マリオパーティー


私は「マリオパーティー」に非常に大きなトラウマがある。
小学2年生の時のことだ。
近所にs君というジャニーズ顔のイケメンくんがいた。そう美貌ゆえか幼き頃からカリスマ性が凄く、s君は近所の酒屋の店主にネゴをして、翌週のジャンプの内容をその前の金曜日には把握しているような男だった。

今でこそ容姿には一種の諦めを感じているが、当時はs君の容姿含め全てに対し羨望と劣等感を感じていた。

そんなs君だが好きなものはやはり男の子というところ、ドラゴンボールやワンピースだった。私も人並み以上にそれらの作品が好きだったため、すぐにs君と打ち解けることができた。
休み時間は、二人で悟空とベジータ結局どっちが強いのかなどの議論を重ね、実際の肉弾戦に明け暮れていた。戦歴としては50戦49勝のペースでs君が勝っていたと思う。
s君は負けない存在だった。

そんなこんなで絆を深めていたある日
ふとs君の家で遊ぶことになった。
s君の部屋は沢山のおもちゃやフィギュアに囲まれていて、7歳の私の目にはまさにワンピースだった。
例に漏れず最新のゲームソフトも揃っており、ゲームを良しとしない家庭育ちの私としては留まることを知らないハートビートを起こしていた。
大きなカルチャーショックに面を食らった私に、特に気を配ることなく「これをやろう!」s君の手にはマリオパーティーがあった。
周知の事実ではあるが一応説明すると
マリオパーティーはその名の通りすごろくをパワーアップしたようなパーティゲームである。プレイヤーは4人まで参加可能で、人数が増えれば増えるほどゲームが楽しくなる仕様である。
s君はこのゲームを私と2人、サシでやろうと言うのだった。
気が重かった。別のゲームをしたいなんて口が裂けても言えないムードだった。
招かれて入るものの、家主の命令は絶対だからだ。赤い帽子を被った小太りの男とそれを取り巻く不気味なやつらがヘラヘラとコチラを除いている。
「うん、おもしろそう!」こんなような明るい返事をして、ゲームに取り組んだ。

思いの外、このゲームは楽しいものだった。
ゲーム内にはミニゲームや、スターの奪取という大きなルールがあるため、パーティゲームではあるものの適度に競争心を煽る仕様となっていた。
順調にゲームを進めていたとき、ふと部屋の空気感が変わっていたことにきづいた。
s君が前歯をキリキリとさせて、画面を睨んでいた。そう、s君が私に負けていたのだ。
絶対に負けるはずがないs君が私にだ。
マリオパーティを選んだs君の思惑としては、じわじわと差を見せつけて蛇のように
確実に私に勝利することで、力関係を明確にわからせてやろうとしていたんだと思う。
それなのに、ろくにゲームをやらないような一重メガネに、意図せず攻略されてしまったことにs君は並々ならぬ怒りをもっていた。

しまったと思った。s君はカリスマ性がありクラスの人気者だ、この一件によりこいつが私に敵意を向けた瞬間、一瞬でクラスの除け者にされてしまう未来がハッキリと分かった。
しかしこのゲームの仕様上、手を抜くにも抜けないため、このまま勝ち続けるかor手を抜いてs君をお膳立てするか
私は絶望の帰路にたたされていた。
その時、猛烈な尿意に襲われた。つい先日オネショを克服したものの、まだ自分のションベンバルブを調整できない年頃。
トイレに行きたいとs君に伝えるべきだったが
それを伝えることで、ションベンをする余裕がある=s君のことを舐めている
という方程式が成り立ってしまうのでは…と幼心に感じたのだ。
s君に嫌われてしまう…s君を怒らせてしまう…
どれだけ悩んだことだろう。体幹にして丸一日はカウントできるような…あの時s君の部屋は、まさしく精神と時の部屋であった。
雷が落ちた。ションベンは私の伝令を待たずに水門を開けてしまった。
全ての邪念をふりほどくような快感。
s君のお気に入りのルフィのブランケットは私のオールブルーによって、生暖かい安らぎを得ていた。カナヅチなのにごめんなルフィ。

絶妙なタイミングでs君がトイレに行った。
どうやら私のションベンには気づかず、己の尿意に蹴りをつけにいくようだ。
大きな後悔(ちょっとした尿溜まり)と快感を後にして、私は急いでs君の家を飛び出た。

その後のことといえば、とても悲惨なものだ。この一件を経てs君との関係はとても歪なものとなり、私はいじめとは言い切れない微妙ないじめを7年ほど受けた。
そしてことあるごとに、「俺のベットをションベンで濡らしやがって」と言われた。
彼の持つ免罪符はびしょ濡れの思い出だった。
あの時謝っていれば。あの時素直にトイレに行きたいと伝えられれば。
千の夜をこえて、大人になった私。
来年でこの一件から20年になる。
s君は鳥籠を脱出することができただろうか。
ションベン臭いゴム人間は処理されたのだろうか。
今なら言える
あの時、お気に入りのルフィを溺れさせてごめんね。
溜めに溜めた黄金の聖水を思い出にしてごめんね。

友人と思い出話に花が咲き
s君がヤニカスになりはてて歯がボロボロになってしまったと言う話を聞いて、思い出してしまったそんな話。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?