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MCUはある朝突然に

2019年4月26日に公開された『アベンジャーズ/エンドゲーム』。2008年公開の『アイアンマン』から足掛け11年、マーベルが仕掛けた巨大なアメコミ映画のクロスオーバー「マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)」の22本目にして、豪華メンバーが集結する「アベンジャーズ」シリーズの完結作でもありました。

私がリアルタイムで観たのは『キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー』(2011)からですが、それから長いこと、世界中のファンと共に、次の作品を待ち焦がれながらアベンジャーズの世界を歩んできました。22本すべての映画に思い入れがあります。

MCUが今までのアメコミ映画と違ったのは、脚本に織り込んだ社会批評、演技力の高い俳優の起用、若い監督の大胆な抜擢、過去の名作アート映画へのオマージュなど、芸術鑑賞に耐えうるクオリティコントロールを徹底したこと。その成果は18本目の『ブラックパンサー』(2018)でアメコミ映画史上初のアカデミー作品賞ノミネートという快挙で表されることになります。

昔こんな表を作りました。MCUには今まで47人のアカデミー賞ノミニーが出演し、そのうち19人が『アベンジャーズ/エンドゲーム』に出演しています。1本の映画に19人のアカデミー賞ノミニーはおそらく過去最多でしょう。11年間の重みを感じます。

ティルダ・スウィントンやケイト・ブランシェット、ナタリー・ポートマンといった誰もが唸る女優のオファーに成功し、ロバート・レッドフォードやベン・キングズレー、マイケル・キートン、そしてジョシュ・ブローリンといった名優を悪役として大胆に起用。MCUのほぼ全作品のキャスティングはサラ・フィンという1人の女性が担当しており、インディーズから外国映画までチェックする彼女の功績は計り知れません。有名なのは『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』の主演に監督も本人も疑問符だったクリス・プラットを抜擢したエピソードですね。

これもやはり、1作目の『アイアンマン』でロバート・ダウニーJr.とグウィネス・パルトローという名優をツモれたことが大きいでしょう。その最大の功労者は監督のジョン・ファヴローです。薬物で逮捕歴のあるロバート・ダウニーJr.の起用を嫌がるスタジオに「彼以外アイアンマンはありえない」と説き伏せ、続いて友人のグウィネス・パルトローを「これは今までのアメコミ映画とは違うんだ」と説得し、このキャストが実現しました。MCUの大成功は『アイアンマン』の成功なしにはあり得ませんでした。

ちなみに『エンドゲーム』のキャストクレジットは以下のようになっており、この5人は別格扱いであることがわかります。
with グウィネス・パルトロー
with ロバート・レッドフォード
with ジョシュ・ブローリン
with クリス・プラット
and サミュエル・L・ジャクソン
クリプラがサノスより後にクレジットされているのに驚きます。

というわけで、MCU映画について「過去の関連映画」という観点だけに絞って書いていこうと思います。誰にも需要ないのは分かっていますがこういうのがやりたかったんですよ。

『アイアンマン』(2008)

カメオ出演したスタン・リーに向かって、トニー・スターク(ロバート・ダウニーJr.)が「ヒュー・ヘフナー?」と呼びかけるシーンがあります。このヒュー・ヘフナーとはPLAYBOY誌の創刊者です。自身も晩年に至るまで「プレイボーイ・マンション」と呼ばれる豪邸で複数人の美女と暮らし、そのライフスタイルを身をもって体現していた「リアルプレイボーイ」でした。

『アイアンマン』でのスタン・リーと晩年までプレイメイトに囲まれるヒュー・ヘフナー。確かに似ている気がする。

そんなヒュー・ヘフナーの伝記映画が2008年頃に企画された際、ヘフナー役に予定されていたのがロバート・ダウニーJr.でした。監督に予定されていたブレット・ラトナーがヘフナーと彼を引き合わせ、ヘフナー自身もロバートが自分を演じることに乗り気だったようですが、企画が暗礁に乗り上げてお蔵入りとなり、ヘフナーは2017年に亡くなりました。ちなみにスタン・リーは2018年に亡くなりました。

