシートをガムテープで止めて場所取りをしている人もいる、横になって寝ている人もいる。すごいな 毎年こんな光景が繰り広げられているのか。

腰を下ろしてから5分もせずにだったとおもうけど、わたしのうしろに女の人がひとり並んだ。小柄なひとだ。わたしの他にひとりで来ている女性を(少なくともこの列から見えるところには)見なかったから、ちょっとうれしくなった。それからすぐ、トイレに行きたいので荷物を見ていてくれませんか、とたのまれた。それを引き受け、そうかこういう問題もあるのかとぼんやりとかんがえる。それから10分くらいでそのひとは帰ってきたんだっけな。

その後ろには若いお兄ちゃんがひとり。その後ろには小学3.4年生くらいの兄弟だったかな?そっか、少年野球とかやってる子からしたら、ここは憧れの舞台だもんね。きっと、ここに来ることを夢見て、学校とかも決めるんだろうなあ。それにしてもこんなちっちゃいのに、ふたりで来たのかな?すごいね、えらいね。チケット取れるといいねえ。


‥不安だ。チケット取れるのかな。そわそわ。


ええい!わたしは少しだけかんがえて、後ろに並んだお姉さん(荷物の番を頼んできたお姉さん)に声をかけてみることにした。

「あの‥話しかけても大丈夫ですか?」

お姉さんはめちゃくちゃ感じの良いひとで、明るく応えてくれた。若干の緊張が一気にほぐれて、わたしはお姉さんに、何度か甲子園観戦に来ているのかを質問する。じぶんは初めてで、この位置でチケットが取れるのか不安なんです とも。

すると驚くことに、お姉さんはなんと甲子園観戦常連中の常連だった。お姉さんによると、この位置ならチケット取れるでしょう、と。よ、よかった‥それならきっと大丈夫だ!!わたしは安心しきって、それからたくさん話をした。このあと彼氏さんと合流する予定だということや、過去の甲子園の話。そしてわたしは自分がここまで来た経緯など。あと持ってきてたじゃがりこ一緒に食べた。

いつのまにか夜は明けていて、焦がすような太陽の光が 体の右側だけに当たるような形で顔を出していた。あんなに暗くてひんやりとしていたのに嘘みたい。列から逸れるわけにはいかないから、タオル被せたりしてどうにか日に焼けないように四苦八苦していた。結局めっちゃ焼けたけどね。


そしてわたしはお姉さんと、その彼氏さんとの3人で、甲子園決勝を観戦することになる。



続くね。







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