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短刀取と懐剣術(下)

大東流合気柔術では、公武合体に伴い将軍家で培った技を各藩に還元する形をとっている。奥女中が来客にお茶を供するために接近する、その際、必ず懐に懐剣を隠し持っていたのである。懐剣術は、対女性用の技として構成されているが、鉄扇術他ともつながっており、女性用の技だから…というものではない、男性を含め学んだ技法である。また、懐剣術は相手を襲う技術を学ぶ技法ではない。他人の屋敷に入るときは、茶を入れる女中にも注意せよ、ということである。茶は、毒入りかも知れないから飲まなくてもよいが、女中だからといって安心してはいけない、と教えている。これを習えたのは若年寄以上の者であった。世襲制の下、後継たる者、見習い期間中に重要書類を運ぶ特使など下働きの仕事があった。懐剣術は、その際の心得だったのである。

ところで、この十字受けは植芝合気道でやっているように正面から受けるのではない。植芝では、単純に正面打1か条を想定しているのだろう、懐剣で正面から攻撃(そのようなことも考えられるが)してくるところ、正面から受けている。正面打1か条は本来実用的な技ではない。必ず左右に転身して、つまり体捌を駆使して入身投・小手返や四方投に入るのである。1か条は最悪の場合に対処できるようにとの心得なのである。敵が木の陰や、襖の陰などに隠れていていきなり攻撃してきた場合、左右転身が困難な状況での捌きなのである。懐剣は逆手持ちであるから、袈裟斬りのコースで突いてくる、十字受けに際してもこれを意識しておかなければならないのである。

いずれにせよ、いわゆる短刀の攻撃(突き・斬り)を捌く技法と、懐剣の攻撃を捌く技法はそのコンセプトが全く違い、技法にも使用する術理の違いがあるのである。大東流では、これを明確に区分しているのである。(完)

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