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有頂天LOVEなおじさんと男の子

 「普通、アイドル10年やってらんないでしょ!?」

 とBerryz工房の歌にもありましたが、気づけばアイドルをおっかけるようになって10年以上経ってしまいました。界隈には10年どころではない先輩方がたくさんいます。しかし、40歳から急に目覚めて51歳になった自分にとっては、二度と戻ることのできない僕の中年時代は一体?というくらいの時間です。
 触れるもの全てが初めてすぎて、何を見ても聴いても新鮮しかなかった。立派なおじさんになるのが嫌で幼児退行していこうとしていたのかもしれないですが。
 10年間で色々と驚いたことはありましたが、一番のカルチャーショックはこの曲を聴いたときじゃないのかな。最近そんなことばかり考えてます。

 スマイレージの「有頂天LOVE」です。

 初めて聴いたときは馬鹿じゃないだろうかと呆れました。
 いい意味でも悪い意味でも。
 いや、単純に怖かったです。

 生まれて初めて、40歳で体験したアイドルのライブが広島クアトロで見た東京女子流。社会見学に行くんだと、いやらしい気持ちは寸分もないんだと誰かに言い聞かせるような顔して向かいました。懐かしいな。
 お陰で少し免疫ついて、悪い遊びを覚えたおじさんはもう少しアイドル見ていいかなと思うのです。遠征なんてできないと思っていたので次のタイミングで広島に来るアイドルを見に行こうと決めました。

 それがスマイレージでした。あ、ハロプロも面白そうだしなと思ってたところです。場所も勝手知ったるクアトロ。というか一日で三公演もするの?どういうことかな?分からないことだらけです。

 予習しておこうと聴いた「有頂天LOVE」

 自分はこの曲を聴きに行くの?聴いてていいの?本気で不安になりました。当時はアイドルの免疫がなかったから??
 今思うと関係ないと思います。全然普通に狂ってます。今聴いてもめちゃくちゃな曲だと思います。

 恋した女の子の躁鬱、アップダウン激しい感情とユーロビート調な頭悪くなるようなスピードの曲。屈託ない若い女の子が歌い踊る。
 考えようによってはアイドルソングとして凄く真っ当な曲、王道中の王道かもしれない。けれど、おじさんはこれをどう受け止めればいいのかと考え込んでしまう。別に受け止めなくてもいいんですけど。
 おじさんの脳内にはもう有頂天になるようなLOVE事案は微塵もないですし、感情移入とか絶対無理です。聴いてるだけで捕まるんじゃないかと不安な日々を送ってしまいそうです。

 ツアータイトルが、
 「スマイレージコンサートツアー2011秋~逆襲の超ミニスカート~」

 チケットがもし家族に見つかったら大変なことになるでしょう。

 色々と不安を抱えながらも楽しみは楽しみでした。そんな気持ちがあったから今も続いてるんだと思いますが。

 で、当時はまだTwitterじゃなくてmixiだったと思います。ある日、見知らぬ男性からメッセージが届きました。20代そこそこの若い男の子。僕も広島のスマイレージ見に行くので一緒に行ってくださいと。
 え!?僕、おじさんですけどいいんですか??それにアイドルやハロプロの現場もよく知らないし、全然詳しくないんですけど??
 とにかく一緒に行ってほしいとのことで、まあこちらも不安なんで、それならそれで心強いかなと承諾。

 当日、広島のパルコで待ち合わせ。現れた彼は大学生の普通の男の子。全然ヲタクっぽくもないです。もしかしておじさん好きの性癖とか…と疑いもしましたが拍子抜けするくらい真面目そうな普通の子でした。残念ながら新しい恋も始まらないようです。
 話を聞けば、実家は広島にあるけど今は東京に住んでいてそっちでスマイレージやハロプロのライブにも行ったことがあるとのこと。なんだ、その点においては先輩じゃないですか。広島で見るのが不安で声をかけたそうですが、同年代の男の子やそれこそ女の子に声かければと思うのがおじさんの思考なのかもしれませんが。

 ほぼ親子ほど離れた男同士がライブハウスでこれから登場する少女を前にぼそぼそと話している日常。普通のようでいて普通じゃない世界。
 ピュアそのものに見える彼もピンク色のヲタTに着替えて手にはサイリウムと準備万端です。初心者おじさんは丸腰、気持ちも体も手持無沙汰。

 ライブが始まるとステージにはMVで何度も見たキラキラのアイドルの姿がありました。確かに存在していました。この瞬間は未だに感動します。何度となくアイドルを見てきた今でも。不思議ですよね。人間とアイドルの境界線がある。見えない一線がそこにある。

 でも、一番驚いたのはお客さんの姿ですよ。普通の男の子だった彼も他のおじさんも女の子も一変したのです。カラフルな異常者が目の前に大量発生したのですから。その切り替えのスイッチが当時の僕には分かりませんでした。一瞬で色が切り替わるような錯覚。
 ライブ後の彼も興奮で顔は蒸気してるものの、また普通の大学生の男の子に戻っていました。だからこそ、あの瞬間のオンオフが余計に全然理解できないのです。ロックのコンサートやクラブでも似たような瞬間はあったような気します。でも、根本的に何か違う。

 馬鹿になれる勇気。賢くならなくてもいい。それがアイドルと接するときの基本だと理解しています。が、それはあくまでも基本であって、やっぱり馬鹿はダメです。賢くなる必要ないとは思いますけど。
 例えば、犯罪を犯した人が「なんでそんなことをした?」と聞かれて「何も覚えていません」と答えるような感じかもしれません。「有頂天LOVE」はまさにその導入剤。その前後の記憶がなくなります。破壊力のあるアイドルソングは多々ありますが、今でもその最高峰だと思っています。
 曲が鳴った瞬間、犯罪の匂いのする曲はそんなにありません。MVを見てニコニコしてる姿、絶対家族に見つかりたくないですよ。

 聴く度に、犯罪に手を染めなくてよかった、非合法な世界に足を踏み入れなくてよかったと安心することができます。この曲があればいつでも合法的におかしくなれる。そう思うだけで明日に希望を抱けるのは僕だけじゃないはずです。毎日、美味しいシャバの空気を吸いたい、美味しいご飯を食べたい!

 時々は原点に立ち返って、またアイドルに耽溺できる理由を正当化するのです。
 あの可愛い世界を女の子、同世代の可愛いとしてでなく断絶した異世界として強引に頭に注入されたおじさんはもう処置のしようがないんだと聞きました。しょうがないですね、有頂天ですよ。大好きが止まりません。


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