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極意秘伝のはなし32

15所作に放る
技・為形(しかた=体を緩める)・所作(動作)で勝負をよく極めても、その所作を放れなければ、人に勝とは言い難いのである。技・為形・手足の働きをことごとく習得した後、大概これで勝てると思って心を許すから、技は技、為形は為形、それぞれの上手に比べ、心は技、為形にとらわれて主とするところがなければ、何をもって勝負を知るというのであろうか。心気を収めて技・為形・所作は自ずから我に備わり、心の用にしたがって滞ることがないことを所作に放るというのである。

人は、若いときは技・為形も充分であるが、老いたら手足腰は調子を合わせることが出来なくなる。自分が習得出来ていなかった時の様に戻るから、技だけではどうしようもないのである。体が強くて手足の働きが自由なときは、組形を知らなくても、そのことによって負けるということはない。老いては柔を知らなければ組打ちなど是非もなく負けることは遺恨のことである。柔の道は老いても、その自由にならない為形に応じて、心をもって敵に勝つ必然の理を教えるのである。技を専らとする芸は、若いときには使えるが老いては役に立たない。

武士の願うところは老若とも戦場にて勇を励まし敵を討ち、名を上げることを忠孝の第一とする。そうであれば戦場にては、甲冑を帯びて刀からのがれる用意をする、我も敵も同じ条件なら、勝負は組打ちとなるのである。だから、所作から放れ心習いで勝つことが肝要なのである。所作から放れなければ勝ちはない。そうはいっても、所作を捨てるということではない。習いを得て、実績を積み、心気の工夫も進んで、技も所作も自分が生まれつき持っているように身についたようになることを所作に放るというのである。

技と所作だけの芸はその働きを止めれば劣り、年寄れば劣るのである。心気にて勝つ道理に至った時は、槍・太刀・長刀、万の勝負を知ること同じである。口伝重々。

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