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極意秘伝のはなし9

柔道の出来る人は「ほねつぎ」も習得しているという一般の観念はポツポツと薄らぎかけてきた。

1964年東京オリンピックでオランダのアントン・ヘーシンク選手が無差別級で優勝して世界柔道界のナンバーワンとなった。このヘーシンク選手は「ほねつぎ」は全く知らないスポーツ家である。現在行われている世界の柔道のほとんどがスポーツである。また、各地で行われている柔道大会を参観しても、力の強そうな者が必ず勝つことになっている。いいかえると、力と力の勝負のように見える。

これに比べて、力の勝負を売り物とする角力界では小柄の力士が大柄の力士を呆気なく倒して、ビックリさせられることが度々と見られる。「柔よく剛を制す」柔道はどこに行ってしまったのだろうか?

明治の頃、小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)が日本柔道を評して「小柄な者が大柄の者を呆気なく投げ飛ばし、目にも止まらぬうちに関節を外し、息の根を止める。実に日本柔道家は生理解剖学者であり神業である。」といっている。今日から見れば、このような柔道は夢物語となりつつある。

例えば、日本の歴史の中で、当麻蹶速(たいまのけはや)、野見宿禰(のみのすくね)(日本書紀によれば、大和国の当麻蹶速が出雲の野見宿禰と力くらべをして腰を折られたとする伝説、二人とも相撲の祖とされる。)、巴御前などの架空の人物が、物語的存在であるように、近世における「柔即医学なり」との実績は段々と霞の彼方に沈んでいく感が深い。

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