令和6年6月から施行される定額減税。細かいところはFAQを見ていただくとして、定額減税の中で給与に係るところは実務で一番触れるとのろなので、今一度条文の確認をしたいと思います。なお、住民税については割愛いたします。
租税特別措置法 41条の3の3
第1項
「令和6年分の所得税について」とあるので、令和6年に限った制度であることが確認できます。すなわち、令和5年分の精算には使わないし、令和7年に持ち越さないということです。
「その年分の所得税額から、令和6年分特別税額控除額を控除する」としているので、令和6年分の所得税額として課税標準額に税率を乗じた金額から、定額減税の額を控除するということを意味しています。
ただし書き以降は合計所得金額1,805万円、すなわち給与所得だと額面で2,000万円を超える場合は適用がないとしています。
また、本文最初の「居住者」としていることから、非居住者もこの定額減税の適用がないことと読めます。
第2項
定額減税は一人3万円としますとしています。居住者が3万円なのは当然として、扶養親族も居住者に限るとしています。
同一生計配偶者と扶養親族の定義はそれぞれ下記の通りです。
同一生計の配偶者ならばいいというわけでは無く、青色事業専従者等は除外されます。また、合計所得金額が48万円以下であることが求められていますから、配偶者特別控除の適用がある方は除外されます。
扶養親族と控除対象扶養親族は別々に定義をされています。控除対象扶養親族の最初に「扶養親族のうち」とありますから、扶養親族の方が範囲が広く、所得税の扶養控除の対象とならない扶養親族も今回の定額減税の一人3万円には含まれると読めます。
第3項
第2項の規定につき、その判定をいつの時点で判定するかを規定しています。これは控除対象扶養親族の判定と同じなのでよく知るところではないでしょうか。今年お亡くなりになった親族がいて、合計所得金額が48万円以下の場合は定額減税の対象に含まれますので忘れないようにしてください(当然ながら控除対象扶養親族にも含まれますのでご了承ください)。
租税特別措置法 41条の3の7
第1項
給与等から差し引く定額減税に関する取扱いの規定です。「給与等」とは賞与なども含まれます。
まず、令和6年6月1日という時点が定められています。定額減税は令和6年の所得税を対象としつつも、給与から差し引くのは6月からというのは、法案の成立のタイミングや周知のタイミングなどがあるのかもしれません。法案は3月に成立ていますが、定額減税は昨年末の税制改正大綱で公表され、今年の1月から法案が国会に提出されてないのに広報は始まっていたというシュールな現象が起こりました。法律ではないものが成立を見越して政策を進めていくことの是非はさておき、給与については他の所得よりも早く、6月から対応していくということです。
また、「6月1日において」としていることから、同日時点の在職者が対象になっていることを示しており、5月末で退職した者、6月2日以降に就職した者は含まれないことになります。
「主たる給与」というのは、複数の給与の支給を受けている場合は、主たる給与のところから適用を受けて下さいということを示しています。
「同法第四編第二章第一節の規定により徴収すべき所得税の額」とは、所得税法の第四編源泉徴収の第二章給与所得に係る源泉徴収、第一節は源泉徴収義務及び徴収税額を指しており、条文でいうと183条から189条になります。
すなわち、定額減税の適用がある場合の給与から源泉徴収をする所得税額は所得税から給与特別控除額を差し引いた金額とするとしています。
ここでいう「給与特別控除額」は3項で定義をしていますが、定額減税を指します。
定額減税は年末調整で一括して処理をしていいかどうかといった議論はよく目にしますが、条文では「同法第四編第二章第一節の規定により徴収すべき所得税の額は、当該所得税の額に相当する金額から給与特別控除額を控除した金額に相当する金額とする。」としているので、法律上その議論の余地はありません。
もう一点注意すべき点があります。
定額減税は合計所得金額1,805万円を超える者は先述の通り適用対象から除外されるはずですが、この41条の3の7にはその旨の記載はありません。したがって、この除外される者の源泉徴収税額も定額減税適用後の金額を源泉徴収税額とみなします(4項)。
定額減税の適用がないのに定額減税の適用があるように従来の源泉所得税額から差し引かれた者は、適用されたようになっているこの定額減税の額をどうするのかというと、確定申告でこの差し引かれた定額減税分を戻す手続きをすることになります。定額減税の適用がないのに差し引いて返さないといけないのは正直煩雑でしかないので、ここは法律で何らかの手当ができなかったのかと思ってしまいます。
第2項
1項は6月1日以降最初に支給する給与に関する取扱いを規定していましたが、2項では、1回目で引ききれない定額減税の残額をそれ以降の給与等から差し引いていくことを規定しています。
第3項
1項に書かれている「給与特別控除額」とは3万円(=定額減税)としています。そして、給与を受ける者は自身の定額減税に加え、扶養している者を加えた金額をもって給与特別控除額とするとしています。
1号以下はその範囲を示しています。箇条書きにするとこうなります。
① 源泉控除対象配偶者
② 控除対象扶養親族
③ 同一生計配偶者(①以外)
④ 扶養親族(②以外)
②~④は先述していますので、①だけ確認をしましょう。
現行、給与の支給を受ける者の合計所得金額が900万円を超えると、配偶者控除の適用が受けられなくなります。
源泉控除対象配偶者と源泉控除対象配偶者を除いた同一生計配偶者ということは、この合計所得金額900万円を超える者の配偶者も定額減税の対象に含めることを示しています。
第4項
定額減税控除の金額を徴収すべき所得税額とみなすとしています。
まとめ
ほんの一部ではありますが、以上のように見ていくと、定額減税FAQは条文をほぼそのまま解説しているものだと理解できると思います。
また、FAQには未払給与の取扱いなどの項目がありますが、定額減税の有無にかかわらず従来の所得税、源泉徴収の取扱いが改めて書いてあるものがいくつかあります。これらは源泉所得税の取扱いの復習として読みつつ、定額減税ならではの論点はしっかり読まれるのをお勧めします。
実務の対応をどうするかは様々あると思いますが、FAQに一喜一憂せず、たまには条文を読んでみるのもいいかなと思います。