俺は本当にその100bb All-inにcallして良かったのか。 ~MTTにおけるスタックの必要成長率と分散の話~

前段長いので要点読みたい人は目次からジャンプしてください。おっさんは前段を読んでほしくて書いたまであるけど笑


lv.6 400-800(800)の事件


2024年7月13日 JOPT TOKYO #2 Main Event Day1C turboの序盤、パッシブなプレイヤーから順調にチップを剥がし、Calling StationにEVロスを押し付けながらご機嫌にチップを増やしていたときに事件はおきた。

HJ(A2hh) open 2bb / c
BB(hero KhKc) r 6bb
flop: Qh5h2c
BB: bet 6bb / c
HJ: All-in 120bb
turn: 3h

 

200年後のポーカーセオリーでも採用されなさそうなサイズのAll-inに直面しながらも、俺は冷静だった。これはエクスプロイトチャンスである。

このHJが現物のバリューハンドを持っているときには、flopでは小さなバリュー、turnでは50%以上のサイズを使うところは何度も目撃していたし、ドローハンドの際に極端なベットを行って大きなポットを得ようとする典型的脳汁プレイヤーであることは良く理解していた。

自分のハンドはKKで、ハートのアウツを1枚ブロックしている。相手がセットや2Pを持っておらず、最悪のケースで2ヒットのA2sのヒットフラドロだと読み、実際にその読みは的中した。エクイティを頭の中でざっと計算した結果、このAll-inにcallするのは合理的であると判断した。(51.9%~58.3に100bbを預ける決断をした)結果、turnで最悪のカードが落ちて、いつも通りの嘆き〜エクイティ勝ってるAll-inで負けました〜をポーカー仲間のグループLINEに投稿する。こんな事があったんですよと、鉄強と呼ばれる人たちに愚痴る。

「それは仕方ない。お前は正しいプレイをした。」「大きくEVプラスのプレイだから正当化されるよね」「勝ちを狙うならその分散は受け入れなきゃ」

慰めの言葉を聞きながらラーメンを啜り、車を運転して家に帰る車中、悔しさで新宿の町並みが涙に滲んだ。

半年前、俺はポーカーを始めたばかりの脳汁宇宙ポーカープレイヤーで、強レグからEVロスをありがたく受け取るだけのフィッシュプレイヤーだった。フィッシュも半年すれば成長するもので、EQ負けAll-inをコールする側から、均衡の端っこに指先がかかったくらいまでは来れたのではないかと思う。直近のflop, turn All-in対決においても、EQが負けているケースにほとんど遭遇しなくなった。が、しかしまだまだクソ弱い。たくさんある弱さの源泉を見つけたい。

ふと思った、あのAll-inは本当にcallするべきだったのだろうかと。

僅かなEQのアドバンテージを、大きいpotでプレイすることで見かけ上大きくなったEVに騙されたのではないか。
脳汁ニキだと思っていた彼は、オーバーポケットへのIndifferentを作るために(事実、ポットに入った額を大きく上回るベットのせいでEV上はほぼIndifferentだった)All-inを選択したのではないか。(まあそんな訳無いと思うけど)

基準が必要であると思った。
このようなケースに遭遇した際に、明確かつ自分にとって合理的に判断でき、磨き込みをかけられるモデルの土台を作らなければならない。

咽び泣く男は、特定ブラインドにおける目標スタックサイズから逆算した際に、ブラインドごとの要求成長率から許容される「エクイティは勝っているが、50%~60%程度しかないAll-inをプレイ可能なポットサイズの基準値」が求められるのではないかと思いついた。

帰宅後風呂に入って3時を過ぎているが、どうしてもアウトプットしたくてこれを書いている。批判歓迎である。どんどんフィードバックを書いてほしい。ダメ出しコメントの数だけ俺は強くなる。

GTOに基づいたポーカーの勝率分布とσ

ポーカーはGTOに完全に沿ってプレイされた場合、完全確率ゲームとなりその勝敗と獲得スタックは2変量正規分布になる(多分。自信ない。専門家の方居たら指摘してください)