ヘフナーの死後伝記映画の動きは再浮上しているようで、今度はジャレッド・レトが演じるのではと噂されています。

ボブ・フォッシー監督の遺作『スター80』(1983)では、『まごころを君に』(1968)でアカデミー主演男優賞を受賞したクリフ・ロバートソンがヒュー・ヘフナーを演じています。『まごころを君に』は『アルジャーノンに花束を』といったほうが日本ではよく知られていますね。そしてクリフ・ロバートソンの遺作となったのは、サム・ライミ版『スパイダーマン』(2002)三部作のベンおじさん役でした。『スパイダーマン』はこの後リブートされてMCUに加入することになります。

ジェフ・ブリッジス演じるオバディアが演奏しているのは、アントニオ・サリエリの"Concerto in do Maggiore"です。

サリエリといえばなんと言っても『アマデウス』(1984)ですね。長年スターク・インダストリーズを支えてきた彼が自分を遥かに上回る天才トニー・スタークに嫉妬し、殺害を試みるまでになるという本作の構造が、そのまま『アマデウス』のサリエリとモーツァルトの関係に重ねられています。

ちなみに『アマデウス』でF・マーリー・エイブラハムがアカデミー主演男優賞を受賞した年に、ジェフ・ブリッジスも同賞にノミネートされていました(ジョン・カーペンター監督『スターマン』(1984))。家族全員が俳優の一家に育った彼の映画初出演は1歳。その長いキャリアの中で何度もアカデミー賞にノミネートされてきましたが、初受賞は今作の翌年、『クレイジー・ハート』(2009)まで待たなければいけませんでした。

ちなみに『クレイジー・ハート』の監督スコット・クーパーは俳優時代に共演した一回り以上も歳の離れたロバート・デュヴァルと仲がよく、同作のサウンドトラックに招いたり、自身の結婚式を彼の農場で挙げたこともあります。『ゴッドファーザー』(1972)でアカデミー助演男優賞にノミネートされたロバート・デュヴァルがふたたび同賞の最年長ノミネートを果たしたのが、『ジャッジ 裁かれる判事』(2014)。この映画の主演兼プロデューサーはロバート・ダウニーJr.でした。この映画に出ていたレイトン・ミースターの今カレは『シャザム!』(2019)のアダム・ブロディ、元カレは『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』に出ていたアーロン・ヒムルスタイン、元元カレは「ウィンター・ソルジャー」ことセバスチャン・スタンです。

この調子で延々と書いていきます。

『インクレディブル・ハルク』(2008)

アメコミ映画なのに監督がフランス人という異色の作品。エドワード・ノートン、ティム・ロス、ウィリアム・ハートという3人の名優が出演しています。ハルク役は次作からマーク・ラファロに交代するためエドワード・ノートンはこれっきりですが。ノートンは「元ヒーローの悲哀」を描いた映画『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』(2014)で同じく「元ヒーロー」のマイケル・キートンと共演することになります。

ティム・ロスは個人的にはラテンアメリカ映画を支えてくれている恩人です。2012年のカンヌ国際映画祭である視点部門の審査委員長を務めた際、メキシコのミシェル・フランコ監督『父の秘密』(2012)の才能に目をつけ、「次作はぜひ一緒にやりたい」と申し出ます。フランコ監督×ティム・ロス主演&プロデュースで製作した『或る終焉』(2015)は、見事カンヌ国際映画祭脚本賞を受賞することになりました。ガブリエル・リプスタイン監督『600マイルズ』(2015)も同じくティム・ロス主演&プロデュースで製作されたメキシコ映画です。ちなみに『或る終焉』にはドゥニ・ヴィルヌーヴのミューズであるデヴィッド・ダストマルチャンも出ていましたが、彼の次作は『アントマン』です。

『ブレードランナー2049』(2017)でもいい役をもらっていたデヴィッド・ダストマルチャン。ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督のお気に入り。

ウィリアム・ハートもまたブラジル映画『蜘蛛女のキス』(1985)でアカデミー賞に輝いたのでラテンアメリカ映画の恩人といえます。そういえばブルース・バナーの日本語版吹替声優は水嶋ヒロでした。懐かしいですね。

『アイアンマン2』(2010)

