私もかつて若い母親だった フロリダプロジェクト
一昨年まで北フロリダのペンサコーラに1年弱、フロリダ最南端のキーウェストに2年住んでいたので、映画「フロリダプロジェクト」の風景が懐かしい。アラバマの州境にあるペンサコーラの雰囲気はもっと今住んでいるサウスカロライナの雰囲気に似ていて、ディズニーリゾートのあるフロリダオーランドが舞台の「フロリダプロジェクト」の空気はどちらかというとキーウェストに近いかもしれない。多くの観光客が訪れるトロピカルパラダイス。そのパラダイスで貧困ぎりぎりで生きている若い母親のヘイリーと6歳のムーニーを描いた映画が「フロリダプロジェクト」。
言葉遣いが悪く喧嘩早い無職のシングルマザーのヘイリーを劇中「クズな母親」に描くことは簡単だったろうに、娘のムーニーの目線から描かれているので、完璧な人間ではないものの娘を愛し精一杯のやり方で(間違えた方法でも)娘を守ろうとする母親像に誰もが大なり小なり感情移入できるのは監督ショーンベイカーの一貫したヒューマニティを持った描写ゆえだろう。「人間は皆完璧ではないけれど、愛に値するし、誰もが助けに値する。」
客にセクシャルなサービスを提供するように求められたエキゾティックダンサー(ストリップダンサー)のヘイリーは、それを断ると仕事をクビになり、無職になったことで今まで貰えていたTANF(貧困家庭一時扶助)を打ち切られ、結局売春の仕事に手を出す。結果体を売ってまで守ろうとしたムーニーとの生活も政府に取り上げられてしまう。誰もが助けに値するはずなのに、政治は必ずしも助けが必要な人間を助けないという残酷。
キーウェストに住んでいた時に、うちの長女の親友の家族が、4歳の男の子と6歳の女の子の姉弟を養子縁組した。二人とも養子縁組前に名乗っていたファーストネームをミドルネームにして、新しく貰った名前をファーストネームに使い新しい家族との生活を始めていた。事情は全く分からないのでジャッジメンタルになりたくないけれど、血の繋がった親御さんは子供たちに名前をつけたときは、子供たちの幸せを願いながら名前をつけただろうことを想像すると胸が痛んだこと、そして素晴らしい家族に迎えられた幸運な姉弟の幸せを願わずにはいられなかったことを思い出す。
私もかつて若くて向こう見ずな母親だった。たくさんの間違いを犯しながら子供と生きて来た。歳を重ねた今の私だったら、もっと上手にもっと母親らしく子供を育てることが出来ただろうにと思うものの、残念ながらあの頃の私がまだ子供で、間違いを犯し転んで痛い思いをしながら大人にならなきゃいけなかった。
私の人生がヘイリーの人生のように転がり落ちずに済んだのは、家族のサポートとちょっとだけの運だったのではと思っている。
なんとなくNetflixで目に入り鑑賞した映画の、ダメな若い母親に愛を持った視線で描いた監督ショーンベイカーの優しさと希望に溢れたエンディングに、ダメな若い母親だった私でも「愛されるに値する存在」だったし、過去に犯した間違いに眠れない夜があっても、愛を信じて前に進んで生き続けて良いんだ、何故なら間違えたやり方でもそこに愛はあったのだからと励まされた。良作。
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