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『重力の光』AFTER TALK LAST 10 DAYS:9/25(日)レポート🕊✨

ゲスト:
🔶永井玲衣 (哲学研究者)
🔶田中悠輝 (映画監督)
🔶八木咲 (本作撮影・写真家)

☑️田中悠輝
本当に苦労されてきて困難を伴って生きておられる方々の物語なので、聖書劇を挟むような構成によって、描かれていない部分も想像できる作りになってるのがすごくいいなと思いました。本当にしんどい場面って撮れたとしても使えないことがたくさんあって、ドキュメンタリーから入った監督ーー是枝監督やケン・ローチ監督とかもそうですけど、それによって劇映画に行かざるを得なかった部分があるんじゃないかな。
僕も日々生活困窮の現場にいて映像を回したりもするんですけど、撮りながらも「これは使えないかもしれない」みたいなことがすごくあります。
 
ドキュメンタリーパートはやはり必要で…とりわけ個人的に好きなのが、後半の聖書劇、イエスキリスト役で元極道の菊ちゃんがユダを指さして「裏切るのはあなただ」っていうところ。ものすごくかっこいいんですよね。ドキュメンタリーパートで菊ちゃんがこれまの人生で自分がいかに裏切って逃げて、いろんなことをしてきたかを話すんですが、その上であの聖書劇のシーンがあるというのがすごく良い。
 
すごくいい制作チームだったんだろうなと感じました。対象との距離ひとつとってもそうなんですが、対象がカメラを信頼して委ねているし、安心して撮られてるのが伺える。作品としてはすごく洗練されているのにどこか可笑しみや温かみがあるのはそういうところだなと思いました。
 
☑️永井玲衣
今日ちょうど哲学対話の場を開いて「重力の光」を見た方と一緒に考え合うということをしたんですけど、そこで「騙し騙し生きる」という言葉が出てきてすごくいいなと思ったんです。ここに出てくる人たちって「真面目に償います」という感じではなく若干ヘラヘラしてたり、淡々と自分のすごく壮絶な過去を語るんだけれども、でもなんか生きちゃってるというか。みんな罪人なんですよね。でも同時に私たちも罪人であって、実は騙し騙し生きている。なんとかそうやって生き続けてる。
この映画を観ながら「祈り」って何なのかをずっと考えてるんですが、 哲学対話に参加された方が「祈り」っていうのも騙し騙しみたいなことに近いとおっしゃっていて。祈るってことは何かをごまかそうとすることなんだと。その問い、言葉が今ずどんと残っています。
 
☑️八木咲
この映画自体が哲学対話のようなものなんじゃないかと思いました。「こういう映画だ」と一言では言えないんですよね。観た人がちょっとずつ落ちているかけらを拾って、個々に繋いでいくみたいなところがある映画だと思う。監督はドキュメンタリー映画を撮っている人ではなく、現実と芸術の間に立って、こういうものがあるっていうことを美しく見せる役割をしている人。そういう個々の役割があって、ちょっとずつかけらがあって、繋がったのがこの作品なのかなと思いました。
 
☑️永井玲衣
後半の演劇が非常に必然性があるように感じるんですね。 私たちは騙し騙し、ごまかしながら、気づかないフリをしながら、演じながら生きている。でも、何かを演じてみることでその問題に向き合うことになる。演じるっていうのは単に逃避ではなく、イエスキリストを演じることによって、実は罪とか許しとか贖うってことについて考えざるを得なくて、それを見ている私たちも自分が罪人であるっていうことに向き合わざるをえない。監督の海ちゃんがどこまで仕掛けてるかは全くわからないけれど、ままならない状態の中で海ちゃんもそこに向き合う。引き受ける、ということが映画を通して見えてくる。
 
☑️田中悠輝
出演されていた奥田伴子さんがパンフレットに書いていたんですが「小学校の学芸会みたいなものがこんな映画になるんだ」と。たしかに引いて見るとお遊戯会に見えちゃうようなところってあると思うんですが、それを撮影チームが許さなかった。素人の演劇だけれど、その仕草とか、その人生とか、目の前でやってることにちゃんと寄っていくと、お遊戯会とは全然違うものになるっていうことを制作チームがわかっている。
こういう時、撮影する側の態度が問われると思うんです。支援にも通づるところですが、その人たちが持ってる力だったり、やってることをちゃんと信じることができるかというのは、すごく問われるんじゃないかと思いました。
 
☑️八木咲
海ちゃんも私も、どう美しく見せるかが作品の上で重要な点でもあった。美しく見せることによって、その一瞬自分たちの暮らしとはかけ離れて見えるんですね。美しいことって違う世界のようにも感じるんですけど、でも、自分たちとの暮らしと同じなんだなっていうところに繋がるんだと思います。

『重力の光』AFTER TALK LAST 10 DAYS開催中!!

927(火)2045 _ 平岩壮悟(編集者) eri(DEPT Company代表) 石原海(映画監督) (3)


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