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2019年上半期の展覧会ベスト10

2019年上半期は美術館・ギャラリーあわせて100ほどの展覧会に行くことができました。印象に残った展覧会10を紹介します。(※順位ではなく行った日付順です)

「霞 はじめてたなびく」展(トーキョーアーツアンドスペース本郷)

佐藤雅晴さん、西村有さん、吉開菜央さん、それぞれ異なる分野で活躍する(活躍していた)3人展です。霞始靆 (かすみはじめてたなびく)は七十二候のひとつで、2月24日頃から2月28日頃までの言葉どおり「霞がたなびきはじめる」時期を指します。

私がこの展示を観たのが3月11日なのですが、長いこと癌の闘病生活を送っていた佐藤雅晴さんが3月9日に亡くなったことが3月18日に発表されました。もう亡くなっているのに私たちはそれを知らないこの宙ぶらりんの9日間。佐藤さんの代表作は現実の映像をアニメーションにトレースしたロトスコープ作品なのですが、晩年は体力の衰えと視力の低下で映像作品が作れなくなり、それでも表現方法を模索して絵画に挑んだりしていました。

この直後に吉開さんのカンヌ国際映画祭選出が決定し、昨年の「NTT圧力改変問題」がクローズアップされたりと、タイムリーな展覧会となりました。

「霞 はじめてたなびく」
会期 2019年2月23日~3月24日
会場 トーキョーアーツアンドスペース本郷
住所 東京都文京区本郷2丁目4−16

竹内公太「盲目の爆弾」(SNOW Contemporary)

指差し作業員こと竹内さんの新作。戦時中日本は「風船爆弾」という和紙の風船に爆弾をぶら下げたものをおよそ1万発、偏西風に乗せてアメリカ本土に放ちました。いかにも効果がなさそうな作戦ですが実際に死者も出ており、アメリカの国立公文書館には予想以上に多くの証言や詳しい着弾場所の資料が残っていることを知ります。

そこでこの意思を持たない「盲目の爆弾」を、現代の「目」を持つドローンを用いて73年ぶりに再現しようとするのが本作の試みです。それはまるでコウモリが超音波の遅れて返ってくる時間を利用して周囲を把握するエコーロケーションのよう。盲目のまま突き進んだ当時の日本は技術の進歩を経て何が変わったのでしょうか。

竹内公太「盲目の爆弾」
会期 2019年3月8日〜4月13日
会場 SNOW contemporary
住所 東京都港区西麻布2-13-12 早野ビル404

ハーヴィン・アンダーソン「They have a mind of their own」(ラットホールギャラリー)

前々から見たかったハーヴィン・アンダーソンがついに初めて日本に来ました。ハーヴィン・アンダーソンはイギリスのバーミンガム生まれで、ジャマイカからの移民である両親の世代の記憶と経験を重ね合わせて制作を行っています。2017年にはターナー賞にノミネートされました。

彼が表現する二重の疎外、英国では軽んじられ、母国にも居場所がないという移民二世の苦悩はダイレクトなテーマです。カリブ海文化特有の装飾が施されたフェンスや防犯用の鉄格子といったモチーフをドローイングに昇華しながら、ジャマイカの海岸をどんな思いで眺めていたのでしょう。

ハーヴィン・アンダーソン「They have a mind of their own」
会期 2019年2月22日~5月18日
会場 RAT HOLE GALLERY
住所 東京都港区南青山5-5-3 B1F

岩根愛「ARMS」(KANA KAWANISHI PHOTOGRAPHY)

ハワイと福島の深いつながりを追った作品集『KIPUKA』で第44回木村伊兵衛写真賞を受賞した岩根愛さん。長期にわたるフィールドワークを通じて土地の歴史とつながりを見出した岩根さんは、他の誰にもない視点と行動力を持っていて尊敬する写真家のひとりです。ちなみに彼女を起用し続けて生活を支えてきたのが、写真カルチャーにおいて独特な存在感を放つ雑誌「サイゾー」でした。

岩根愛 個展「ARMS」
会期 2019年5月17日~6月15日
会場 KANA KAWANISHI PHOTOGRAPHY
東京都港区西麻布2-7-5 ハウス西麻布5F

チャド・ムーア「MEMORIA」(アニエスベーギャラリーブティック)

