鬼婆と若い旅の僧①-人の生き肝を食らう鬼-

ここは山深い峠道

あと四半時もすれば日もとっぷりと暮れようという山深い峠道を一人の若い旅の僧が道を急いでいた

僧:う~む・・・急げば峠は越せると思うたが、思いのほか険しゅうて道がはかどらぬ。さて・・・どうしたものか

N:夜更けて物騒な山道を行くよりはどこか身を隠せそうな場所で野宿をと思い辺りを見回す若い僧

僧:おお、あそこに明かりが見える。一夜の宿を乞うてみるか

僧は明かりを目指してしばらく歩き、戸口に立った

ドンドン ドンドン(戸をたたく音

僧:もし!もし!私は旅の僧でございます。この日が暮れに難渋しております。一夜の宿をお貸し願いまいか。もし!もし!

(戸が少し開き中から若い女が顔をのぞかせ、すぐに戸が大きく開かれる

若い女:それはそれは・・・難儀なことでございましょう。さぁさ、あばら屋ではございますが、どうぞお入りくださりませ。

N:僧は中から若い女が出てきたことに一瞬驚いたが、言われるままに中に入る

若い女:いま粥を炊いておりました。何のおもてなしもできませぬが、良ければ食べてくださりませ。

僧:おお、これはかたじけない。何よりのご馳走でござる。

(僧がさらさらと粥をかき込む音

僧:いや、美味しゅうござった。ところでつかぬ事をお尋ねするが、このような山深い所にお一人でお住まいか

若い女:いえ、夫が猟師をしておりまして、もうおっつけ戻る頃でございましょう。

僧:さようか。いや、そうであろうとも。このようなところにあなたのような若いお方がお一人でお住まいかと思うておりました。

若い女:お疑いはごもっともでございます。あの・・・ところでお坊様は里の方から登ってこられたのでしょうか

僧:いかにも

若い女:そうでございますか。あの、それで、里の方の様子はどうでございましたでしょう

僧:うむ。騒がしゅうござった。なんでも、戦が始まるやもしれぬと言っておったの

若い女:そうでございますか。この国は先代のご領主様の頃に隣国と戦がありました。その時はどちらが勝ったともなく戦を納め、それからは噂こそあれ、戦う事はなかったのでございますが

僧:さようでしたか。いや、戦などないに越したことはない。苦しい思いをするのはいつも農民でござるからのぉ

N:女はふと、悲しそうな顔をしたが直ぐに気を取り直し

若い女:そうでございますとも。あら・・・これは・・・私としたことが。お疲れでございましょうにお話をさせてしまいました。いま、ここに床を延べますゆえお休みくださりませ。

N:女は床を延べると隣の部屋へ引っ込んでしまい、僧は山道を急いだ疲れがあって床に入ると直ぐに寝息を立てた






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