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フェミニズム・アート/おどろう楽しいポーレチケ

 東京都写真美術館で開催していた「しなやかな闘い ポーランド女性作家と映像」展。1970年代から現代に至るまでの激動のポーランド史を女性作家の映像作品とともに振り返るチャレンジングな展覧会です。多くの映像作家を輩出してきたポーランドですがその歴史は数多くの男性の名によって語られてきました。世代の異なる女性アーティストが自身の置かれた社会状況をどのような手段で表現してきたのか、その変遷を時代を追ってたどっていくことができます。

 この展覧会は情報が告知されたときからとても楽しみにしていて、ポーランドに留学している友人と「エヴァ・パルトゥムやテレサ・ティシキェヴィチは出るかな? ナタリア・LLは当然出るよね?(ワクワク)」と予想しあっていました。企画が恵比寿映像祭ディレクターの岡村恵子さんとあっては半端な作品が来るはずがありません。結果としてこの3人の作品は出ていたのですが、全員「第一章」に位置づけられており、むしろ「第二章」「第三章」と時代が下っていくにつれ若い世代の作家が充実していてとてもおもしろかったです。3回行きました。

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しなやかな闘い ポーランド女性作家と映像 1970年代から現在へ
会期:2019年8月14日~10月14日
会場:東京都写真美術館
住所:東京都目黒区三田1-13-3 恵比寿ガーデンプレイス内
https://bijutsutecho.com/magazine/news/exhibition/20183

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アンナ・クテラ 《対話》 1974年
通りすがりの人に「すみません、アンナ・クテラ通りはどこですか?」と尋ね続ける。ここヴロウワフ地区は街路に著名なアーティストの名前がつけられている。ところが女性アーティストの名前はどこにもない

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ズザンナ・ヤニン 《闘い》 2001年
数ヶ月に及ぶトレーニングを積み、ヘビー級男性プロボクサーを相手にリング上で徹底して闘いを挑み続ける

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ヤナ・ショスタク《ミス・ポーランド》(2020年完成予定)
ベラルーシからの移民である彼女はSNSやマスメディアの露出を戦略的に駆使し、ポーランド各地のミスコンに出場してその制度を内側からハックする

 多くの映像作品があって見きれないほどですが、岡村さんが「20分でも1時間でも3日でも楽しめるようなつくりにしている」と言っているとおり展覧会全体としてうまくできています。その中でひときわ目を引くのがカロル・ラヂシェフスキ(1980-)の「America Is Not Ready For This」(2012)です。

 東欧の女性アーティストの先駆けであるナタリア・LL(1937-)が1977年にNYに滞在していた事実に着目し、30代の男性アーティストであるラヂシェフスキが当時の状況を追体験するドキュメンタリーです。冷戦期にあってナタリア・LLは西側と東側のアートシーンをつなぐ数少ない存在であり、異邦人であり、女性でした。「America Is Not Ready For This」とは文字通り「アメリカはナタリアの作品を受け入れる準備ができていなかった」という意味。当時のナタリアを知る関係者やNYアートシーンで活躍した同世代のアーティストに聞き取りを行い、ナタリアの存在がNYにどんなインパクトを与えていたのかを調査しています。

 ラヂシェフスキが意図していたのは、一つには東側と西側双方の美術史の捉え直し=西欧からしか語られない美術史へのアンチテーゼです。世界中から最先端の才能が集まると思われていた当時のNYも実は保守的で閉鎖的な側面を持っていたこと、そして東側のアートが意外と活気に満ちていたことをあぶり出しています。ナタリア・LLがポーランド初のフェミニズム・アートの展覧会「Woman’s Art」を開催したのは1978年とかなり早い時期でした。そしてもう一つは当時の女性アーティストが置かれていた境遇です。この点はナタリアに関する作品が本展であと2つ上映されているのでぜひ見てみてください。

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 ちなみに日本初のフェミニズム・アートの展覧会は1991年の「私という未知へ向かって 現代女性セルフ・ポートレイト展」(東京都写真美術館)です。先日これを企画した学芸員の笠原美智子さんの講演に行って裏話を聞いてきましたよ。

 この展覧会に非常に注目していたのは、まさに今年の4月、ポーランドで芸術と検閲に関するタイムリーな大事件が起こっていたからです。ワルシャワの国立美術館がナタリアの作品「Consumer Art」(1973)を警告なしに撤去しました。裸の女性がバナナを食べる様子を捉え大衆文化において消費活動(と消費を煽ること)が性的なモチーフと結び付けられてきたことを告発する作品です。

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 これにすぐさま反発が起き、1000人以上の市民が美術館の前でバナナを食べながら抗議するデモが発生し、SNSは #bananagate のハッシュタグで溢れました。ポーランドはキリスト教保守強硬派のアンジェイ・ドゥダが2015年に大統領になって政権が右傾化しており、この撤去も政府の指示だったのではないかと言われています。

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 前述のドキュメンタリー「America Is Not Ready For This」ですが、なかなか豪華なメンバーが出演しています。マリーナ・アブラモビッチ、ヴィト・アコンチ、A・A・ブロンソン、そして美術評論家のダグラス・クリンプ、アンディ・ウォーホル映画の主演として知られるマリオ・モンテスなどなど。すごい! それぞれがナタリアの思い出を語っています。本当は(NYで異邦人で女性であった)ヨーコ・オノにも聞きたかったんだろうな。

 そして本作に登場する忘れてはいけないアーティストが、フェミニズム・アートの先駆者であり20世紀で最も重要なヴィジュアルアーティストのひとり、キャロリー・シュニーマンです。次回はキャロリー・シュニーマンの話をするぞ!

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