チェス・ロバーツというTVキャスター役でオリヴィア・マンが出演しています。彼女の母親が米空軍の男性と再婚し横田基地に配属されたため、幼少期は立川で過ごし、日本でモデル活動もしていました。その後ふたたび離婚して母とともにオクラホマに戻りますが、オクラホマ大学でも日本語を学んでおり、今でも日本語がペラペラです。その後MCUではないマーベル映画『X-MEN: アポカリプス』(2016)にも出演します。彼女が『ダイヤモンド・イン・パラダイス』(2004)の撮影の際に受けたセクハラを告発し、大問題になったのが前述のブレット・ラトナー監督でした。

『マイティ・ソー』(2011)

監督を引き受けたのがなんと「偉大なシェイクスピア俳優」ケネス・ブラナー。MCU22本の中で最もビッグネームです。これには誰もがびっくりしました。彼がキャスティングに強く推薦したのは、英国で舞台俳優として2回組んでいたトム・ヒドルストン。『マイティ・ソー』の大ヒットと好演により、瞬く間に世界で最も知られる英国俳優の一人になりました。MCUを通じて最も評価を高めたのは間違いなく彼でしょう。

ソー役のクリス・ヘムズワースは、主要キャストが全員女性になったリメイク版『ゴーストバスターズ』(2016)で「顔と身体はいいけど頭がからっぽな男」を演じます。これは今まで映画史の中で女性にあてがわれていた役柄に対する製作陣の強烈なアンチテーゼでした。
この映画の女性プロデューサーエイミー・パスカルは元ソニー・ピクチャーズエンターテイメントの共同会長でしたが、北朝鮮のサイバー攻撃でいろいろバレて辞任し、いろいろあって自らの会社を立ち上げ、いろいろあってスパイダーマンの権利がソニーからマーベルに合流し、『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』のプロデューサーを務めることになります。

ソーの子供時代を担当したダコタ・ゴヨ君(当時11歳)は同年の『リアル・スティール』(2011)では堂々の主演を張っています。この映画にはアンソニー・マッキー(ファルコン)、エヴァンジェリン・リリー(ワスプ)とアベンジャーズメンバーが多いですね。

芦田愛菜ちゃんと日米子役共演するダコタ君。

そして本作でジャスパー・シットウェル役のマキシミリアーノ・ヘルナンデスが初登場します(『エンドゲーム』にも再登場して感動しました)。彼は『ボーダーライン』(2015)にも出ていますが、こちらはジョシュ・ブローリン(サノス)、ベニチオ・デル・トロ(コレクター)、ダニエル・カルーヤ(ウカピ)と、対照的にアベンジャーズメンバーでない人ばかりです。

『キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー』(2011)

チェスター・フィリップス役のトミー・リー・ジョーンズがニトロボタンを押して車のエンジンをブーストさせるシーンは、彼のハマり役『メン・イン・ブラック』(1997)のオマージュというか完コピです。

クリス・エヴァンスが名を挙げたのは『ファンタスティック・フォー [超能力ユニット]』(2005)のヒューマン・トーチ役ですが、本作にちらっと出てくるヒューマン・トーチはファンタスティック・フォーのヒューマン・トーチとは別物です。まぎらわしいですね。

『マトリックス』(1999)のエージェント・スミスでおなじみヒューゴ・ウィーヴィングがレッドスカル役で出演しています。ウィーヴィングは本作を含め4作品でMCUの出演契約を結んでいましたが、環境に不満があったらしく「もう二度とやりたくない」とこれを破棄します。これ以降レッドスカル役は『ウォーキング・デッド』(2010-)のロス・マーカンドに交代することになります。思えばヒューゴ・ウィーヴィングはいつもマスクやサングラスをかぶった役でした。『クラウド アトラス』(2012)では女装もしてましたが……。

これ書きながら『クラウド アトラス』観たくなって久々に見返してました。

『アベンジャーズ』(2012)

