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海外ロマンス温故知新2 野性味あふれるハイランダー、いかがですか?

ハイランダーは通常、スコットランド北部に住む戦士たちです。ロマンス小説でハイランダーものの表紙にはたいてい「筋骨隆々で上半身裸にタータンチェックのキルト」という姿で描かれ、つい「ムキムキマンのエンゼル体操」を思い出してしまうのですが(若い人、わかるかな?)、身長は2メートル近くあり、さっきも言いましたが筋骨隆々、非常に寒い地域に暮らしているせいか寡黙で口下手。大事なことを言わなかったりして時々誤解を招きますが、そんな無口なハイランダーが満を持して発する愛の言葉は、きっと女心をわしづかみにすることでしょう。

今回は、温故知新といいながらさっそくブレブレですが、テリー・ブリズビンのハイランダーシリーズの第一作と未邦訳の第二作をご紹介したいと思います。(2024年2月19日時点)
軽くネタバレあったりするかもしれませんので、ご注意いただくか、読んだらすぐに忘れてください。
なお、Amazonのリンクが貼ってありますが、とくにAmazonからの購入を促す意図はなく、アフィリエイトにも参加していません。

『ハイランダーの美しき獲物』
テリー・ブリズビン
深山ちひろ 訳
ハーパーコリンズ・ジャパン
2016年7月28日発行

ストーリー★★★★★
ヒーロー ★★★★★
ヒロイン ★★★★★
胸キュン ★★★☆☆
切ない  ★★★★★
ハラハラ ★★★★☆
笑える  ★☆☆☆☆
ホット  ★★★★★

【萌えポイント】決して結ばれることはないと知りつつ、どんどん惹かれあっていく二人の心の動きが丁寧に描かれます。お互いに求めあう心が最高潮に達したとき、ついに……!!そしてその後、ケイランの野望を阻止し、アラベラを守るためにものすごく怖いアラベラの父の元に単身乗り込み、ぼこぼこにされるブローディが良いです!漢です!

長年対立し、血で血を洗う抗争を続けてきたキャメロン氏族とマッキントッシュ氏族は、停戦のために婚姻関係を結ぶことに。キャメロン氏族の族長の娘アラベラの花婿となるのは、マッキントッシュ氏族の族長の甥にあたるブローディと、そのいとこのケイランのどちらかです。寡黙で野性的な魅力あふれるブローディと、女あしらいに長けた、青い瞳とえくぼがチャーミングなケイラン。最初はまあ、どっちでもいいや……的なノリだったアラベラでしたが、馬の種付けの話で盛り上がったこともあり、気持ちはブローディに傾いていきます。共通の趣味ってやっぱり大切ですね。

氏族の顔合わせは当初はつつがなく進んでいましたが、ある晩、男たちだけの宴の際に、ブローディはなぜかいつもより酔いが回ってしまい、眠り込んでしまいます。そして目覚めたときには、あたり一面血の海! アラベラの双子の弟マルコムが、胸にブローディの短剣が刺さった状態で息絶えていました。ブローディは有罪とされ、処刑は免れたもののマッキントッシュ氏族からも、同盟諸族からも追放され、人としての資格も剥奪され(人としての資格って?)、名前まで奪われるはめに! くれぐれも飲み過ぎには注意したいものです。でもこれ、おそらく薬を盛られたのだと思います。

その後ブローディは自分を信じてくれる仲間たちと共に放浪の四カ月を調査に費やし、ケイランが長きにわたり綿密に策略を練り上げていたことを突き止めます。ケイランは目の前で両親をアラベラの父に殺されていたため、キャメロン氏族をずっと恨んでいたのでした。そういうわけで、アラベラの目を見張るほどの美貌にも心奪われることなく、復讐に燃えていました。それはそれで同情の余地があるのですが、やり方が狡猾で卑怯なので、ハイランダーの戦士としてはNGといえるでしょう。

ブローディが追放された今、アラベラの結婚相手はケイラン一択となりましたが、ケイランがキャメロン氏族をアラベラも含めて根絶やしにするつもりだと知ったブローディは、二人の結婚式前夜に、アラベラを連れ去ります。ブローディと仲間たちは野営地で、アラベラは捕虜として洞窟で暮らすうちに、二人の心の距離が縮まっていき……。

シリーズ第一作ということで、主要登場人物たちの紹介をかねて、その人となりが丁寧に描かれています。ヒロインのアラベラは、誰もがほめたたえる美貌の持ち主で、賢さと強さを兼ね備えた女性。捕虜として過ごす間、マッキントッシュの人たちが怪我をした際、献身的に手当てをしたりして、お姫様なのに働き者で性格が良いのでポイント高いです。ヒーローのブローディは寡黙で、気の利いたことは言えないけれど、たくましく、氏族を想う気持ちは誰にも負けない誠実な「ザ・ハイランダー」。そして親友のロブは、軽口をたたきながらも常にブローディを信頼し、力になってくれる頼もしい相棒。ロブの姉マーガレットは、ロブと同じで口は悪いけれど、物事の本質をついたアドバイスをしてくれる頼れる女性。こうした魅力的な登場人物たちが今後どんな活躍をするのか期待が高まります。そのロブに縁談がもちあがり、ちょうどそのころ、スコットランド高地の外れに住む娘が、マッキントッシュの男との婚約を言い渡されたのを不服に思い、家出を敢行する……というところで本作は終わります。ということで、まだ訳書が出ていないので(2024年2月19日現在)、原書『The Highlander’s Runaway Bride』を読んでみました。

