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映絵師の極印~えしのしるし~ 第四話 後編・壱 -暴君-

前回のあらすじ

修行の成果で炎と氷の槍を手に入れた炎。しかしあまりにも力が強く、寺を半壊させてしまった。

これで残りは陸とジャンの修行なのだが、なにやら不穏な空気が漂っていた。


ーーーーー宮殿内の牢獄

ここは古くから、刑務所として利用されていたが、現在は刑務所設備が整い、ここは使われていなかった。

しかし、誰もいないはずの牢獄から何やら音がする。

「出せ!なんでこんなとこに入れられてんねん!出せ!出せぇ!!」

ドアを叩き、鉄格子をガタガタと揺らし、誰もいない通路に向かい叫んでいた。

「あのクソ皇帝…どういうこっちゃ…おい!!」

高い位置にある鉄格子から月明かりが差し込む。

そこにいたのは、様相の変わり果てた陸だった。


ーーー3日前

宮殿での修行中に深手を負った陸は宮殿病院で治療を受けていた。皇帝は一応「最低限の治療はやってやれ」と指示していたようで、素早く治療をうけることができた。

「陸様、宮殿に戻りましょう。」

「兄さん、少しゆっくりしてもいいじゃない」

皇帝の付き人である小柄な鳥族の兄妹、零(レイ)と翡翠(ヒスイ)。ふたり性格は真逆だが、仲のいい兄妹で陸がまだ小さいときからずっと皇帝の付き人をやっている。

「しかしだな、ジャン様からは治療は最低限ですぐ戻せと言われているではないか。」

兄の零は真面目な性格で、固いイメージがある。

「すぐって言っても、少し休憩しないと陸様の体がもたないわよ。ジャン様だって少しは手加減して手ほどきすれば…」

妹の翡翠はのんびりとした性格で、物腰柔らかなイメージがある。

「翡翠、その辺にしておけ…お前はいつもいつも余計なことを言って窘められてるだろう」
「はいはーい、んもーいいじゃない、ねー陸様」

二人はあーだこーだと言い合いをしていたが、零が折れ、ジュースを飲んで一息ついたら宮殿に戻るとまとまった。

「それにしても陸様、もうすこし覇気というか、なんというか」

「うむ、本気が出せない性格という印象でございます。しかし、ジャン様のような性格になれとは言いませんが、もっとご自身のことを信用されてもよいかと思います。」

思い当たる節はあった。

鳳一家の闘鶏(しゃも)にD-HANDSが襲撃され、死体の山となった仲間の尊厳を傷つけられた、あのとき…自分の中でドクンドクンと黒いものが湧き上がる感覚があった。

怒り

いや、怒りとは別の何か…解き放たれたとき、どうなるかわからないような


恐怖、なのか…
正直、鉄がいて本当によかった、とさえ思っていたくらいだ。


「じゃあ、兄さん、私達で組手しましょうよ!」

陸の思考がぐるぐるし始めたとき、翡翠がパンと手を叩き、零へ提案した。

「うむ…ジャン様は今後宮で対談中…少しならいいが」

「それじゃ武道場行きましょ!さぁさぁ!」

翡翠は陸と零の手を引き、武道場へ向かった。


「あのバカ共…」

その姿を後宮の窓からジャンが眺めていた。


それから武道場で陸と零、翡翠兄妹が練習を始めて1日が経った。

「ぐはっ!…陸様…お見事です。」

「すごいわ、陸様!こんな短期間で…やはり炎様陸様は天才なのね」

「いや、俺は炎にぃとちがくて天才なんてそんな…」

照れて謙遜する陸、すると後ろから声がかかった。

「よう、強くなったんか、ガキ」

武道場の入り口にジャンが現れた。相変わらずニヤニヤと小馬鹿にした高圧的な態度で。

「えぇ、ある程度なら…ついていけ…え?」

喋り始めた陸は、すでに目の前にジャンがいないことに気付けなかった。そして後ろを見ると、武道場の端まで吹き飛ばされている零と、持ち上げられている翡翠が見えた。

「余計なことしてんじゃねぇよ、バカ共が!」

「も…申し訳ございません…しかし…ぐぅっ!」

首を持つ手に力を入れるジャン。翡翠は更に苦しそうに悶える。

「何俺様に口答えしようとしてんだ?あぁ!?」


やめろ


「あん?」


や め ろ


「……やめねぇよ?てめぇの部下の躾は自分でやるからなぁ」

やめろやめろやめろやめろやめろやめろ!!!!

