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三河宇宙造船所 宇宙への軌跡 第13回「飛翔への欲求」

1965年4月1日 木曜 午前9時30分
三河宇宙造船滑走路近くにビーチチェアを出し、特にやることもないジェバダイア飛行士は春の頬撫で風に身を任せ、時折りむせ返るほどの菜の花の香りを嗅ぎながら流れる雲を眺めていた。雲の切れ目に銀色の陽の光を反射させる機体が見え、もう四カ月も空に上がってないことと「向こうはいいよな。空気の中を飛べて」と、有翼の機影に思いを馳せた。
旅客機でもない小ぶりな機影は徐々に高度を下げ、金切り声に似た音を立てどんどんと此方へ近づいて来る。
「まさか・・・」
機体はどんどんと近づき、合わせてジェットタービンの空気を吸い込む音も大きくなっていく。輪郭を曖昧に陽を反射していたシルエットははっきりとその姿を現し、そして引き込み式の脚を三本にょっきりと見せ、そして。

三河宇宙造船所 宇宙への軌跡 第13回「飛翔への欲求」
https://www.youtube.com/watch?v=MJlTm2iGSoY

未舗装の滑走路に見たことも無い機体が。ジェットエンジンのタービンブレードだ空気の髪の毛を引っ掴み、口から丸呑み、その食道から悲鳴のような気体の金切り声が徐々に小さくなり「カシュウッ」と三度。音を立て、そして渥美半島の牧歌的な空気に戻る。

コクピットから零れるように人が降り、そして地に倒れた。かと思ったら途端に立ち上がり、機体を潜り駆け出す。周囲を見渡し、そして此方へ近づいてくる。
「事務本館。何処?」 登場と釣り合わない女性の声。咥えていたたばこを支える口元が唖然からそのまま滑走路わきの地面へ自由落下。
言葉も無く私は事務本館の方を指さした。
彼女はそのままその姿で其方へ駆けて云った。
彼女が本日付で三河宇宙造船の新しい乗組員となった向井乃秋(むかいのあ)飛行士と後に知る。
機体にブレーキをかけ忘れたことを彼女はその日の内に知ることにもなる。

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写真:向井乃秋 飛行士 当時27歳 趣味はカンフー 医学士資格保持

1965年度採用3名の乗組員の一人であった。

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写真:Mika1 おい、なんだこれ。この時代にジェット機を保有って。どういうルートだ。
「秘密だよ」

次回予告『向井乃秋 その秘密の才能』

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