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定額減税について

令和6年6月から施行される定額減税。細かいところはFAQを見ていただくとして、定額減税の中で給与に係るところは実務で一番触れるとのろなので、今一度条文の確認をしたいと思います。なお、住民税については割愛いたします。

租税特別措置法 41条の3の3

租税特別措置法(令和6年6月1日施行) 41条の3の3
(令和六年分における所得税額の特別控除)

居住者令和六年分の所得税については、その者のその年分の所得税の額から、令和六年分特別税額控除額を控除する。ただし、その者のその年分の所得税に係るその年の合計所得金額(所得税法第二条第一項第三十号の合計所得金額をいう。以下この節において同じ。)が千八百五万円を超える場合については、この限りでない。

 前項に規定する令和六年分特別税額控除額は、居住者について三万円(同一生計配偶者(所得税法第二条第一項第三十三号に規定する同一生計配偶者をいい、居住者に限る。以下この節において同じ。)又は扶養親族(同条第一項第三十四号に規定する扶養親族をいい、居住者に限る。以下この節において同じ。)を有する居住者については、三万円に当該同一生計配偶者又は当該扶養親族一人につき三万円を加算した金額)とする。

 前二項の場合において、その者が同一生計配偶者又は扶養親族に該当するかどうかの判定は、その年十二月三十一日(その居住者がその年の中途において死亡し、又は出国(所得税法第二条第一項第四十二号に規定する出国をいう。以下この項において同じ。)をする場合には、その死亡又は出国の時)の現況による。ただし、その判定に係る者がその当時既に死亡している場合は、その死亡の時の現況による。

4項以下省略

e-gov 租税特別措置法 施行日令和6年6月1日

第1項

居住者令和六年分の所得税については、その者のその年分の所得税の額から、令和六年分特別税額控除額を控除する。ただし、その者のその年分の所得税に係るその年の合計所得金額(所得税法第二条第一項第三十号の合計所得金額をいう。以下この節において同じ。)が千八百五万円を超える場合については、この限りでない。

「令和6年分の所得税について」とあるので、令和6年に限った制度であることが確認できます。すなわち、令和5年分の精算には使わないし、令和7年に持ち越さないということです。
「その年分の所得税額から、令和6年分特別税額控除額を控除する」としているので、令和6年分の所得税額として課税標準額に税率を乗じた金額から、定額減税の額を控除するということを意味しています。

ただし書き以降は合計所得金額1,805万円、すなわち給与所得だと額面で2,000万円を超える場合は適用がないとしています。
また、本文最初の「居住者」としていることから、非居住者もこの定額減税の適用がないことと読めます。

第2項

前項に規定する令和六年分特別税額控除額は、居住者について三万円(同一生計配偶者(所得税法第二条第一項第三十三号に規定する同一生計配偶者をいい、居住者に限る。以下この節において同じ。)又は扶養親族(同条第一項第三十四号に規定する扶養親族をいい、居住者に限る。以下この節において同じ。)を有する居住者については、三万円に当該同一生計配偶者又は当該扶養親族一人につき三万円を加算した金額)とする。

定額減税は一人3万円としますとしています。居住者が3万円なのは当然として、扶養親族も居住者に限るとしています。

同一生計配偶者と扶養親族の定義はそれぞれ下記の通りです。

所得税法2条33号
同一生計配偶者 居住者の配偶者でその居住者と生計を一にするもの(第五十七条第一項(事業に専従する親族がある場合の必要経費の特例等)に規定する青色事業専従者に該当するもので同項に規定する給与の支払を受けるもの及び同条第三項に規定する事業専従者に該当するもの(第三十三号の四において「青色事業専従者等」という。)を除く。)のうち、合計所得金額が四十八万円以下である者をいう。

同一生計の配偶者ならばいいというわけでは無く、青色事業専従者等は除外されます。また、合計所得金額が48万円以下であることが求められていますから、配偶者特別控除の適用がある方は除外されます。

所得税法2条34号
扶養親族
居住者の親族(その居住者の配偶者を除く。)並びに児童福祉法(昭和二十二年法律第百六十四号)第二十七条第一項第三号(都道府県の採るべき措置)の規定により同法第六条の四(定義)に規定する里親に委託された児童及び老人福祉法(昭和三十八年法律第百三十三号)第十一条第一項第三号(市町村の採るべき措置)の規定により同号に規定する養護受託者に委託された老人でその居住者と生計を一にするもの(第五十七条第一項に規定する青色事業専従者に該当するもので同項に規定する給与の支払を受けるもの及び同条第三項に規定する事業専従者に該当するものを除く。)のうち、合計所得金額が四十八万円以下である者をいう。

