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読書感想文


『お探し物は図書室まで』 青山美智子

 この本で読書感想文を書こう、と決めた1番の理由はタイトルです。
図書室とあるから学校図書室の話かな、そうしたら主人公は司書か図書委員かな、と考えて、自分が司書の勉強をしていたこともあり、読んでみることに決めました。

この物語は、「羽鳥コミュニティハウス」内の図書室で司書を務める小町さゆりのもとへ、様々な悩みを抱える主人公たちがレファレンスサービスに訪れることで展開していきます。

レファレンスとは、図書館における調べ物のサポートを指します。こんな本を探している、○○に関連する資料が欲しい、そういった要望に答えるためのサービスであり、司書の重要な仕事のひとつです。


司書の小町さんは大きな体に三白眼、無愛想と一見親しみづらい女性です。
私の小町さんに対する第一印象も、「この人利用者にタメ口なのめっちゃムカつくな」でした。
それが読んでいるうちにだんだん親しみを覚えて、最後には小町さん可愛いなぁ、に変わったので、作者の青山先生にまんまと踊らされてしまった気がします。


レファレンスに訪れた利用者に小町さんが渡すのは、要望からかけ離れた本と、彼女お手製の羊毛フェルトのマスコット。

それらは一見見当違いのようなのに、登場人物たちの悩みを晴らすきっかけとなっていきます。

『ぐりとぐら』や『げんげと蛙』など、現実に存在する本を使っているのも、この本の特徴の一つです。
作中の人物たちが楽しそうに読むものだから、いいな、私も読んでみたいなと思えるし、実際にそれが可能なので、あのシーンはこのページを読んでいたんだなぁと主人公たちの行動を追体験することもできます。
何より、新しい本に出会うきっかけとなるのがとてもいいなぁと思いました。昔、国語のテストの課題文を見て、終わったあとにそれが載っている本を図書館で探して読むのが好きだったことを思い出して、何となく懐かしくなりました。


「どんな本もそうだけど、書物そのものに力があるというよりは、あなたがそういう読み方をしたっていう、そこに価値があるんだよ」

小町さんのこの言葉が、読み終わったあとも何となく胸に残っています。
1章ごとに主人公が異なるこの物語では、一人一人が異なる悩みを持っています。
仕事が辛い、育児から復帰したのに元のキャリアに戻れない、やりたいことが別にあるのに、どうしても踏み切れない……
小町さんも彼女が薦めた本も、確かに彼らの救いとなるのですが、それはあくまできっかけに過ぎません。
現状が変わったのは、あくまでそれぞれが頑張ったからなんだよ、とそうした書き方をされているのがとても好きです。


出てくる人達がみんな優しくて、読み終わったあとはなんとなく穏やかな気持ちになれる1冊です。
ぜひ、読んでみてください。きっと図書室に行きたくなりますよ。




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