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小学館「学習まんが 世界の歴史」無料公開によせて

 1月7日(木)までの期間限定で小学館「学習まんが 世界の歴史」1~17巻が無料公開されています。

 小学館では2020年3月、『小学館版学習まんが 少年少女日本の歴史』全24巻をインターネット上で無料公開しました。公開期間中には150万人を超える方々に、計1億3000万ページ以上(当社調べ)をご覧いただき、休校期間中の自宅学習にご活用いただけたのではないかと思います。
 そして今回、年末・年始の休みを迎えるにあたり、学習まんが世界史ジャンルNo.1の『小学館版学習まんが 世界の歴史』全17巻を公開します。

☆無料公開の詳細は以下の通りです。
【期間】2020 年12月25 日(金)〜2021年1月7日(木)
【タイトル】『小学館版学習まんが 世界の歴史』電子本棚ページ
【URL】https://sereki-km3.shogakukan.co.jp/

 実に素晴らしい取り組みですね。早速読んでみたところ学習まんがとしてなるほどよくできてるな~と思ったことがあったので書いてみます。

産業革命

 産業革命という抽象的なものごとを分かりやすく伝えるにはどうしたらよいでしょうか。たとえば教科書にはこんなふうに書いてあるはずです。

1773 ジョン・ケイ 飛び杼
1764 ハーグリーブス ジェニー紡績機
1771 リチャード・アークライト 水力紡績機
1779 サミュエル・クロンプトン ミュール紡績機
1785 エドモンド・カートライト 力織機

 たしかにどれも重要な発明ですがこれを羅列するだけでは無味乾燥、ましてや「毛糸はジェニー明日黒み」などと語呂合わせにしても何の意味もありません。では「世界の歴史」ではどうしているでしょう。この中からサミュエル・クロンプトンをピックアップし、彼の幼年期から死に至るまでを伝記仕立てにしているのです。これには唸りました。

 幼くして紡織工の父を亡くしたクロンプトンは、バイオリン弾きの副業をしながらたった一人で長い年月をかけてジェニー紡績機の改良に挑み、アークライト紡績機とのいいとこ取りのハイブリッドに成功しました。工房の秘密を探ろうと梯子で窓を覗き込む人まで現れたといいますが、押しに弱く特許の知識もなかった彼はわずかな寄付金の約束と引きかえに製法を公開してしまいます。息子の放蕩もあり彼が無一文のまま亡くなる頃には世界の紡績機の9割はミュール式になっていました。

FireShot Capture 264 - 世界の歴史 12 産業革命とアメリカの独立 - 世界の歴史無料本棚 - sereki-km3.shogakukan.co.jp

 エンゲルスの「イギリスにおける労働者階級の状態」(岩波文庫)ではミュール紡績機によって世界史上初めて「単純作業だけをする労働者」という大きな階層が誕生し社会が質的に一変したことが描写されています。このようにクロンプトンは波乱に富んだ強力なエピソードを持っており、まんがを読んだ子どもたちはクロンプトンの人生について印象に残るとともに当時の世界で紡績機がいかなる意味を持っていたか、産業革命がその後の世界にどのような影響をもたらしたかもなんとなく理解できるはずです。これは素晴らしい。

FireShot Capture 257 - 自動ミュール精紡機 文化遺産オンライン - bunka.nii.ac.jp

トヨタ産業技術記念館にあるミュール紡績機。

イタリア統一運動

 「イタリア統一の三傑」といえばカヴール、ガリバルディ、マッツィーニであり、その中で最も知られているのはガリバルディです。「赤シャツ隊」という言葉やリンカーンが海を超えて北軍の司令官就任を要請したことなどエピソードも豊富でしょう。しかしこの「世界の歴史」ではガリバルディではなくマッツィーニとその幼馴染であるヤーコポ・ルッフィーニに焦点を当てています。ルッフィーニの名前は日本ではほとんど知られていないと思います。

FireShot Capture 261 - 世界の歴史 13 イタリアとドイツの統一 - 世界の歴史無料本棚 - sereki-km3.shogakukan.co.jp

 カルボナリの組織に限界を感じていたマッツィーニはジェノヴァ時代の幼馴染であり親友のルッフィーニと「青年イタリア」を創設します。しかし1833年に武装蜂起計画のまとめ役だったルッフィーニが逮捕され、裁判のないまま死刑判決がくだされ獄中で自決するという事件が起こります。親友の死によっていっそう革命の意志を強めたマッツィーニは1848年革命によってローマ共和国を建国することになります。マッツィーニはガリバルディと対照的に理念と激情の人でありキャラクターとして立てやすかったこともあるでしょうが、後年の失敗も含めマッツィーニを軸にリソルジメントを見るというのは実に上手だなと思いました。

第二次ロシア革命

FireShot Capture 254 - 世界の歴史 15 第一次世界大戦とロシア革命 - 世界の歴史無料本棚 - sereki-km3.shogakukan.co.jp

 この画像誰が誰か分かるでしょうか。上段右は最後のロシア皇帝ニコライ2世、左はその帝位を継承することなく失脚した弟のミハイルです。ミハイルは押しに弱く騙されやすかったと言われておりその性格が漫画でよく表現されていますね。そして下段で不敵な笑みを浮かべているのはアレクサンドル・ケレンスキーです。

 学校ではケレンスキーの名前はあまり習わないのではないでしょうか。しかし第二次ロシア革命の流れを知るためにはレーニンよりケレンスキーに着目したほうが確かにわかりやすいです。レーニンがロマノフ朝を倒したと誤解している人さえいるかもしれませんがそれはケレンスキーです(ロマノフ家を皆殺しにしたのは別の話です)。そもそもレーニンは二月革命のときロシアにいませんでしたしね。ケレンスキーは軍部からも労働者からも人気があり二月革命後の臨時政府とペトログラード・ソヴィエトの二重権力状態にあって両方の実権を掌握していました。トップにいた期間はわずかでしたが二月革命と十月革命を一つの大きな流れとみるのであればその中心にいたのはケレンスキーであり、ケレンスキーをキャラ立てするというのは見事です。他にもケレンスキーに注目した人のツイートを発見しました。


おわりに

 私は常々「歴史は人間の意思の集積」であると考えています。抽象的なものごとだけを取捨選択すれば確かに歴史とは一つの大きなストーリーであるかもしれませんが、それは名前があったりなかったりする数多くの人間の思いや行動が積み重なったものであるはずです。「学習まんが 世界の歴史」では人柄や生い立ちが見えてくる形で人物を掘り下げるよう努めており、そのチョイスも絶妙で、魅力的な人間の生涯を個別具体的に紹介するのが歴史に興味を持ってもらう早道なんだなあとあらためて感じました。

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