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『こっち向いてよ向井くん』雄弁に語る赤楚衛ニの瞳

8月2日に4話の放送を迎えた赤楚衛ニ主演『こっち向いてよ向井くん』。35歳オトコの恋愛まちがい探しと銘打たれた本作は、回を増すごとに令和の恋愛ドラマの代表作になる予感を感じさせる。

男女という単純な枠組みに収まらないそれぞれの人生が形成した価値観の違いによる恋愛感や結婚感のずれ。波瑠が演じる坂井戸洸稀の「“女の子”なんて人格はないの。人それぞれ、相手に合わせて考えて」など、恋愛の本質を突くセリフにはそれそれ!と頷きたくなる。

この恋愛ドラマの中心にいる向井くんはモノローグで心情を語りながら、コロコロ変わる表情で、感情を見せていく。感情を雄弁に語る瞳を見ていると、これは赤楚衛ニにしか演じられない役柄であると感じさせられる。この瞳が語る芝居こそ、彼の演技力の真価なのだ。

まず彼の演技力を世に知らしめたのは、単独初主演を勤めた『チェリまほ』こと、『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』だろう。触るだけで人の気持ちがわかるようになってしまった主人公安達清が、会社のエース黒沢優一から思いを寄せられていることを知ってしまう。思いがけず同性から恋心を向けられ戸惑う心情を、丁寧なモノローグと表情で語る。

戸惑いから始まり、徐々に黒沢に心を開いていくという感情のグラデーションを語る赤楚の瞳は非常に雄弁だ。彼の瞳には、セリフで語る以上の感情が溢れていた。日本のみならず海外でも人気を博したこともうなづけるほどの演技力。本作をきっかけに出演作品が増えていったことも、当たり前だろう。

本作をきっかけにブレイクした赤楚は、いつ休んでいるの?と心配になるほど、次々と出演作を増やしていった。『彼女はキレイだった』(カンテレ・フジテレビ系)、『SUPER RICH』(フジテレビ系)、『石子と羽男―そんなコトで訴えます?―』(TBS系)など、民放局のドラマでは、それぞれに異なった役柄で魅力発揮。2022年は連続テレビ小説『舞いあがれ!』(NHK総合)で福原遥演じるヒロインの幼なじみにして夫ととなる梅津貴司役に抜擢された。2023年春クールでは、『風間公親-教場0-』(フジテレビ系)と『ペンディングトレイン―8時23分、明日 君と』(TBS系)の2作に出演。8月には、Netflix配信映画『ゾン100〜ゾンビになるまでにしたい100のこと〜』の主演を務めている。

『チェリまほ』以降に出演した作品では、赤楚のさまざまな魅力を見ることができる作品が多かった。役ごとに印象を操り、ときにかわいく、ときにまじめに、ときに熱血に役柄を表現していた。赤楚自身の魅力を保ったまま、どんな作品にも役柄にも染まる。これも赤楚の芝居の魅力だろう。

一方、『こっち向いてよ向井くん』の向井くんは、最近では珍しく特定の印象を持たないナチュラルな人物だ。どこにでもいるだろうと感じさせる人物設定や、モノローグとともに表情で見せていく芝居を見ていると出世作の『チェリまほ』を思い出してしまう人も多いのではないだろうか。コロコロ変わる表情と、どこかコミカルに見える身体の動き、戸惑いも喜びも全部ダダ漏れで雄弁に語る瞳。『こっち向いてよ向井くん』は、赤楚の芝居の魅力の原点に触れさせてくれる作品なのだ。

深夜ドラマ主演から始まり、さまざまな作品で魅力を見せてきた赤楚が、満を持してGP帯初主演を務める本作。『チェリまほ』以降に演じたさまざまな役柄を経て、赤楚の演技力はさらに磨き上げられてきた。『こっち向いてよ向井くん』では、あの潤んだ大きな瞳でこれまで以上に深い感情を表現してくれるだろう。




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