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これからの新たな市場のつくり方  【世界標準の経営理論3:情報の経済学】

第3回はSCP(ポーター)、RBV(バーニー)の2大競争戦略に続き、「情報の経済学」である。

はじめ読んだ時にはイマイチピンとこなかったが、勉強会での議論を通して、これはかなりヤバい理論だと思うに至った。

あらゆるものがデジタル化する現代こそ、「情報」という存在を深く理解することが大事になると感じた。

【読解】情報の非対称性

第1回の「SCP理論」の記事で、経済学の大原則である「完全競争」の状態の時、企業は全く儲からない、という内容を紹介した。

今回はその時には説明のなかった「第5の完全競争の条件」がスタートラインとなる。

「完全競争」 条件5
ある企業の製品・サービスの完全な情報を、顧客・同業他社が持っている。

顧客が自社のことを完全に知っていたら、例えば、商品の原価を超える価格設定は難しくなるのは容易に想像できる。また同業他社が自社のことを完全に知っていたら、常に同じ事業をすることで顧客を取り合い続け、それこそビジネスにはならなそうである。

しかし、実際には、このような状況はあり得ず、多くの場合、売り手と買い手の間、企業同士の間には、知り得ている「情報」にギャップが存在する。

取引相手のどちらかが特定の情報(私的情報)を持ち、もう一方が持たない状況、それを「情報の非対称性」と呼ぶ。

多かれ少なかれ、その「情報の非対称性」があるからこそ、完全競争が崩れることで、ビジネスが成立しているという見方ができる。

【読解】情報の非対称性による問題(アドバース・セレクション)

「情報の非対称性」があることによりビジネス上、問題が起きることをことがある。有名な事例である「アカロフのレモン市場(中古車市場)」をざっくりいうと、

中古車市場において、以下の2店舗が売価150万円で売ったとした時、私的情報を持たない顧客は、売価が適当なのかは分からないため合理的な判断として両社に対してディスカウントを要求する。
・正直な店舗A          ;原価150万円
・虚偽表示する店舗B;原価100万円

その際、店舗Aはディスカウントすると利益が出ないため、取引ができず結果的に市場に入られてなくなり、虚偽表示をしていた店舗Bが生き残ることになる。
つまり、悪貨が良貨を駆逐する。

このように、正直な店舗が淘汰され、虚偽表示する店舗ばかり残ることで、買い手がその市場に参加するのを敬遠するようになり、市場取引が成立しなくなるという問題が生じる。

こうした問題を、アドバース・セレクション(逆淘汰)と呼ぶ。

市場が成立しないこと問題なのだが、この辺りの理解がすごく大事だと感じていて、今成立している市場の話ではなく、市場として成立するポテンシャルがある市場なのに、情報の非対称性によって市場として成立していない、所謂「潜在市場」をどう顕在化させるか、というのがこの話の要点だと思う。

【読解】アドバース・セレクションへの対処法

市場が成立しない「アドバース・セレクション」を解消するための本質的・普遍的に解決する策として、経済学では以下の2つの理論がある。

■スクリーニング =私的情報を持っていないプレーヤーの対処法
複数種類の商品を提示して「顧客に選択肢を与える」ことで、顧客が自らの私的情報に基づいた行動をとるように誘導する。クーポンなどを提供するのも一例。
■シグナリング  =私的情報を持っているプレーヤーの対処法
自分の持つ私的情報を信じてもらえるかどうかを解消するために、「分かりやすく顕在化したシグナル」を外部に送ることで、相手に信じてもらう。
例)就職活動での「学歴」、コーポレートディスクロージャー、認証の取得など

こうしてみてみると、意識的か無意識かはともかく、日常的に行っていることが思い当たることがあるが、スクリーニングやシグナリングを意識的に使うことがポイントになる。

これからの時代の「新しい市場」を創るヒント

情報の非対称性によるアドバース・セレクションを実務に生かす観点はいくつかあるが、私にとっての最大の「気づき」は、本書の中になる「取引評価」や「取引システム」を活用したメルカリ(プラットフォーマー)の例である。

メルカリは、ネット上で顔が見えない(信頼関係が築くことができない)買い手と売り手を繋いだビジネスだが、これこそ、これまでは情報の非対称性によるアドバース・セレクションによって「取引が成立しなかった市場」である。

しかし、メルカリは、デジタル技術でシグナリングを巧みに使うことで「取引が成立する市場」(プラットフォーム)を作り、まさしく新たな市場(顧客)を創造している。

そのような目線で世界に目を向けると、中国のアリババも法定通貨の偽札などの信用が低く取引が生じづらかった市場を、デジタル技術などを用いることでネット通販のみならず、QR決済などにより街中の店舗の市場も円滑化させたとみることもできるのではないか。

こうした世の中の流れを言い換えると「情報の非対称性により信用が担保されていなかった潜在的な取引関係に、デジタル技術の進展によりデータを用いて信用を可視化することで大きな市場を生む可能性」を示唆している。

「公民連携」の本質的意義

少し話は変わるが、昨今、社会保障費の増大や人口減少などによる行財政悪化、また行政サービスの改善などを背景として、公民連携やPPP(パブリック・プライベート・パートナーシップ)という動きが日本でも本格化し始めている。

簡単にいうと、行政が今までやってきたことを、民間に任せる範囲・権限を増やしていくことだが、かなり進んできてはいるものの、実務として携わっている立場としてはまだまだこれから、という感覚がある。

その原因は、行政と民間の間には、大きな大きな「情報の非対称性」(それぞれの組織論理、技術・知識、経営的視点、公共性の意味、、、)があるためであり、本来取引が成立しても良いものが、成立していないものが多くあると感じる(アドバース・セレクション)。

つまり、「情報の非対称性」によって、行政と民間には「信用に足るべき取引相手としてお互いに見なせていない」という構造がある。

しかし一方で、行政と民間の間には、アドバース・セレクションにより顕在化していない市場が膨大に隠れているのではないか、また、その市場開拓が社会課題の解決に大きく寄与するのではないか、というのが私の仮説である。

前述したように、市場として成立していない「潜在的な市場」を、いかに顕在化させるかだが、そのアドバース・セレクションを解決する有効な手立てが「公民連携」だと考えている。

「デジタル技術」と「公共」

「情報の経済学」という観点でその応用を考えた時、「デジタル技術」と「公共」というキーワードが思い浮かんだわけだが、関連する話として昨年末に「次世代ガバメント」という書籍が出版された。

現在の社会課題の根本的な解決や、テクノロジーの正しい社会への使い方を理解すること、さらには、スマートシティやスーパーシティというものを超えた新しい社会の作り方を考えていくのに大変参考になる書籍だった。

今回、情報の経済学という思考の軸が、その一助になるという感覚を感じることができた。


※最後までお読みいただき有難うございます。理論をちゃんと理解頂く為にも「世界標準の経営理論」をぜひお読みください。


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