「表示」に関する事例紹介(平成25年10月17日付・H(25)S11)

 自社の事業に関して景表法違反がないように気を付けたい、と考えたときに、景表法が問題になる「表示」にはどのようなものが含まれるのか(含まれないのか)ということを考えるのは重要なことです。
 
 もっとも、「表示」という単語から一般的にイメージできる範囲だけがこれに当てはまるのだと安易に考えるのは大きなリスクがあります。この点については、前回の記事で、「表示」の解釈の難しさについて解説しましたが、今回はその具体的な事例について紹介します。

事案の概要

 過去には、商品販売の際の口頭での表示が問題となり、消費者庁により景表法違反(優良誤認に該当)が認められ、その結果消費者庁から措置命令が出されたというケースも実際に存在しました。

 事案の概要ですが、ある家庭用電位治療器を販売する会社が、対象商品を販売するにあたり、あたかもこれを継続使用することで頭痛・肩こり等の症状が緩解するだけでなく治癒するかのように、また、特定の疾病若しくは症状についても緩解又は治癒するかのように「表示」をしていた、とされています。この「表示」の具体的な内容は、①営業員による口頭説明や②対象商品の体験談を収録したDVD、③同内容の小冊子があったことが挙げられています。
 ポイントとしては、DVDや小冊子のみならず、営業員の口頭説明も表示方法に含まれていることですね。

 問題となった営業員の口頭説明については、当時消費者庁から発出されたnews Releaseに、詳細が載っています。new releaseの全文は、下のリンク先のURLからたどることができます。

 リリース内に記載のある売り口上を一部引用しておきます(なお、商品名に関する仮名処理は私の判断で行っています)

 「…更に続けて●●(商品名)の生体電子で治療しますと、この働きの悪かった五臓の働きがさらに良くなって、そして、続けて治療すると五臓全ての働きが正常になります。そうすると、一切の緊張感がなくなって、肩に伝わりませんから、肩こりは●●の生体電子で芯から治ります。絶対治りますよ。必ず治ります。」
 「 ここで●●にかかるのを止めてしまうと血液毎日汚れます。そうするとまだ病根、根っこが残ってますので、またじわりじわり苦しみ痛みが出てきてしまうんです。続けて●●かかっていただければ、当然この苦しみ痛みという症状は取れます。そして病根も取ります。すなわち完治します。では、完治までの期間です。完治までの期間、こちらは夜寝てかかっての完治です。70歳以下の方がわずか7か月間、80歳以下の方でわずか8か月間で完
治します。」
 「 高血圧は●●の生体電子で必ず治ります。軽い方だったらば●●に続けて1週間かかっていただくと、血圧が少しずつ下がり始めます。で、重い方で大体10日間ぐらいから高血圧が少しずつ下がってきます。●●に続けてかかっていただくと、この高血圧は芯から治ります。絶対治りますからね。」

 その他にも様々な売り口上が「表示」として取り扱われているわけですが、詳しくは上で記載したURLにアクセスするなどして、確認されるのも参考になるかと思います。

 これらの「表示」に関して、消費者庁が上記の販売会社に対し、表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求めたものの、販売会社が期間内に資料提出をしなかったので、措置命令がなされた、という経緯です。
 なお、措置命令の概要は

・表示は、対象商品の内容について、一般消費者に対し、実際の  ものよりも著しく優良であると示すものであり、景品表示法に違反するものである旨を、一般消費者へ周知徹底すること。
・再発防止策を講じて、これを役員及び従業員に周知徹底すること。
・今後、表示の裏付けとなる合理的な根拠をあらかじめ有することなく、同様の表示を行わないこと

というものでした(この点は第1回での説明のとおりですね)。

措置命令への対応

 言うまでもなく、景表法違反に基づく措置命令がなされること自体、法律違反の事実が公表されるという点も含めて対象企業の企業価値を大きく損ねるマイナス要因です。また、措置命令後には課徴金が課される可能性もありますし、ぜひとも避けたいところです。
 また、措置命令の前段階として、監督官庁(消費者庁)から、相当期間を定めて根拠資料の提出を求められることになります。したがって、これに適切に対応できれば、措置命令を免れるのではないか、という考え方は当然あり得ます。しかし、ここでの「相当な期間」は時間的余裕が全くないことが殆どであり、企業にとってはまさに緊急対応です。通常営業を行いながら緊急の官庁対応をすることは、企業の人的物的資源を(一時的にではあれ)集中的に投下する必要があり、望ましいものではありません。

最後に

 本稿では口頭での表示に関する事例を紹介しました。その他のポイントとしては、上で示した告示にある「広告その他の表示」のうち「その他の表示」にどこまで含まれるのか、という点も問題となり得ます。これについては、実は明確に範囲を画したものはありません。個別の情報提供が、景表法の趣旨に照らして問題ないかどうかをその都度検討していくしかないと考えます。
 この点に関しては、やはり専門家である弁護士と協議の上で、景表法違反を問われないような内容を事前に検討した方が良いのではないかと考える次第です。

(後藤 大輔(福岡県弁護士会所属))

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