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新陰流兵法「居相」のこと(下)

さて、戦国時代の座り方はあぐらであったが、参勤交代が制度化された家光の時代には諸藩が江戸詰めになり、武士の間で畳社会が普及した。
武士同士が室内で相対するときは、小太刀を帯びていることから畳1畳の距離をとるのが礼儀であった。しかし、殿中では無刀の茶坊主が、茶や茶菓子を出すために三尺以内に接近することがある。この時、両手を掴まれる、あるいは左手で小太刀の柄を押さえ右手に隠し持った武器で攻撃することができる。
こういった場合の技法について、宗矩は家光に教えている。大東流でいえば、殿中作法・小太刀術といった合気柔術技法になるが、新陰流兵法では、「柔術」という言葉は使っていない。
宗矩著の「外の物の事」(とのもの=剣術以外の武術)には、小脇差居相(いあい)とりでの事、居相の屋敷にて心持の事などに小太刀術、両手取などの合気柔術技法ほか心得が述べられている。
両手を持たれるのは悪いことであり、黙って座れば相手を敵か味方か見抜けなければならない。心眼である。両手を持たれたということは、見抜けなかった、ということである。相手の動きが先に読めれば軽くあしらうことができる。大東流でやる両手持ちからの合気投げはふすまの向こうに控える敵にぶつけて脱出の手がかりとするのである。
具体的技法は、我:小太刀を帯刀し正座する。
敵:両手持
 我:左手→矢はず右手をもぎり、
   右手→右手を2か条に極め、左ひざを進め1か条に制す。
敵:左手→柄取り、右手→正面打
 我:左手→小太刀にかけ、
   右手→正面打を受け、1か条の要領で右に引き倒す。
   このとき左手→柄で右ひじを制し、両ひざで右腕を押さえる。
敵:左手→柄取り、右手→あごを突く
 我:右ひざ→引き顔を外す、
   右手→ひじ外に掛け1か条の要領で右に引き倒す。
制した後は、いずれも抜刀残心である。

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