MTTでは常にチップを増やし続けなければならないので、スタック成長の源泉は、GTOからのズレに基づくエクスプロイト or 単純な確率上の上振れである。常にMTTを勝ち上がる鉄強たちののEVの源泉は、不完全情報ゲームであることを利用したFold Equityの獲得とOver Callの誘発、発生頻度を考慮すると特に前者が重要であると考えている。


目標BB数が50のときの、3区間σ, 2σ

表は、JOPT Main Day1のストラクチャをもとに、Day1終了段階で50BB保有していることを目標とした場合のスタック必要成長率を、簡易なモデルで表現したものである。ブラインド傾斜が区間ごとに異なるため、要求BBを一定の割合で減算するのは不適切であると理解しつつ、初期段階のモデルとして許容する。

正規分布の確率密度 / 引用元 Wikipedia

このとき注目したいのは、σ及び2σである。
これは、スタック成長率のブラインド3区間分の標準偏差を表しており、スタック推移を平滑化してグラフにした際のボリンジャーバンドの幅になる。

つまり、成長を起こす前提でスタックサイズを変化させたときに、特定の瞬間を切り取ったチップ量が取り得る振れ幅を示している。

GTOを完全にプレイした際にチップ獲得量と勝率が、2変量正規分布を取るはずという前提に基づくと、2σを超える下振れを次のブラインドスタート時に食らっていると、元のプランに復帰するのが極めて難しくなる(無理してFoldEquityを実現するか、確率の上振れを引かなければいけなくなる)

物事は比較が大切である。
目標BB数を100BBに設定した場合のσを見てみよう。

目標BB数が100のときの、3区間σ, 2σ

目標BB数が50の時と比較して、許容される(許容しなければならない)σの値が大きくなることがわかる。3betのサイズや4betのサイズを工夫し、より大きなポットをプレイして必要成長率を達成していくことが求められる。

この値を元に、再度冒頭のプレイラインを見てみよう。

HJ(A2hh) open 2bb / c
BB(hero KhKc) r 6bb
flop: Qh5h2c
BB: bet 6bb / c
HJ: All-in 120bb
turn: 3h

このときのブラインドは400-800(800)なので基準とすべきσ, 2σに注目してみる。(前後のブラインド傾斜が緩やかなのでボリンジャーバンドが狭くなる関係上、σが小さくなる。前後のブラインドにおけるσの値も参考にすると良いかもしれない)

  • 目標BB50 / 2σ : 6,000(7.5bb)~15,000(20bb弱)程度

  • 目標BB100 / 2σ : 20,000(25bb)~32,000(40bb)程度

我々は優勝を目指しているはずなので、Day2スタート時点で100BBを保有しているポテンシャルがあるだけの、ボラティリティを受け入れなければならない。このような、相対的に大きな分散を許容できる状態であっても、preflopや、flopでAll-inなど、未来のEQ変動が激しい(=ボラティリティ大きい)状態では、許容できるのは自分のチップを40bbくらいポットに入れる程度(80bbポット)が限界であると考えられる。(すでにナッツ級のハンドが完成していたりして、EQが極端に高い=確率上振れを引いている場合はもちろんとにかくpotを大きくする努力が求められる)

つまり結論としては、50%~60%しかないEQに100bbを預けたのはミスプレイということになる。

トーナメントにおいては、まだ勝敗が確定していないAll-inにチップのリスクをさらす局面が何度も求められる。

勝率80%のハンドを、5回All-inですべて勝てる可能性は32%位しかない。
50%そこそこのハンドにアホみたいにデカい金を預けてる場合ではないのである。

7月14日追記
PPC準優勝の友人から「これ全部foldしてたらk5に対するpreflopとflopの100bbAIが正当化されることになる」と指摘。現実にはあまり起こらなさそうだけど、やられたらエクイティ勝ってそうなところは気合でcallするしかないですね・・・

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