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不確実性を味方につける  【世界標準の経営理論7:リアル・オプション】

今、このタイミングは、ここ最近の人類史の中でも最も不確実性の高い時代ではないかと思う。

今回の扱う「リアルオプション」は、まさにそうした時代において求められる理論だ。

リアル・オプションを学んだことによって、私自身、これまでの思考がいかに狭いものの中で判断してきたを痛感させられた。

「リスク」「不確実性」を味方につける。

わかっている人には当たり前のことかもしれないが、安定志向の強い企業という狭い世界だけ見ていると気づけない、しかし、これからの時代においてとても重要な理論だ。

【読解】リアル・オプションとは

リアルオプションは、もともと金融工学から生まれた理論であり、それが企業の事業投資判断にも応用されてきたという歴史がある。

ここで、一般的な事業の意思決定方法であるDCF法と、リアルオプションを用いた意思決定の違いについて説明したい。

■一般的な事業の意思決定(DCF法)
 ざっくり言うと、
 「将来予測したキャッシュフローを、現在価値に換算した額がプラスなら投資する」

「現在価値」とかテクニカルな部分を除けば、要は「長期的に利益が出る」ことを単純計算しただけなので、とても分かりやすい。

しかし、このDCF法の問題点は、不確実な状況ほど投資を避ける判断になりやすいと言う点である。

なぜなら、DCF法で将来予測をする際、一般的には10年単位先の未来について売上・費用の「予測」をすることになるため、よっぽど楽観的な人でない限り、考えうるリスクは盛り込む形での予測となる。

そしてそのリスクは、これも一般的には、アップサイドよりもダウンサイドを見込む傾向があるため、当たり前だが、不確実な市況に対する予測は厳しいものとなるためである。

一方、リアルオプションの考え方は、リスクを活かす発想に基づいた投資判断をするところにDCF法との根本的な違いがある。

■リアル・オプションによる事業の意思決定
 ざっくり言うと、
 「とりあえず小さく初めて、数年後に追加投資/撤退/維持などを判断する」

大事なのは、意図的に段階的な投資を組み込み、数年後の選択肢(オプション)を選べる状況にしておく、と言うこと。
①追加投資・・・コールオプション
②撤退・・・撤退オプション

DCF法とリアルオプションの違いを具体的な例で示すと、

成長著しい新興国に消費財か何かの工場を作って市場に参入する際、その市場の将来予測をする必要がある。
■DCF法の場合
過去のトレンド(例えば、成長率8%など)を用いて事業計画を作ることになるが、よっぽど強気な人でない限りダウンサイド側で計画を作る。そうすると、投資効果が出ない=市場参入しない、という結論になる。
■リアルオプションの場合
「とりあえず、当初構想の4割の投資で初めて、3年後に改めて、追加投資するか、撤退するか、継続するか、などを判断しよう」という意思決定になる。

ではなぜ、リアルオプションが求められているか。

リアル・オプションのメリット
①  市場の下ブレの際の損失幅を抑える
②  市場の上ブレのチャンスを逃さない
③  不確実性が高いほど上ブレの果実を得られる可能性がある
④  学習効果

この中では、②③が特に重要で、その前提は「不確実性を機会と捉える」という基本発想に基づいている。

最近の大企業において不確実性というと、「先が読めないもの=危ないもの」と捉えられがちだが、「先が読めない(跳ねるかもしれないし、跳ねないかもしれない)もの=跳ねる可能性を確実に取りに行く」という、投資行為に対する、ある種のマインドセットが必要となる気がした。

これまでのように、考えて、考えて、考えて、、、その結果、「よし、リスクでかいから見送ろう」みたいな、「石橋が丈夫だったのに渡らない」と言うことを無くすことができる。

最近では、リーンスタートアップ、アジャイル開発、など小さく初めて顧客の反応を見ながら修正しながら進めていく手法が一般的になっているが、まさにそれを経営手法に持ち込むということがポイントになっていると感じる。

【読解】リアル・オプションが有効な状況とは

リアルオプションにも、限界があり、ある一定の条件を満たした時に有効だとされている。

リアル・オプションが有効な状況の3つの条件
①投資の不可逆性が高い
 :一回投資すると戻ってこないタイプの投資
②オプション行使コストが低い :追加投資額が高すぎないこと
③事業環境の「不確実性」が高い

ここで重要なのは、「不確実性」とは何か?という点である。

本書でも2つの不確実性の種類分けが紹介されているが、分かりやすいのは、メリーランド大学のヒュー・コートニーさんが示した「不確実性の4つのレベル」だ。

不確実性の4つのレベル
レベル1 確実に見通せる未来
レベル2 他の可能性もある未来
レベル3 可能性の範囲が見えている未来
レベル4 全く読めない未来

このうち、レベル2、3のような環境下においてはリアルオプションが有効だとしている。

これは、すなわち、自分の置かれている環境において、不確実性をどう見抜くかの力が問われているということに他ならない。

今はどういう時代か?

私が社会人になったのは今から15年くらい前だが、その時にはEVA、IRR、NPVという事業評価がスタンダートとなっており、学ぶことになった。

誤解を恐れずいうと、EVA、IRR、NPVも、将来生み出す価値を現在価値に置き直して評価する、という点においてDCF法と同じである。

以前はEVAだった指標が、IRRになったところで、全ての判断基準の元になるのが「将来予測されたキャッシュフロー」という点においては本質的には同じ考え方に基づいている。

DCF法は分かりやすくて、そして多くの場面において強力な説明力を持つ点は間違いない。

しかし、一方で、社会人になってからDCF法のみの事業評価に染まってきた人にとっては、今の時代、これからの時代は、苦しい時代ではないか。

なぜなら、以前までと比べて「確実性の高い予測できる未来」なんてものが限りなく、無くなってきているためだ。

その際たる例が「人口」だ。

多かれ少なかれ、世の中の古くからある多くの事業が、人口増加によって売上を伸ばしてきたことは疑いようがない。

つまり、それほどマーケティングや戦略を意識しなくても稼げてしまってきた時代である。

こういう時代においてはDCFは物凄く有効に機能する。

しかし、そういうビジネスの思考が定着してしまった人には、読めない未来ほど辛いものは無い。

なぜなら、ほとんどの事業においてDCFで算出しても投資効果が出ないためだ。

不確実性を味方につける

冒頭にも述べたとおり、今まさにこの時は、ここ最近の人類史の中で空前の不確実性の高いタイミングだと思う。

そしてそれは、人口増加が止まるということと相まって、これまでやってきた事業に劇的なダメージを与える可能性がある。

しかし、一方で、人間の数がゼロになった訳ではないので、世の中の変化と合わせて、これまでとは異なるニーズ、需要が生まれていることに他ならない。

こういう状況下に、不確実性を味方につけて、積極的に投資判断をした人や組織のみが次の市場を作っていくことは歴史を見ても間違いない。

そして、その投資判断がDCF法に基づいて意思決定できるとは思えず、有効に機能するのは、リアルオプションに基づいた意思決定になるのではないか。


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