ブルース・バナーに「あんたエイリアンか?」と尋ねる警備員は『エイリアン』(1979)のハリー・ディーン・スタントンです。大好きな俳優でした。

『エイリアン』といえば一つ言いたいのは、『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』でピーター・パーカーが「『エイリアンって映画観たことある?』と、昔の映画で見た知識を使って敵を倒す」という日本語の説明記事が溢れていることです。これはいけない。『エイリアン』の原題は「Alien」、『エイリアン2』(1986)の原題は「Aliens」。これは『エイリアン』ではなく『エイリアン2』のことです。

『アイアンマン3』(2013)

アイアンマンがスーツを着ないという珍しいコンセプト、MCUの中で特に好きな1本です。ガイ・ピアース、レベッカ・ホールなど個人的に好きな俳優が多く出ていることもあります。

ポテト銃の少年タイ・シンプキンス君は立派に成長して『アベンジャーズ/エンドゲーム』に一秒だけ出演しており、世界興行収入ベスト6のうち2本(『ジュラシック・ワールド』(2015))に出演する数少ない俳優となりました。シンプキンス君は6歳のとき、実姉のライアンと共に『レボリューショナリー・ロード/燃え尽きるまで』(2008)でディカプリオとケイト・ウィンスレットの子ども役をやっていましたが、そのサム・メンデス監督と昔交際していたのがレベッカ・ホールでした。

副大統領を演じたミゲル・フェラー(アカデミー賞俳優ホセ・フェラーの息子)は2017年に亡くなり、本作が映画としての遺作となりました。

『マイティ・ソー/ダーク・ワールド』(2014)

ファンドラル役のジョシュア・ダラスが『ワンス・アポン・ア・タイム』(2011-)を優先するため降板し、ザッカリー・リーヴァイに交代しています。ちなみにザッカリーは『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』のピーター・クイル役に起用する案もありました。もともとこの役にはスチュアート・タウンゼントが内定していたのですが急遽変更。タウンゼントは『ロード・オブ・ザ・リング』(2001)のアラゴルン役でも内定していたのに急遽ヴィゴ・モーテンセンに差し替えられたことがあります。つくづく大作に縁がない。

『ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還』(2003)、『グリーンブック』(2018)と2つのアカデミー作品賞に出演しているヴィゴ・モーテンセン。当初はあまり乗り気ではなかったけれど、息子に「指輪物語知らないの? 絶対出なきゃダメだよ!」と言われて出ることにし、本作のプレミアでカンヌに行ったらデヴィッド・クローネンバーグと偶然知り合い、『ヒストリー・オブ・バイオレンス』(2005)を共に作ることになります。2016年には『はじまりへの旅』(2016)で多くの映画賞にノミネートされて『ムーンライト』(2016)のマハーシャラ・アリと多くの会場で顔を合わせ、それが『グリーンブック』の出演につながりました。映画祭での出会いって大切なんですね。

ザッカリー・リーヴァイはこの後『シャザム!』(2019)年に主演し、MCUとDCEUの両方を制覇しました。こういう人何人いるか調べたいけど(ローレンス・フィッシュバーンとか)たくさんいそうだ……。『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』でジャック・ロリンズを演じたカラン・マルヴェイも『バットマンVSスーパーマン:ジャスティスの誕生』(2016)に出てましたね。

『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』(2014)

ついにルッソ兄弟withクリストファー・マルクス&スティーヴン・マクフィーリー体制が始動する記念すべき1作。『ウェルカム・トゥ・コリンウッド』(2002)の特典映像ではこんなことを言っていたルッソ兄弟ですが、まさか彼らが主役が8人どころではない映画の監督をするとは、このときは誰も思っていなかったでしょう。

ナターシャが「Shall we play a game?」と言うのは『ウォー・ゲーム』(1983)のセリフです。「Shall we play a game?」でググるとマルバツゲームが遊べることでも有名。

ナターシャがスティーブにわざわざ「これは映画のセリフで……」と説明しているのは、氷漬け期間のブランクを取り戻そうと彼が「覚えておくべきポップカルチャーリスト」を勉強していたからですね。ちなみにこのリストは国によって変わっています。

『ウォー・ゲーム』主演のマシュー・ブロデリックは続けて『フェリスはある朝突然に』(1986)でも当たり役を引き当てました。こちらも後ほどあるMCU映画に強い影響を与えることになります。