『The Highlander’s Runaway Bride』
Terri Brisbin
Harlequin Historical
2016年3月1日

ヒーロー ★★★★★
ヒロイン ★☆☆☆☆
ストーリー★★★☆☆
泣ける  ★☆☆☆☆
笑える  ★★☆☆☆
胸キュン ★★★★☆
ホット  ★★★★★
【萌えポイント】とにかくヒーローがたくましく、忍耐強く、献身的で優しいところ。(途中一回キレて暴言を吐きますが……)

スコットランドの北西部を支配するマッケイ氏族の長ラムゼイ・マッケイの娘エヴァは、未婚で女の子を出産した直後、横暴な父ラムゼイに赤ん坊を人質に取られ、赤ん坊の父親であるエリックを殺されてしまいます。悲嘆にくれるエヴァの気持ちなどおかまいなしに、ラムゼイはエヴァを南部の有力なマッキントッシュ氏族の男性と結婚させるつもりでした。
その結婚相手とは、マッキントッシュ氏族の族長ブローディのいとこで片腕でもあるロブ。ロブには結婚願望などもとよりなかったのですが、ブローディに命じられる形でマッケイ族の娘エヴァを妻として迎えに行きます。ところが、いざマッケイの城に着いてみると、なんと花嫁は結婚が嫌でどこかへ逃げ出してしまった後でした。

エヴァの逃亡先に目星をつけたロブは、ある洞窟で怪我をして動けなくなっているエヴァを見つけました。嵐が近づいていて、このまま洞窟にいると危険なため、ロブはエヴァを抱き上げ安全な小屋まで連れていきます。エヴァは高熱を出し、意識もとぎれとぎれでしたが、ロブの献身的な介抱によって数日後に回復します。その後、二人でマッケイの城に戻り、正式に結婚の契約を交わしますが……。

一作の終わりで、「(婚約を)不服に思った娘は、その翌朝、家出を敢行する。数週間後にやってくるマッキントッシュの男の対応を両親に丸投げして……。」と、男勝りの元気いっぱいなお転婆娘がヒロインのコメディタッチかなと勝手に予想したのですが、ずっしり重いストーリーでした。
ヒロインのエヴァがとにかくずーっと暗いです。でも、それもそのはず。なにしろ、父親からのひどい虐待が日常茶飯事だし、愛する人を父親に殺され、産んだばかりの子供を人質にされ、父親の命令に背けば子供の命はないという状況で、見知らぬ男と結婚させられるんですから。そんな境遇で明るく元気でいられるわけがありません。しかも、父親からいろいろと口止めされていて、周囲の人たちに本当のことを言えないため、どうしても一人でウジウジ悩むしかないのはわかるのですが……。ただ思い悩み、すぐ疲れてうとうとし(私もです!)、ショックなことがあると気絶し、逃げ癖のあるヒロイン。おまけに特に性格が良いわけでもなく、正直魅力を感じませんでした。(関係者の皆様すみません)

ところが、そんなエヴァに庇護欲をかきたてられるのが、「夫」となるロブ。怪我をしているエヴァをたくましい胸に軽々と抱き上げて運ぶところは、ほとんどの女子がきゅんきゅんしてしまうのではないでしょうか。ロブは手練れのプレイボーイで女性の扱いはお手の物ですが、エヴァのことはとても大切にし、契約上の夫婦となってもエヴァの気持ちが自分のほうをむくまで、欲望はぐっと抑えて紳士的にふるまいます。その後いろいろあってエヴァとぎくしゃくし、「俺の前に何人と寝た?」なんてエヴァに聞いたのにはドン引きでしたが、それ以外はとても頼もしくて優しくて素敵でした。そしてラストに大活躍しているはずなんですが、一作目のブローディの大活躍とちがい、なぜか詳しく描かれていません。ドラマでいう「ナレ死」ならぬ「ナレ活躍」みたいな感じで……。

この作品で作者は「女性の権利」というテーマについて書きたかったと思われ、男尊女卑もはなはだしいマッケイ氏族と、女性の立場が強いマッキントッシュ氏族との対比がくっきりと描かれています。女性は男性に従うもの、と暴力によって徹底的に教え込まれてきたエヴァは、ロブの妻となり、族長ブローディの妻アラベラやロブの姉マーガレットが男性と対等にふるまい、時には男性に指示を出したりするのを見てカルチャーショックを受けます。これに刺激を受けたエヴァは、ついに冷酷非道な父に立ち向かい、自由をその手に取り戻す……というわけでもなく、最後まで特に何もしませんでした。このシリーズは現在7巻まで出ているようなので、エヴァも今後、アラベラやマーガレットの影響を受けて変わっていくのかもしれません。

なお、テリー・ブリズビンさんに限ってのことかもしれませんが、ハイランダーは戦士なので、怪我や諸理由による流血シーンもあり、またホットなシーンを含め生々しい表現が多いので、苦手な方はご注意ください。

一作目がとてもおもしろかったので、訳書が出るのを待ちきれずに原書で読んだのですが、今月末(2024年2月28日)に一作目と同じく深山ちひろさんの訳で『ハイランダーの花嫁の秘密』として発売されるそうで、ぜひとも翻訳版で読み直したいと思います。
(文責:岡田ウェンディ)


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