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土方二百人と惣角一人の大喧嘩6

惣角は、脇差・仕込杖・短刀などを振りかざして襲ってくる者たちを斬り捨てた。一足一刀の秘剣が踊るたびに「ビューン」という風切り音が響いた。組頭が、これは恐ろしく出来る奴と判断した。

「円陣を遠巻きにしろ! 仲間が集まるまで待て!!」

互いに声を掛け合い、仲間の応援を待つ態勢をとった。そうこうしているうちに、各飯場の博徒たちが30人余りそれぞれ組の土工夫たちを引き連れて集まってきた。その数も土工夫、見物人を入れると300人ぐらいに膨れ上がった。博徒はその指揮下の土工夫たちを使い、石つぶてを投げさせた。土工夫たちは面白がって石や瓦などを投げつけた。惣角が博徒を捕らえようと前進すると、土工夫共々ワーッと逃げだし、退けば、また、円陣を狭め土工夫たちに指示して投石を再開する。挙げ句の果てには、鉈・鳶口・ツルハシ・スコップに至る土木工具一式まで惣角めがけて投げつけた。

円陣の環は果てしなく拡がっていた。惣角は石つぶてを浴びながら、前進しては退くを繰返すこと5時間、まさに死闘であった。多勢に無勢、というより一人では、所詮勝負にならない。さすがの惣角も全身傷だらけとなり、疲労困憊(こんぱい)していた。拳大の石つぶてにつまずき倒れたところに、モッコを雨あられ如く投げつけられ、数枚のモッコを被せられ、最後は、背中を鳶口・ツルハシ等でガッチリ押さえられてしまった。半死半生、あれほど長時間奮闘した惣角も、今や暴殺される寸前であった。

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