本作のヴィラン、ロバート・レッドフォードは俳優と監督の双方で成功を収めた数少ない映画人です。自身の監督&主演作『モンタナの風に抱かれて』(1998)では当時13歳のスカーレット・ヨハンソンが1人娘役で出演していました。

ニック・フューリー(サミュエル・L・ジャクソン)の墓碑に刻まれる「エゼキエル書25章17節」の文字。元ネタはもちろん……。

『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』(2014)

ジェームズ・ガン監督の前作『スリザー』(2006)、『スーパー!』(2010)に出ていた多くの人物が続投しています。マイケル・ルーカー、グレッグ・ヘンリー、ネイサン・フィリオン、ロブ・ゾンビ、実弟ショーン・ガン、『悪魔の毒々モンスター』の監督ロイド・カウフマンなどなど。『スーパー!』で主演をしてもらいたかったジョン・C・ライリーとは、本作で念願かなって一緒に仕事をすることになりました。

ピーター・クイル役の候補にもなっていたリー・ペイスはメインヴィランのロナン役として起用されました。リー・ペイスといえば『落下の王国』(2006)という、構想26年、13の世界遺産、24ヶ国以上で撮影された謎の大作の印象が強いです。

アカデミー賞2回ノミネートの名優ジャイモン・フンスーが出演しています。ダホメ共和国(11歳のときクーデターで消滅)で生まれ、フランスにやってくるもしばらくは極貧にあえぎ、モデルやダンサーをしつつチャンスをうかがい、スピルバーグの『アミスタッド』(1997)の主演に抜擢された苦労人です。

「息子がヒーロー映画を見て白人になりたいと言い出したのがショックだった」「黒人もヒーロー映画で活躍できることを示さないといけない」と本作への出演を承諾し、この後も『キャプテン・マーベル』、DCの『アクアマン』(2018)、『シャザム!』(2019)などヒーロー映画に立て続けに出演しています。実は最初に出たDC映画は『コンスタンティン』(2005)なんですけどね(続編の噂は果たして)。

カルバン・クラインのモデルなどを務め、文字通り「身体ひとつ」で極貧生活からオスカーノミネート俳優に上り詰めたジャイモン・フンスー。ハリウッドで成功した今も故郷への思いは強く、ダホメの民族衣装で結婚式を挙げました。

『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』(2015)

バロン・ストラッカー役のトーマス・クレッチマンはドイツ軍将校役で何度もその顔を目にする俳優です。『戦場のピアニスト』(2002)をはじめ、『スターリングラード』(1993)、『ヒトラー 〜最期の12日間〜』(2004)、『ワルキューレ』(2008)など。ドイツ人(というかナチス将校)役の需要に対して国際的な俳優が足りていないのを感じます。最近では日本でも大ヒットした韓国映画『タクシー運転手 約束は海を越えて』(2017)でもおなじみ。

クイックシルバー役のアーロン・テイラー=ジョンソンは『キック・アス』(2010)で主演を務め、その親友役のエヴァン・ピーターズは『X-MEN:フューチャー&パスト』(2014)でクイックシルバーを演じました。現代アート界の寵児サム・テイラー=ウッドと23歳年の差婚したときは驚愕しましたが……。

右も左もクイックシルバー。

『キック・アス』といえば、『キック・アス』の撮影監督ベン・デイヴィスは『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』でマーベルに気に入られたようで、続いて本作でも撮影を担当しています。『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』でも撮影するはずが、製作の遅れで『ドクター・ストレンジ』の方を担当することになり、ジェームズ・ガン監督は残念がっていました。さらに『キャプテン・マーベル』、『エターナルズ』も任されています。『スリー・ビルボード』(2017)も撮影しました。

『アントマン』(2015)

撮影監督はあのラッセル・カーペンター。『タイタニック』(1997)でアカデミー賞を受賞した大物です。

1997年のアカデミー賞で14部門ノミネートの『タイタニック』と激しく争ったのが9部門ノミネートの『L.A.コンフィデンシャル』(1997)でしたが、こちらの撮影監督ダンテ・スピノッティが、なんと続編『アントマン&ワスプ』の撮影監督を務めています。いったいどうやってこんな巨匠を……。

