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マフラー 5

○月×日
ボートで勝ったので明るいうちから飲むヤニで黄色く成った壁の品書きを見ているとアルコールの治療をしているのに何で飲んでいるのか不思議に成り最終レースまで粘る積もりだったが止めて帰る

○月×日(夕方)
出勤前の女がカレンダーに○印を付けて「凄い!お酒を止めてから○○日たった」と喜んでいる俺は後ろめたくて煙草に火を付けて目を合わさないようにしていたらS村から電話が入り面子がそろわないから来ないかと誘われたので出かけた、雀荘ではS村とY埼とマスターが卓を囲んでいたS村は3人打ちが専門で回転が速くて以前は俺も好きだったが酒を止めてから、どうも今一つ乗りが良くない景気ずけに一杯やるかと考えたが女の顔が浮かぶので気まずい、ふりの客が入って来たので帰る事にした

○月×日
大家が庭で焚き火をして消防車、救急車、パトカー、救急ガスが来て大騒ぎに成る落ち葉で芋を焼いていたらしい章介が繭に成ってから少し頭のタガが緩んだのかも知れない家賃の催促に来なければ良いと思う

○月×日
このところ晴天続きなので近所の公園まで散歩、ローソンのトリップに引っかかり酒とからあげクンレッドを購入210mのワンカップ2本をベンチで一気飲みし、からあげクンレッドを食べているとハトが群がって来たので細かくちぎって与えたタバコで一服しながらハト達の共食い争奪戦を鑑賞していたら大きな黒猫が俺の前に座り「ナニヤッテンダオマイ」と言った

○月×日
冷静な分別の付く自分と変なものを見たり聞いたりする自分が存在している、その境目はアルコールという薄いシャボン玉の膜のようなとても、あやふやで壊れやすいものだ、それでも俺の気は保たれている
Mから電話で良いバイトが有るから手伝えと誘いが有ったので駆けつけた、どさ廻りの舞台道具をトラックに積み込む仕事で日給8千円に成ったMがはねたマージンの額を想像してみたが解らないので止めたMに飲みに誘われ立ち飲みで飲んだ、やっぱり労働の後のビールは最高に旨い俺は自分の正当性と矛盾で壊れかけている

○月×日
朝から雨アルコールの専門病院は暗くて冬なのにまるで梅雨時のように湿っている俺の名前が呼ばれ先生と面談「飲んでません」と答える「同じ薬を出しとくから又2週間後に来て」と言われ受付の女の子がいつものように「頑張って下さいね」と励ましてくれるので俺は右目下のチックがばれないようにサングラスをかけた

○月×日
テレビのニュースで、あるカルト教団の集団繭化事件を特集しているぼんやり見ていると女が起きて来た昨夜は気前の良い客が来てさんざん飲まされて二日酔いのようだコーヒーを入れて2人で飲む女の顔がむくんでいる

○月×日
このところ暖冬続きで近所の公園では梅を飛び越え勘違いした桜が少し咲いている夕方まで暖かかったが夜に成って急に冷え込んで来たので俺は女のマフラーを持って駅に迎えに行くため夜の扉を開けた

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