所得税法2条34の2号
控除対象扶養親族
扶養親族のうち、次に掲げる者の区分に応じそれぞれ次に定める者をいう。
イ 居住者 年齢十六歳以上の者
ロ 非居住者 年齢十六歳以上三十歳未満の者及び年齢七十歳以上の者並びに年齢三十歳以上七十歳未満の者であつて次に掲げる者のいずれかに該当するもの
(1) 留学により国内に住所及び居所を有しなくなつた者
(2) 障害者
(3) その居住者からその年において生活費又は教育費に充てるための支払を三十八万円以上受けている者

扶養親族と控除対象扶養親族は別々に定義をされています。控除対象扶養親族の最初に「扶養親族のうち」とありますから、扶養親族の方が範囲が広く、所得税の扶養控除の対象とならない扶養親族も今回の定額減税の一人3万円には含まれると読めます。

第3項

前二項の場合において、その者が同一生計配偶者又は扶養親族に該当するかどうかの判定は、その年十二月三十一日(その居住者がその年の中途において死亡し、又は出国(所得税法第二条第一項第四十二号に規定する出国をいう。以下この項において同じ。)をする場合には、その死亡又は出国の時)の現況による。ただし、その判定に係る者がその当時既に死亡している場合は、その死亡の時の現況による。

第2項の規定につき、その判定をいつの時点で判定するかを規定しています。これは控除対象扶養親族の判定と同じなのでよく知るところではないでしょうか。今年お亡くなりになった親族がいて、合計所得金額が48万円以下の場合は定額減税の対象に含まれますので忘れないようにしてください(当然ながら控除対象扶養親族にも含まれますのでご了承ください)。

租税特別措置法 41条の3の7

租税特別措置法 41条の3の7
(令和六年六月以後に支払われる給与等に係る特別控除の額の控除等)

令和六年六月一日において給与等(所得税法第百八十三条第一項に規定する給与等をいう。以下この条及び次条において同じ。)の支払者から主たる給与等(給与所得者の扶養控除等申告書(同法第百九十四条第八項に規定する給与所得者の扶養控除等申告書をいう。第三項第一号及び第二号並びに次条第二項第二号において同じ。)の提出の際に経由した給与等の支払者から支払を受ける給与等をいう。以下この項及び次項において同じ。)の支払を受ける者である居住者の同日以後最初に当該支払者から支払を受ける同年中の主たる給与等(同年分の所得税に係るものに限り、同法第百九十条の規定の適用を受けるものを除く。次項及び第五項において「第一回目控除適用給与等」という。)につき同法第四編第二章第一節の規定により徴収すべき所得税の額は、当該所得税の額に相当する金額(以下この項及び次項において「第一回目控除適用給与等に係る控除前源泉徴収税額」という。)から給与特別控除額を控除した金額に相当する金額とする。この場合において、当該給与特別控除額が当該第一回目控除適用給与等に係る控除前源泉徴収税額を超えるときは、当該控除をする金額は、当該第一回目控除適用給与等に係る控除前源泉徴収税額に相当する金額とする。

 前項の場合において、給与特別控除額を第一回目控除適用給与等に係る控除前源泉徴収税額から控除してもなお控除しきれない金額(以下この項において「第一回目控除未済給与特別控除額」という。)があるときは、当該第一回目控除未済給与特別控除額を、前項の居住者が第一回目控除適用給与等の支払を受けた日後に当該第一回目控除適用給与等の支払者から支払を受ける令和六年中の主たる給与等(同年分の所得税に係るものに限り、所得税法第百九十条の規定の適用を受けるものを除く。以下この項において「第二回目以降控除適用給与等」という。)につき同法第四編第二章第一節の規定により徴収すべき所得税の額に相当する金額(以下この項において「第二回目以降控除適用給与等に係る控除前源泉徴収税額」という。)から順次控除(それぞれの第二回目以降控除適用給与等に係る控除前源泉徴収税額に相当する金額を限度とする。)をした金額に相当する金額をもつて、それぞれの第二回目以降控除適用給与等につき同節の規定により徴収すべき所得税の額とする。

