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【世界の野生生物保全】野生生物の違法取引に影響を与えている要因は

 以下に紹介する研究は、政府や国際NGOがどのようなプロジェクトに投資すべきか、またどのような戦略に基づいてプロジェクトを立案すべきかなどを考えるうえで役立つホライズン・スキャニングについてです(訳注:ホライズン・スキャニングとは、利用可能な情報を体系的・継続的に収集・分析し、潜在的なリスクや可能性を把握する手法のこと)。この研究では、「野生生物の違法取引」は世界の政治経済の大きな変動の中で現れた問題の一つであり、その解決にはSDGsの複数の目標を同時に達成する必要があることを示唆しています。「絶滅危惧種の保護」にとどまらない、異分野のセクターと連携した包括的な取り組みが求められています。この調査結果は2018年ロンドンで行われた会議(Illegal Wildlife Trade Conference: London 2018)および2019年ワシントン条約第18回締約国会議で発表された書類に活用されました。
 (以下は要約です。正確にお知りになりたい方は原文をご参照ください)

新たな野生生物の違法取引問題:地球規模のホライズンスキャン
Emerging illegal wildlife trade issues: A global horizon scan
Nafeesa Esmail 他
Conservation Letters. 2020. 2020; e12715.


 野生生物の違法取引に影響を与えている要因は何か。この研究では、専門家(生物医学工学、保全、犯罪学、地球科学、生態学、経済学、地理学、法律、政治学、社会学など)から意見を収集し、バイアスを軽減するなどの手順を経て、今後5〜10年間で野生生物の違法取引に正または負の影響を与える可能性のある新たな問題を特定して優先順位を付けた。そして優先的に取り組むべきとされた20の問題は、最終的に以下3つのテーマに分類された。

1つ目のテーマは「地政学的変化と影響」
(1) 漢方薬の政治的サポートと文化的復活
(2) 国際援助や投資を通じた中国の途上国への影響の増大
(3) 中国の「一帯一路」政策をはじめとする新しい貿易ルートの急速な拡大
 野生生物の供給元、とくにアフリカとラテンアメリカは自由貿易や移民政策を含む開発により違法取引を悪化させるかもしれない。アフリカの急速な経済成長は、農地の拡大と生息地への侵入、サハラ以南の急速な人口増加は野生生物との対立、資源への圧力、野生生物犯罪の増加につながる。アジアの需要拡大は取引対象に影響を及ぼし、ラテンアメリカでは確立された密輸ルート以外のルートが使われている。ベネズエラの政治・経済社会の不安定さは近隣国に影響を及ぼしている。

2つ目のテーマは「科学と技術革新」
(1) バイオテクノロジー:遺伝子情報を基に種や原産地を識別し、販路の追跡を可能にする。
(2) 情報技術:オンラインとモバイルの決済システム、閉鎖型ソーシャルメディアが違法取引を助長している。一方、取引を追跡・中断させる財務分析や調査ツール(訳注:違法取引を通報するスマホアプリなどのことか)が開発され、法執行機関は広範囲での対応が可能になっている。

3つ目のテーマは「需要と情報のトレンドの変化」
特定の分類群や野生生物製品に需要が増えており、脅威が過小評価されている。乾燥シーフード、薬用植物、東欧のカルストに分布する“cave beetles”、新発見の種が位置情報を利用したコレクターに狙われる恐れなどがある。

クロステーマとして以下があげられている。
・マネーロンダリング防止による野生生物違法取引の阻止
・インターネットの拡大で誤った情報が保全活動を損なう可能性
・アジアとアフリカの都市化が野生動物の肉の市場に与える影響
・供給できないほど減少した、トラ、木材、ランなどの特定の種の代替品として取引されるようになった野生動植物種

これらの分析から、
・インターネット、携帯電話の普及と遠隔地、農村部、海洋への物理的アクセスの拡大は、密売人と保全活動家の両方に機会をもたらしている。
・根本的な原因は人間の人口増加と過剰消費
・洞窟の無脊椎動物や薬用植物、海鳥など、これまで注目されてこなかった種を考慮すると、どの種や地域が次のターゲットになるかを予測しにくい。
・野生生物の違法取引についての対話は「西側主導」とみなされる。しかし、とくにアフリカの政治指導者の関与、対等な対話、地域社会の認識と関与への支援により変化している。

 多くの問題が複数の政策分野と利害関係者にまたがっている。そのため利害関係者と政策の隔たりの分析、ロードマップや複数のオプションを評価し不確実な中でも根拠のある意思決定ができるようにするシナリオの提示などが有効である。

要約・翻訳 鈴木希理恵(JWCS事務局長)


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