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三河宇宙造船所 宇宙への軌跡 第22回「人が造る星の作りかた」

1966年6月29日 水曜 明朝
台風四号の影響を受けまだ陽が昇るよりも早く、英国から世界的なバンドが来日。台風が去った後に行われた日本国内でかのバンドライブ演奏に熱狂するファン。その間、我々といえばいつも通り宇宙に向け打ちロケット上げの準備という地味な仕事を続けていた。

ロケット組立棟に空冷数兵対向4気筒エンジンの音と共に丸っこい青色の車が入棟。車体臀部から喚き散らされる排気音は縦構造に連なる棟内に反響し、不燃焼ガソリンの匂いが漂う。
「バブルルルン」 エンジンを切る前に踏み込んだアクセルペダルに少し遅れ音を響かせ、カーステレオから大声で鳴り続ける「江利チエミのチャタヌギ・シュー・シャイン・ボーイ」
エンジンを切ると、車体に不釣り合いな角のある排気音は止み、化石燃料の燃え残りの香り。その後にロケット建造中の作業音に戻る。遅れて熱された空冷エンジンが外気温と折衝を始め「キンキン」とした冷却音が鳴り始まる。

「フォン博士」と作業員から三河宇宙造船初の人工衛星の仕様書を受け取り、眼前の実物を確認。
「ブスだな・・・」と車から降りるなりに零すジーン・カーマン。眼前にはプロボドボダイン社製 OKTOが。
英国から来た世界的なバンド同上、台風の影響を受け今朝納品されたばかりのこの人工衛星へ。
「何を言っているんだ。美しい八角形じゃないか」とフォン博士は丸っこい車でこの聖域、博士の庭でもあるロケット棟に乗り付けたロックスター気取りのジーン・カーマンへ呆れるように言葉を放ち、台座の上に載せられた人工衛星を見ていた。

ロケットの建造は続き、人工衛星「星1号」の搭載場所についてどうすべきか。第三段目と宇宙船先端の間に接続させる方法も検討されたが、細い首のような不釣り合いな大きさのプロボドボダインOKTOでは先端部位への強度不足、またシュラウド分割技術には難があり、周回軌道への人工衛星投入はこのプロジェクトのチョークポインと。傍らに立つロケット6号をベースとした人工衛星投入に向け改良されたロケット、後に「三河6.1号」となる建造中のロケットを見上げるフォン博士。
「こいつを?」と言いながらサングラス越しにOKTOを見るジーンカーマン。
「そう」とロケットを見上げたまま答えるフォン博士。その姿を見た後に、ジーンカーマンもロケットを見上げ、「どこに?」と人工衛星の搭載位置を訪ねる。
「さあ・・・。考え中」とフォン博士。
「ふん」よりは"hum"が正確な声を出し二度頷くジーンカーマンは半袖Yシャツ、ネクタイ。スラックスと夏向けに衣替えしたそのスラックス臀部のポケットから打ち上げ日決定となった畳まれた計画書を握り、ロケットを見上げ考え続けるフォン博士の右肩背部を軽く紙を握ったままはたくように知らせ、その通達書を渡す。肩に伝わった強くも弱くもない押し付けに首だけを回しそれが何か、何なのか凡そ検討はついているが、左手を回し受け取り、畳まれた紙を「カサカサ」と乾いた音で平面に戻し、そして確認する。
「人工衛星打ち上げ予定日は7月中旬から7月17日 17:00を予定」
「決定?」
「決定」と答えるジーンカーマン。「宗弐郎」と意味を加える。それだけ言えば伝わる。
顎をさすり、首だけを回したままジーンカーマンを見ていた姿勢から戻し、正面に聳え立つロケットを眺める。
「軌道は赤道軌道からやや角度をつけること」とのこと。
「宗弐郎?」と博士。
「そう」というジーンカーマンの声を聴き、深く深呼吸をするフォン博士。
「あとはそっちの仕事」の声にいら立ちをやや表しゆっくりと首だけを回し振り向くフォン博士。
「あの四角と丸のなりそこないを俺ならとりあえず付けて、結果は。まあ、その時に」とジーンカーマンは言い、左手で小指を底面とした拳で博士の右肩を二度叩き、車の扉を開け乗りこみ、エンジンを回し角ばった排気音を鳴らし、全開になった車の窓から増大された音量のカーステレオから大声になったとしても濁らず通る江利チエミの歌声の続きを鳴らし、ロケット組み立て棟を後にする。
「野蛮人が」と博士は零し、台座の上の人工衛星を眺める。
打ち上げの失敗は責任者である彼に結び付けられる。

1966年7月1日 月曜
博士は建造がほぼ完了した「三河6.1号」を見上げた。

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写真:三河6.1号 「うわ、ブス」

1)SC-9001 サイエンスJr を除去
2)人工衛星「星1号」プロボドボダインOKTO を搭載

1)について
宇宙空間での実験なんてやってる余裕はないので重量とコスト削減。
2)について
我社、我国初の人工衛星を搭載。搭載いちに悩みましたが7/1を搭載位置の最終期限として予定し、「色々悩んだが、そのまあ見た目はあれだが仕方ないだろ」とフォン博士。これ以降この搭載位置の件とロケット全体の造形について博士に尋ねると機嫌が悪くなることが一つの不文律、社内共通認識と至る。

1966年7月17日 午後5時
三河6.1号
https://www.youtube.com/watch?v=81N4CG69PKY&feature=youtu.be


次回予告「おい、衛星 さぼんな」

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