ダンテ・スピノッティはイタリア人で、先日亡くなったエルマンノ・オルミ監督『聖なる酔っぱらいの伝説』(1988)(ヴェネツィア国際映画祭金獅子賞)も手がけています。最近日本語版Blu-rayで復刻されましたね。イタリア人大物プロデューサーのディノ・デ・ラウレンティスに呼ばれてハリウッドに進出しました。そういえば前述の『ダイヤモンド・イン・パラダイス』の撮影も彼だったな……。
みんな大好きマイケル・ペーニャ。

『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』(2016)

トム・ホランド、マリサ・トメイ、チャドウィック・ボーズマン、ポール・ベタニーらがMCU初出で、いよいよ『エンドゲーム』に向けて役者が揃ってきます。

ポール・ベタニーはジェニファー・コネリーとの息子に「ステラン」と名付けましたが、これは『キス★キス★バン★バン』(2000)や『ドッグヴィル』(2003)で共演した大先輩ステラン・スカルスガルドから取ったものです。『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』では12年ぶりに共演していました(一緒のシーンはなかったけれど)。

『アベンジャーズ』で一瞬登場するサノスを演じたのはダミオン・ポワチエという俳優ですが、そのときは「MAN#1」とだけクレジットされていました。ジョシュ・ブローリンがサノス役に決まるのはその後なのですが、本作ではダミオン・ポワチエが今度は顔の見える役でカムバックしています。

『ドクター・ストレンジ』(2017)

ドクター・ストレンジといえばベネディクト・カンバーバッチ、これほどぴったりのキャスティングもないでしょう。公開時期がタイトに定められているMCUにあって、カンバーバッチのスケジュールに合わせて撮影時期が遅らされました。こんなケースはMCU史上初です。彼はマンチェスター大学入学前のギャップイヤーにチベットで英語を教えながら旅していましたが、本作の舞台が中国資本に配慮してチベットからネパールに変わってしまったのは残念なことです。

彼は多くの英国俳優と同じく名門学校で演劇を学び舞台で経験を積み、シャーロック・ホームズが当たり役となった俳優ですが、映画にも駆け出し時代に『クロムウェル〜英国王への挑戦〜』(2003)に脇役で出演しています。本作でチャールズ1世を演じていたルパート・エヴェレットは後にホームズを演じます。ホームズ俳優といえばピーター・カッシングやクリストファー・リーが知られていますが、2012年にローレンス・オリヴィエ賞をカンバーバッチと同時受賞したジョニー・リー・ミラーもホームズ俳優です。『ドクター・ストレンジ2』でメインヴィランになると言われているキウェテル・イジョフォーもローレンス・オリヴィエ賞受賞者ですね。

レイチェル・マクアダムス演じるクリスティーン・パーマーは原作では看護師で「ナイト・ナース」の二つ名を持ちますが、本作では医師になっています。

ちなみに監督のスコット・デリクソンは去年自宅が全焼しました。魔術の力も及ばなかったようです。

『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』(2017)

この記事の文脈的に嬉しいシーンはヴィング・レイムス、ミシェル・ヨー、マイケル・ローゼンバウムがカメオ出演しているところですね。生きていればデヴィッド・ボウイがここに加わっていたはずでしたが……。

前作のところにも書きましたが、撮影監督のベン・デイヴィスが本作の製作遅れで『ドクター・ストレンジ』に回ったため、新たに 『ターザン:REBORN』(2016)のヘンリー・ブラハムが撮影監督に加わりました。ブラハムの最大の功績は、世界で初めてRED Weapon 8Kでの映画撮影を決断したことです。まだプロトタイプが世界に一台しかない状況ながら、見事に長編の撮影に耐えうることを証明しました。

奇しくも同年の『ダンケルク』(2017)がフィルム撮影をしたのとは対照的に、ついに映画は8K時代に突入しました。

ジェームズ・ガンは「デジタルは撮影やポスプロの自由度を高めてくれる。今でもフィルムで撮影する監督たちをリスペクトしている。でも、フィルムへの愛は映像の美しさよりもノスタルジーに由来しているように感じる時もある」と語っています。低予算映画出身の彼らしいですね。

