秘伝・合気道 堀川幸道口述 鶴山晃瑞編 17
合気柔術の修行は難しいと思われておりますが、古流武術ですから奥義までの道のりが遠いことは確かであります。しかしながら、適切な指導を受ければ老若男女誰でも習得できることも事実であります。ただ、初心の合気道のみを切り離して指導を受けると、これがどうして合気の技法になるのか疑問を持つかも知れません。
まず、基本技法である柔術によって気合をつける鍛錬をなし、身体各部への刺激、筋肉、関節の限界に挑戦するため、内勁錬成による内蔵鍛錬で基礎体力を積むのであります。その後、一定の勢法(リズム)と陰陽虚実による平法心得を学び合気柔術に至るのです。気合練気から合気練気を高めることによって心・気・力の統一がなされるのであります。このように武術練習を伴う動功錬成法であるところが禅や修験道の行法と異なる「やわら」の特色なのであります。
大東流柔術を基本技法とした技法鍛錬を通じて気合・合気の相関鍛錬により虚実に応じられる精神統一がなされ、陽の体力を補佐する陰の精神が動き、人格養成により効果的な役割を果たすとされています。
そのため陽の柔術は会津藩下級武士の必修科目とされており、陰の合気は五百石以上の上級武士の必修科目とされていたわけであります。
解説 柔術から合気柔術への流れは概ね記載のとおりですが、上記説明は、一部不明確となっています。柔術第1・2か条は前線で戦うための要員を鍛錬する技法群で、内包する術理がどうこうというより気合鍛錬の方を重視するのです。そのため、ハードな稽古となるのです。近藤氏系の合気柔術をご覧になるとよく判ると思います。鶴山先生が実施していた第1か条の教伝の合宿も同様に厳しいものでした。柔術で言えば、第3か条以降が合気柔術技法になり、これを学ぶことができるのは柔術過程を経て、役職に残った者(足軽頭(槍組、鉄砲組等))と家老の息子、若殿様等の幹部候補生なのです。ただ、柔術系の合気柔術は複雑な構成ではありませんから、幹部候補生の教習課程としては不十分なので、合気柔術系の合気柔術(初伝~秘伝)で陰陽虚実等を体験学習する構成になっていたのです。
しかしながら、これは大東流の皆伝の口伝の内容ですから、当時の鶴山先生も堀川幸道も当然知らないことでした。