お お お お お !!!

「…うるせぇんだよ!!!」

ジャンに渾身の力で殴られた陸は零と同じように、武道場の壁に叩きつけられた。

「おい、衛兵!こいつを地下牢に入れとけ。てめぇら兄妹は…執務室に来い」

控えていた衛兵は陸を抱え、歩き始めた。

悔しさと怒りの眼差しでジャンを見ると、今まで見たことのない悲しげな表情でうつむくジャンの姿があった。


陸の意識は、ここで途切れてしまった。



「見つけた。やっと見つけたよ。」

こんな路地裏のゴミだめに見目麗しい(笑)シルクハットに黒服の紳士が来た。

「あ?そうだけど、なんだよ、てめぇ…自分から殺られにくるとか頭おかしいんじゃねぇの?」

「まぁ、そう言わず…君の母親はどうしたね?」

いちいち癪に触る喋り方だ…それに母親?

「死んだよ。だからなんだ。」

「そうか……すまないことをした…」

紳士は深々と俺に向かって頭を下げた。

「私は君のお母様を助けられなかった男…それに君の父親を知る男だ」

紳士が『父親』と言うや否や、俺は紳士を殴りつけていた。

『父親』という言葉にはものすごい嫌悪感がある。それはそうだ、俺と母親をおいて一切家にも帰らず、一方的に捨てられた。そんな『父親』いるかよ。

「親父を知ってるだぁ?!今すぐ連れてこい!!ぶっ殺してやる!」

「…あぁ、はは…私はそのために来たようなものだ。時間はあるかね、付いてきてくれ…君の『父親』はね、君と会うよう、私に探すよう頼んできたのだよ…」

ついに母親の仇が討てる…あぁ、俺の生きている意味、やっと死ねる。ママ…俺はやるよ…

「では、付いてきてくれ」

俺は紳士について、歩き始めた。

怠惰な民草、暴力的な民草。俺もそうだが、この街はクズばかりだ。金や物は奪いあう、逃げられないなら殺せばいい。

無秩序、それがこの街だ。

「君はこの街を見て、何か思うところがあるかね?」

「ねぇよ。弱いやつは奪われ殺される。生きるのはずるいやつ、強いヤツ。信念なんてねぇ。この街で俺は誰にも負けねぇように生きてるだけだ。」

紳士は、ふむ、と一言だけ相槌を打ち、隠してあった車に乗り込んだ。

「乗りたまえ。少し離れたところへ行くぞ」

そして、そんな無秩序な街から遠く離れ、拾った新聞や街頭テレビでみたことがある建物の前にたどり着いた。

「…おい…どういうことだ…なんで俺がこんなところに…?宮殿だと?」

「あぁ、君の『父親』はここにいる。」

今まで裏で生きてきて、こんなに冷や汗をかいたのは始めてだった。さすがにビビった俺は紳士に確認した。

「まさかたぁ思うが…俺の父親って…」

「あぁ…君の思っている通りだ。」

俺は膝から崩れ落ちた。俺の憎むべき男が、まったく手の届かない場所にいた。そして、今自身の今後がうっすらと透けて見えてきたからだ。

「嘘だ…嘘だこんなこと…」


「君の『父親』は現皇帝…モルト公だ」

こんな身勝手な王など………

「覚悟を決めたまえ。『ガリアーノ・ジャン』君」


覚悟など、何時でもできていたはずだった……


これはジャンが暴君と呼ばれるまでの生い立ちの物語。



ーーーーー次回、第四話 後編・弐 −継承−

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