Blue&Red~相反するもの~3
そんな形で、俺とマキは知り合った。つい数週間前のケンカといい、余りにも話が出来すぎている。俺は多少、疑心暗鬼になっていた。それでもマキは
「本当にここ、美味しいんだよ♪」
と、極めて楽しそうにしている。こないだの帳尻会わせみたいなものか。俺は、もう考えるのも面倒になってきたから「敢えて」そう、思うことにした。
「いつもここら辺、よく来るの?。」
「いや、たまたまだよ。普段は夜が多いな。」
「飲み?。さてはキャバクラとかニュークラとか?。」
「あぁ、まぁそんなもんだ。最近…でもないが女と別れてさ。つまんねぇんだ、毎日な。」
「別れたのっていつ?。」
「うーん、もう3ヶ月位になっかな。」
「ウッソ!?。私もそれ位に別れたんだよね~♪」
「マジか!?。お互い、御愁傷様って感じだな笑。」
「ふふっ、そうだね♪」
お互い飲みながら、俺は気づけばマキに、こんなことを話していた。向こうの気遣いと云えど、初対面だ。いきなり過去の恋愛話をするバカがいるか。「俺は本当に、頭わりぃな」と思っていた。けれど何故か「妙」に落ち着けて居心地の良い、楽しい時間であった。
ふと気づけば、二時間近くも話し込んでいた。俺は普段、喫茶店に入っても精々30分が限界の男だ。食うもん食って、さっさと飲んで、軽く駄弁って帰る、そんなスタイルの人間なのだ。時計を見てやっと気付くレベルにまで、二人の話は花を咲かせていた。
「やっべ。もうこんな時間かよ?。そろそろ行かねぇと。」
「約束でもあるの?。」
「いや。そーゆう訳じゃ無いんだが俺、実家暮らしだからさ。スマホも直したいし、そろそろ行くわ。」
「そっか…なら仕方無いね…。」
「マキは?。一人暮らしなのか?。」
「ううん。私も実家だよ?。何で?。」
「いや、特に意味は無い。何となく、聞いてみただけだ。」
本当に疚しい気持ちなど、欠片も無かった。過去の恋愛話に花を咲かせてこそいたが、お互いに現在の彼女、彼氏の有無には触れていなかったからだ。
俺とマキは店を後にした。マキは、用を足したいから少し待っていてくれと御手洗に向かった。俺はその時に姿を消しても良かったが
「あぁ、したらあそこの喫煙所で煙草吸ってるわ。」
と言った。普段の俺なら、幾ら好意でここまでやって貰っても、そんな言葉は飛び出さない筈なのだが。不思議で仕方がなかった。煙草に火を点け、深く肺に入れ一呼吸する。
「なんだべなーこの感じ。久しく女と駄弁ってなかったし。まぁ、こんなもんか。」と考えていた。
そんなことを考えてるうちに、マキが御手洗から出てきた。随分と早いものだ。やべ、二本目に火を点けたばかりだ。仕方がない。待っててもらうか…。すると突然、マキが喫煙所に入ってきたのだ。
「おいおい、ジェスチャーしたのに待ってるの嫌んなったのか?。わりぃ、すぐ出…」
「ううん。私も吸いたいんだけど…イヤかな…?」
「はっ?。お前煙草吸うのかよ?。だってさっき…。」
「吸わなかったよ?。嫌がる人、多いからね…。」
「はぁ?。いつの時代の話だよ?。妊娠してるならまだしも、俺はそんなん気にしないし。吸えよ。」
「本当に!?。ありがと♪。」
「ずっと、我慢してたのか?。」
「正直、ね。」
「バカなやつ笑。」
「お互い様でしょ?笑。」
俺も珈琲屋にいる最中、全く吸わなかったのだ。流石に初対面で吸うのも失礼だと考えたし、敢えて禁煙席に入っていたのだ。
二人とも喫煙者。
俺はその時、更に気分が落ち着いた。そして二人で煙草を吸い、喫煙所から出た。俺は帰りのJRの切符を買い、改札口の手前まで行く。
「何か、悪かったな。けど今日は楽しか…」
「リュウ!!。」
マキが俺の言葉を遮った。すると
「あのさ、これ私の番号とラインID。良かったら連絡して!!。」
そう言うと、マキはそのメモを俺に渡し、まるでボルトの如くその場を後にした。
「…なんだっての。」
俺はそうぼそりと呟き、帰路に着いた。
途中の駅で降り、携帯ショップに足を運んだ。やはり保険適用内であったから、無償ではあった。ただ、ダメージは大きく全損だった為、代替機を借り再びJRに乗り込み、家路に着いた。
夕飯を終え、「あのメモ」をかざしながらベッドに仰向けになる。
「詐欺にしちゃ、巧妙過ぎるよな?。御手洗もやったら早かったし…まさかこれを書くためにウソを?。まぁ、詐欺っぽかったら通報なり、ブロックすれば良いだけの話か。」そう思い、俺は不馴れな代替機で、取り敢えずID検索だけをかけてみた。
「出たよ…!」
「一ノ瀬真希」。これがフルネームか。俺もラインはフルネーム登録にしていた。
「取り敢えず、送ってみるか。」
「リュウです。今日は何か、悪かった。けど楽しかったよ。ありがとう!」と。当たり障りの無い返事ならこんなものか。これでスパムやら、変なURLなりが届いたら、バックレれば済むだけの話だ。
「送信っと。」
ふぅ…騙されてんのかな俺。こないだライン交換したニュークラ女は返ってこなかったしな…まぁ、それならそれでいっか。そう思い、一服しようと煙草の箱に手を伸ばすと
「トゥルン♪」
ラインが鳴った。オイオイ、マジかよ。けど時間も時間だ。他のツレや友人の可能性も大いに有り得る。最近俺、荒れてるし。俺はそう言い聞かせ、恐る恐るラインを開いた。すると
「マキだよ!。返事ありがとう♪。私も、本当に楽しかったよ♪。これから宜しくね♪。」
そう、書いてあった。「これから」って何だ?。けどまぁ、返さなければ話にならない。俺は
「マジで返ってくるとは思ってなかったわ笑。フルネーム登録にしてたんだね!。宜しくな♪。」
と返した。流石に俺も、何が何だか訳が分からなくなった。返信を終えた途端、煙草に火を点けた。
「トゥルン♪」
また返ってきた。内容を見てみる。
「どうだったウィンドーショッピングは?。つまんなかったろ?笑。」
ツレからだった。
「お前じゃねぇよ!!笑。」俺はふと、そう思ってしまった。まぁ、それでもツレはツレだ。適当に、当たり障りのない内容で返した。最後に「疲れたから今日はもう寝るわ。」と付け加えて。
「トゥルン♪」
「うっせーな!。寝るっつってんのに!」俺はラインを開いた。すると
「そっちもフルネームじゃん笑。宜しくね♪。黒崎龍君♪。」
真希からだった。
俺はとっさに返した。そして一体、何通だろうか。他愛もないラインを繰り返し、最後は「また明日な、おやすみ。」と返し、眠りに就いた。
こうして俺は、ひょんなことで真希とライン交換をし、一夜にして友人関係になった。
~4話へ続く~