3前二項に規定する給与特別控除額は、三万円(次に掲げる者がある場合には、三万円にこれらの者一人につき三万円を加算した金額)とする

 給与所得者の扶養控除等申告書に記載された源泉控除対象配偶者(所得税法第二条第一項第三十三号の四に規定する源泉控除対象配偶者をいい、居住者に限る。第四十一条の三の九第三項第一号において同じ。)で合計所得金額の見積額が四十八万円以下である者

 給与所得者の扶養控除等申告書に記載された控除対象扶養親族(所得税法第二条第一項第三十四号の二に規定する控除対象扶養親族をいい、居住者に限る。次条第二項第二号及び第四十一条の三の九第三項第二号において同じ。)

 第五項に規定する申告書に記載された同一生計配偶者(第一号に掲げる者を除く。)

 第五項に規定する申告書に記載された扶養親族(第二号に掲げる者を除く。)

 第一項又は第二項の規定の適用がある場合における所得税法その他の所得税に関する法令の規定の適用については、第一項又は第二項の規定による控除をした後の金額に相当する金額は、それぞれ所得税法第四編第二章第一節の規定により徴収すべき所得税の額とみなす。

5項以下省略

e-gov 租税特別措置法 施行日令和6年6月1日


第1項

令和六年六月一日において給与等(所得税法第百八十三条第一項に規定する給与等をいう。以下この条及び次条において同じ。)の支払者から主たる給与等(給与所得者の扶養控除等申告書(同法第百九十四条第八項に規定する給与所得者の扶養控除等申告書をいう。第三項第一号及び第二号並びに次条第二項第二号において同じ。)の提出の際に経由した給与等の支払者から支払を受ける給与等をいう。以下この項及び次項において同じ。)の支払を受ける者である居住者の同日以後最初に当該支払者から支払を受ける同年中の主たる給与等(同年分の所得税に係るものに限り、同法第百九十条の規定の適用を受けるものを除く。次項及び第五項において「第一回目控除適用給与等」という。)につき同法第四編第二章第一節の規定により徴収すべき所得税の額は、当該所得税の額に相当する金額(以下この項及び次項において「第一回目控除適用給与等に係る控除前源泉徴収税額」という。)から給与特別控除額を控除した金額に相当する金額とする。この場合において、当該給与特別控除額が当該第一回目控除適用給与等に係る控除前源泉徴収税額を超えるときは、当該控除をする金額は、当該第一回目控除適用給与等に係る控除前源泉徴収税額に相当する金額とする。

給与等から差し引く定額減税に関する取扱いの規定です。「給与等」とは賞与なども含まれます。

まず、令和6年6月1日という時点が定められています。定額減税は令和6年の所得税を対象としつつも、給与から差し引くのは6月からというのは、法案の成立のタイミングや周知のタイミングなどがあるのかもしれません。法案は3月に成立ていますが、定額減税は昨年末の税制改正大綱で公表され、今年の1月から法案が国会に提出されてないのに広報は始まっていたというシュールな現象が起こりました。法律ではないものが成立を見越して政策を進めていくことの是非はさておき、給与については他の所得よりも早く、6月から対応していくということです。

また、「6月1日において」としていることから、同日時点の在職者が対象になっていることを示しており、5月末で退職した者、6月2日以降に就職した者は含まれないことになります。

「主たる給与」というのは、複数の給与の支給を受けている場合は、主たる給与のところから適用を受けて下さいということを示しています。

「同法第四編第二章第一節の規定により徴収すべき所得税の額」とは、所得税法の第四編源泉徴収の第二章給与所得に係る源泉徴収、第一節は源泉徴収義務及び徴収税額を指しており、条文でいうと183条から189条になります。
すなわち、定額減税の適用がある場合の給与から源泉徴収をする所得税額は所得税から給与特別控除額を差し引いた金額とするとしています。
ここでいう「給与特別控除額」は3項で定義をしていますが、定額減税を指します。

定額減税は年末調整で一括して処理をしていいかどうかといった議論はよく目にしますが、条文では「同法第四編第二章第一節の規定により徴収すべき所得税の額は、当該所得税の額に相当する金額から給与特別控除額を控除した金額に相当する金額とする。」としているので、法律上その議論の余地はありません。

もう一点注意すべき点があります。
定額減税は合計所得金額1,805万円を超える者は先述の通り適用対象から除外されるはずですが、この41条の3の7にはその旨の記載はありません。したがって、この除外される者の源泉徴収税額も定額減税適用後の金額を源泉徴収税額とみなします(4項)。

