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非力の養成-表と裏のこと(下)

非力の養成とは、江戸柳生の刀法基礎技法である。小野派一刀流を表太刀として、新陰流兵法は裏の太刀と位置づけている。小野派一刀流は塚原卜伝の一の太刀に工夫を加え、一足一刀の極意を完成する。一足一刀とは、一足が畳半畳の間で、一振りで切り落とす刀法なのである。この斬合に練達することが小野派の極意である。相打ちの場合、相手よりいかに早く太刀を斬り下ろすことが出来るか、この鍛錬が必要である。示現流の鍛錬法がその必要性を現わしていて、よく知られている。相打ちなら相手より早い方が勝つからだ。ところで、小野派一刀流は江戸時代に入って完成をみた流派であったから基本素肌武術で、いかに早く上段になって斬り下ろすか、が重要である。素早く上段になるには肩の力を抜くことである、相手がいると初心者は肩の力が抜けないものである。
さて、江戸柳生の基礎鍛錬法である非力の養成では、上段になるのに負荷をつけている。初心者からすると抜力法と反対のやり方に見える。腕や肩の筋肉を使おうとするからである。非力とは筋力ではない力を養成するということであって、骨を意識して腱や靱帯を使い、重心の移動の力を覚える稽古法なのである。
小野派一刀流を表太刀(陽)として、新陰流兵法を裏(陰)と位置づけているとは、新陰流は小野派を破る技だからである。そのためには小野派の刀法、極意も知っていなければならない。中国拳法でいえば、少林拳を破る技である形意拳は必勝法だが、その指導者は少林拳も知らなければ教えられない、これと同じである。教外別伝の大東流合気杖の意味はここにある。四国の蒔田氏はわざわざ手紙で大東流には杖技はないと書いてきたが、何も知らないからである。合気杖は小野派の太刀を破る組形となっている。もちろん久琢磨伝であるが、久先生は関西には残さなかったようだ。合気杖は新道夢想流杖術の如く仕手、受けともに一刀流系のものではない。

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