『スパイダーマン:ホームカミング』(2017)

ピーターが住宅街を走り抜けるシーンは『フェリスはある朝突然に』(1986)へのオマージュで、本編中にも同作の1シーンが映し出されています。こんなポスターも作られました。1980年代青春映画への熱い愛が感じられます。ちなみに『デッドプール』にもそのままパロったシーンがありました。

マリサ・トメイといえばやっぱりこれですよね。『オンリー・ユー』(1994)。ロバート・ダウニー・Jr.が逮捕される前のことです。RDJの転落と復活はよく知られるところですが、マリサ・トメイもまたこの頃からしばらく「一発屋」と呼ばれて低迷し、『イン・ザ・ベッドルーム』(2001)で復活することになります。

これは私のような脇役マニア(いるのか?)にはよく知られていますが、学力コンテストメンバーの顧問ハリントン先生を演じるマーティン・スターは『インクレディブル・ハルク』に一瞬出てきます。膨大な出演者がいるMCUですが、同じキャストがまったく無関係の2役を演じているのは彼くらいではないでしょうか。

『マイティ・ソー バトルロイヤル』(2017)

監督はニュージーランドで活躍していたタイカ・ワイティティ。まさかこんな小さな国でインディーズ映画を撮っていた監督がいきなりMCUの大作を任されて。しかも大成功に導いてしまうなんて、マーベルのプロデューサーは慧眼と言うほかありません。先日実写版「AKIRA」を延期して「Thor 4」を始動することが発表されました。

「Hunt for the Wilderpeople」を見たときはニュージーランドの知る人ぞ知る監督だったのに、今や世界中から次作を待たれるスター監督に。

本作の成功はこの人なしにはなし得なかった、グランドマスター役のジェフ・ゴールドブラム。実は1995年に監督としてアカデミー短編実写映画賞にノミネートされています。2014年に31歳年下のエミリー・リヴィングストンと3度めの結婚をし、63歳にして初めてパパになりました。エミリーは新体操シドニー五輪カナダ代表で、『ラ・ラ・ランド』(2016)ではエマ・ストーンのボディダブルを務めていました。

それにしても本作にケイト・ブランシェットが出演すると聞いたときは驚きました。あまりこういう映画に出るイメージないですもんね。一方でケイト・ブランシェットと同じくらい重要な役をモーションキャプチャーで演じたクランシー・ブラウンは、『グリーン・ランタン』(2011)、ドラマ「デアデビル」、「THE FlASH/フラッシュ」、アニメ版「ジャスティス・リーグ」などアメコミ関連の仕事が多いです。ちなみに本名は クラレンス・J・ブラウン「三世」ですが、祖父(1世)も父(2世)も合衆国下院議員を務めた超名家です。

『ブラックパンサー』(2018)

まさにMCUの金字塔、アメコミ映画史上初のアカデミー作品賞ノミネートを成し遂げた傑作です。受賞は叶いませんでしたが、20年後の人が「2018年を代表する映画ってなんだろう?」と振り返るときに何が挙げられるかは歴史が証明するでしょう。

アフリカ系アメリカ人の歴史に焦点をあてているとともに、黒人映画の歴史を切り開いた先人へのオマージュも捧げています。『ブラックパンサー』の舞台と同じ1992年に公開されたのが『マルコムX』(1992)。同作でアカデミー衣裳デザイン賞にノミネートされたスパイク・リーの盟友ルース・E・カーターは『ブラックパンサー』で同賞を初受賞し、スピーチではスパイク・リーに感謝を捧げていました。そしてこの1時間後にスパイク・リーもアカデミー脚本賞を初受賞することになります。

『マルコムX』でマルコムXの妻を演じていたのがブラックパンサーの母親役のアンジェラ・バセット。彼女はローレンス・フィッシュバーンと共演した『TINA』(1993)で、アフリカ系アメリカ人として初のゴールデングローブ賞 主演女優賞 (ミュージカル・コメディ部門)を受賞します。