定額減税の適用がないのに定額減税の適用があるように従来の源泉所得税額から差し引かれた者は、適用されたようになっているこの定額減税の額をどうするのかというと、確定申告でこの差し引かれた定額減税分を戻す手続きをすることになります。定額減税の適用がないのに差し引いて返さないといけないのは正直煩雑でしかないので、ここは法律で何らかの手当ができなかったのかと思ってしまいます。

第2項

2 前項の場合において、給与特別控除額を第一回目控除適用給与等に係る控除前源泉徴収税額から控除してもなお控除しきれない金額(以下この項において「第一回目控除未済給与特別控除額」という。)があるときは、当該第一回目控除未済給与特別控除額を、前項の居住者が第一回目控除適用給与等の支払を受けた日後に当該第一回目控除適用給与等の支払者から支払を受ける令和六年中の主たる給与等(同年分の所得税に係るものに限り、所得税法第百九十条の規定の適用を受けるものを除く。以下この項において「第二回目以降控除適用給与等」という。)につき同法第四編第二章第一節の規定により徴収すべき所得税の額に相当する金額(以下この項において「第二回目以降控除適用給与等に係る控除前源泉徴収税額」という。)から順次控除(それぞれの第二回目以降控除適用給与等に係る控除前源泉徴収税額に相当する金額を限度とする。)をした金額に相当する金額をもつて、それぞれの第二回目以降控除適用給与等につき同節の規定により徴収すべき所得税の額とする。

1項は6月1日以降最初に支給する給与に関する取扱いを規定していましたが、2項では、1回目で引ききれない定額減税の残額をそれ以降の給与等から差し引いていくことを規定しています。

第3項

前二項に規定する給与特別控除額は、三万円(次に掲げる者がある場合には、三万円にこれらの者一人につき三万円を加算した金額)とする。

 給与所得者の扶養控除等申告書に記載された源泉控除対象配偶者(所得税法第二条第一項第三十三号の四に規定する源泉控除対象配偶者をいい、居住者に限る。第四十一条の三の九第三項第一号において同じ。)で合計所得金額の見積額が四十八万円以下である者

 給与所得者の扶養控除等申告書に記載された控除対象扶養親族(所得税法第二条第一項第三十四号の二に規定する控除対象扶養親族をいい、居住者に限る。次条第二項第二号及び第四十一条の三の九第三項第二号において同じ。)

 第五項に規定する申告書に記載された同一生計配偶者(第一号に掲げる者を除く。)

 第五項に規定する申告書に記載された扶養親族(第二号に掲げる者を除く。)

1項に書かれている「給与特別控除額」とは3万円(=定額減税)としています。そして、給与を受ける者は自身の定額減税に加え、扶養している者を加えた金額をもって給与特別控除額とするとしています。

1号以下はその範囲を示しています。箇条書きにするとこうなります。
① 源泉控除対象配偶者
② 控除対象扶養親族
③ 同一生計配偶者(①以外)
④ 扶養親族(②以外)

②~④は先述していますので、①だけ確認をしましょう。

所得税法 2条33号の4
源泉控除対象配偶者
居住者(合計所得金額が九百万円以下であるものに限る。)の配偶者でその居住者と生計を一にするもの(青色事業専従者等を除く。)のうち、合計所得金額が九十五万円以下である者をいう。

現行、給与の支給を受ける者の合計所得金額が900万円を超えると、配偶者控除の適用が受けられなくなります。
源泉控除対象配偶者と源泉控除対象配偶者を除いた同一生計配偶者ということは、この合計所得金額900万円を超える者の配偶者も定額減税の対象に含めることを示しています。

第4項

第一項又は第二項の規定の適用がある場合における所得税法その他の所得税に関する法令の規定の適用については、第一項又は第二項の規定による控除をした後の金額に相当する金額は、それぞれ所得税法第四編第二章第一節の規定により徴収すべき所得税の額とみなす。

定額減税控除の金額を徴収すべき所得税額とみなすとしています。

まとめ

ほんの一部ではありますが、以上のように見ていくと、定額減税FAQは条文をほぼそのまま解説しているものだと理解できると思います。
また、FAQには未払給与の取扱いなどの項目がありますが、定額減税の有無にかかわらず従来の所得税、源泉徴収の取扱いが改めて書いてあるものがいくつかあります。これらは源泉所得税の取扱いの復習として読みつつ、定額減税ならではの論点はしっかり読まれるのをお勧めします。

実務の対応をどうするかは様々あると思いますが、FAQに一喜一憂せず、たまには条文を読んでみるのもいいかなと思います。

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