異業種放浪記。

以前クラシックだのポップスだのの記事を書いたが、今回はポップスの中でもこういう異業種があるんだよというお話。
ライブハウス、ミュージカル、スタジオミュージシャン、ツアーサポート。私がやってる業種はこの辺りだが、以下はあっちこっち行く私に向けられたネガティブな怨念の数々である。

今でこそ上記の四つ全てに跨って活動しているミュージシャンは少なくないけど、私がやり始めた10年ほど前は、まだまだ各所専業の感が強かった。自分の先生に聞いたところ、そのさらに昔は、例えば歌手のバックバンドというと更に、レコーディングミュージシャンとツアーミュージシャンは別の人達がやってたりしたらしい。

バブル以前→バブル→崩壊後→打ち込み(録音)クオリティの発達→コロナ

と演奏の仕事は、こういう時間感覚で見ると崩壊後以降減る一方。それぞれの畑で専業していたミュージシャンは徐々に他の畑に進出してくる。しかし他を知らない◯◯専業のミュージシャン程、他に対して攻撃的だ。

「普段はどういう仕事が多いの?」
これ罠です。ライブハウスの民に「スタジオとかが多いっすね。」と言うと大変顰蹙。ぶっちゃけた話、賃金の相場がスタジオの方がだいぶ良いので、まずそこに対するやっかみ。そして『ライブは自分の音楽を出す場所、スタジオは自分を殺して需要に応える場所』という壮大な誤解から、ライブハウス民はスタジオ民に対し「あー、そっち系ね…」とか言って溜飲を下げるのである。
また「スタジオなんてギャラのいい仕事をしてる人はライブなんてやってくれないよね…」という落胆からの「あー…」のパターンもある。のでやはり「主にスタジオやってます」は言わない方が吉。

スタジオ、ツアーサポートは割と同じ人達がやってることも多いが、所謂メジャー仕事だと思う。この人達に「ミュージカルやってます。」と言わない方が吉。これはこの10年でだいぶ変わってきたけど、私がやり始めた当時は舞台仕事は大変下に見られており「ミュージカルなんかやってんの…」とメジャーな方々からよく言われていた。理由はよくわからない。1公演あたりの賃金格差なのか、当時ミュージカル専業の人でそんなに上手じゃない人がいたからなのか…なんにせよ腹の立つ話である。あと舞台系はまとめてスケジュールが抑えられる為「舞台系やってると仕事頼みたくても捕まらない」というのはちょっと事実。でもトラ入れたりしてるので、前々から言ってもらえれば全然融通効きますので!ということを関係各所の皆様には声高にお伝えしておきたい。
実際舞台モノは同じ内容を何日も何公演もやるので、そればっかりやってると、アドリブソロなどのジャズ系のスキル、初見読譜能力などが一瞬衰える危険性はある。でも舞台系に限らず『そればっかりずっとやってることの弊害』はどの畑にもある。

舞台系のミュージシャンに何か怨念を向けられた事は無いなそういえば…ミュージカルもやるし、スタジオもやるし、ツアーもやるし、ライブもやるしって人が増えてきたからかな。あとは、他のスタッフから半ばタレント的な扱いをしてもらえるメジャー仕事とは違って、扱いが完全に裏方であり(文句ではなく相対的な話です)舞台稽古、連日本番など結構過酷なので、苦労を知ってる人はみんな優しいのかも。

舞台系ミュージシャンに向けられる視線は最近「舞台ものって普通に難しいし、出来る人って凄いよね」みたいな感じに変わってきたように思う。ミュージカルだけでなく、それ系の仕事の絶対数が増えてきたような気もする。ミュージカルの人には怨念を向けられなくて、メジャーの人から下に見られた経験がある私としては、『メジャーの人が初めてミュージカル仕事やって面食らう』というシチュエーションが大好物だ。またコロナの煽りを一番受けたのがメジャーの人であり、一番しぶとく残った仕事がミュージカルだったりして、その辺りも痛快。

もちろん各業種専業の人全てが怨念に塗れてるわけではなくて、ライブ専業の人でもスタジオ専業の人でも、ネガティブなこと言わない人は沢山いるけど、自分に向けられた怨念ってやっぱり印象に残り易いのでね…こんな経験をするのは私の世代で最後になればいいな。
そして業種入り混じった最近に仕事をし始めた、私と同世代かそれより若い世代は、そんな偏見も無い(多分)のでこれからはこんな悩みは無いはず。未来は明るい。ストップ。怨念。


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