ライアン・マッギンレーの元でアシスタントを務めていたことでも知られるチャド・ムーア。最新作を含む32点を展示し、本人も来日しました。暖色系の独特の光の入れ込み具合が非現実的な空気を醸し出しながら、同世代の若者のリアルな一瞬を切り取る。南青山という場所の雰囲気にも合ったいい展示でした。

チャド・ムーア「MEMORIA」
会期 2019年2月9日~4月28日
会場 アニエスベーギャラリーブティック
東京都港区南青山5-7-25 ラ・フルール南青山2階

山口勝弘「日はまた昇る」(横田滋ギャラリー)

打って変わって戦後日本現代美術の巨匠、メディア・アートの先駆者2018年に亡くなった山口勝弘さんの展示です。1951年に「実験工房」を結成、60年代には作品を狭い枠に留めない「環境芸術」の概念を提示します。1972年には実験的映像グループ「ビデオひろば」を結成し、その知られざる成果は2016年に森美術館で再検証されました。ちょうど個人的に1970年大阪万博についてリサーチしており、三井グループ館の総合プロデューサーを務めていた彼の資料を探す目的で訪問しました。

山口勝弘「日はまた昇る」
会期 2019年4月22日~5月24日
会場 横田茂ギャラリー
住所 東京都港区海岸1-15-1

合田佐和子展(ANOMALY)

こちらも故人ではありますが、2016年に亡くなった合田佐和子さんの油彩画やドローイングを紹介する展示です。寺山修司や瀧口修造、唐十郎らと活動していました。作風は時代によって大きく変わりますが、一貫して「眼」のもたらす効果を描き続けています。

駒場キャンパスの書籍部で合田さんのエッセイ「90度のまなざし」のフェアをやっていました。

ANOMALYは天王洲アイルの倉庫の4階を改装したギャラリーなのですが、エレベーターが大きなフォークリフトが乗るような業務用しかなく、操作方法が特殊で何度行っても閉じ込められたり降りられなくなったり……。

合田佐和子 個展
会期 2019年4月20日~5月25日
会場 ANOMALY
住所 東京都品川区東品川1-33-10 Terrada Art Complex 4F

ミハイル・カリキス MAMスクリーン010(森美術館)

今年の恵比寿映像祭にも参加したギリシャの哲学者アーティストミハイル・カリキス。森美術館では《地底からの音》《怖くなんかない》《チョーク工場》の映像3作品を上映していました。経済が沈没しつつあるギリシャにあって、人間とは何か、労働とは何か、社会を規定する構造とは何かといった根源的な疑問を五感をフルに使って考えさせます。2013年のあいちトリエンナーレ以来久々に見たのですがやっぱり最高ですね。

ミハイル・カリキス MAMスクリーン010
会期 2019年2月9日~5月26日
会場 森美術館
住所  東京都港区六本木6丁目10−1 六本木ヒルズ森タワー53階

米田知子「アルベール・カミュとの対話」(シュウゴアーツ)

私が現代日本で最も優れた写真家の一人だと思っている米田知子さんの個展。彼女は「記憶はなぜ消えるのか」というテーマに「記録」と「調査」を武器に挑み続けているアーティストなのですが、本作で選んだのは20世紀激動の時代を生きたアルベール・カミュの足跡です。アルジェリアとフランス、カミュを育てた2つの地を行き来して当地に残る記憶をすくい取ります。

米田知子「アルべール・カミュとの対話」
会期 2019年4月13日~5月25日
会場 シュウゴアーツ
住所 東京都港区六本木6-5-24 complex665 2F

小松由佳 「シリア難民の肖像~Borderless people~」(リコーイメージングスクエア新宿)

日本人女性として初めて「世界で最も困難な山」K2登頂に成功し、その後写真家に転向した小松由佳さんの展示です。内戦前に出会ったシリア人の旦那さんと生活しながらシリアやトルコの写真を撮り続けています。以前から興味があり、トークショーにお邪魔したのですが、子育ての悩みや食事のこと、ご近所付き合いなど、当たり前の日常について話していただきました。

小松由佳写真展:シリア難民の肖像~Borderless people~
会期 2019年5月22日~6月3日
会場 リコーイメージングスクエア新宿
住所 東京都新宿区西新宿1-25-1 新宿センタービルMB(中地下1階)


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