アンジェラ・バセットとローレンス・フィッシュバーンといえば、忘れられない傑作が先日急逝したジョン・シングルトン監督の『ボーイズ'ン・ザ・フッド 』(1991)です。スパイク・リーやライアン・クーグラーも皆追悼のコメントを出していました。

緑のスーツが印象的なのはコートジボワール出身のイザック・ド・バンコレ。ジム・ジャームッシュの『リミッツ・オブ・コントロール』(2009)で工藤夕貴とダブル主演していました。

ある俳優の若い頃をその俳優の子がやるというのはたまにあり、有名なところだと『ショーシャンクの空に』(1994)でモーガン・フリーマンの書類に貼ってある青年時の写真は息子のアルフォンソ・フリーマンです。本作でもテイ・チャカ役のジョン・カニの若い頃を演じたのは実の息子のアタンドワ・カニでした。一方フォレスト・ウィテカーの若い頃を演じたのはデンゼル・ウィテカーという俳優で、顔もそっくりですが、こちらは血縁関係はありません。

『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(2018)

ついにあらゆるヒーローがゆっくりとクロスオーバーしていきます。前述した『エイリアン2』を思い出してエボニー・マウを倒すシーンは『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』(1981)を参考にしています。

サノス(ジョシュ・ブローリン)がコレクター(ベニチオ・デル・トロ)に 「Where is the stone?」と聞くシーンは、 ベニチオ・デル・トロが『スナッチ』(2000)で言った有名なセリフ「Where is the stone?」のパロディです。

こんなコラも作られました。『スナッチ』と実写版『アラジン』(2019)は同じガイ・リッチー監督。

『アントマン&ワスプ』(2018)

初代ワスプ役はミシェル・ファイファー。1990年代に「世界でもっとも美しい顔」として人気を博した大女優です。そんな彼女もかつてアメコミ映画に出たことがあります。『バットマン リターンズ』(1992)でキャットウーマンを演じましたが、後に同じ役を演じるハル・ベリーとアン・ハサウェイ、3人ともいろいろな意味でなかなか濃い人生を歩んでいますね。

自宅謹慎中のスコット・ラングが観ている映画は『アニマル・ハウス』(1972)ですが、放映されている場面で話されるセリフが「我々はもしかしたら巨大な生物の爪の一原子にすぎないかもしれない」。またラストで観ている映画は『放射能X』(1954)で、こちらはアリが巨大化して人々を襲うという内容。まさにアントマンの内容とリンクしています。

『キャプテン・マーベル』(2019)

やっと最後までたどり着きました。MCU初の女性ヒーロー単独主演映画、共同監督のアンナ・ボーデンと音楽のパイナー・トプラクはそれぞれMCU初の女性です。

主演に抜擢されたブリー・ラーソンはほとんど筋トレ経験がなく、身体づくりに半年以上を要しました。MTVアワードの授賞式でスタント2人を壇上に上げて功績をたたえたシーン何度見ても泣いちゃう。

「私はこの瞬間を使って、私の横に立っている2人の女性に心からお礼を伝えたい。この女性たちが私を特訓し、『キャプテン・マーベル』のスタントを務めてくれました。彼女たちがいなければこの映画は完成しなかった。2人がキャプテン・マーベルの本質の基礎を作っているのです。彼女たちはキャプテン・マーベルの化身よ」

ブリー・ラーソンは売れない頃シンガーとして路上ライブで稼いだりと苦労していたのですが、『ショート・ターム』(2013)の好演が転機となります。大学時代に監督を日本に招くお手伝いをしたので思い出深い作品です。

彼女の子供時代を演じたマッケナ・グレイスは、『gifted/ギフテッド』(2017)でクリス・エヴァンスと主演していました。数学の才能に恵まれたギフテッドの少女と、過去のある事情から娘を普通の小学生として育てたい父親のいい映画でした。

キャロルが不時着した地球でたまたま手にする映画は『ライトスタッフ』(1983)。ブレイク前のジェフ・ゴールドブラムがちょい役で出ています。猫の名前「グース」の元ネタは『トップガン』(1986)。どちらもパイロット映画へのオマージュです。

これが最後の小ネタ! ベン・メンデルソーンがジュースを飲むシーンの元ネタは……?

MCU will return...

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