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映絵師の極印〜えしのしるし〜 第五話 前編・参 -汚染-

前回のあらすじ

廃屋で三毛を打ち破った武市。

一方三毛は傷ついた体で虎の元へと急いでいたが、そこで鳳 燕に襲われた。そして虎も自身の内に埋め込まれた物に苦しんでいた。

傷ついた三毛を見つけ病院へと運んで消えた虎は、そして三毛との決戦に勝利した武市は一体何を思うのか。


三毛が去った後の廃屋は、武市と狼が外に出ると一気に崩れてしまった。

「あっぶなぁ…なぁ武市、あの赤黒い虫みたいなん、みたか」

「えぇ…あれは一体…」

狼は首をかしげた。しかし、二人とも『得体の知れないもの』ではない、と感じていた。

「まぁ、今巷で噂の『ミミズ』を強化でもしたんやろなぁ……あんなんが出回ったら、とんでもないことになるぞ…」

「えぇ…この街にはクスリなんてものは必要ない…」

「そのとおりや。とりあえず、銀のとこ戻って報告せなあかんな…」

二人は急ぎ、村前に戻った。


「三毛君……どうか無事にいてください…」

三毛を病院に運んだあと、虎は闇の中に消えていった。

しかし、鳳一家はそれを許さなかった。

「どこに行こうというんですか?虎さん、迎えに参りました」

虎の背後から木慈が現れた。首筋に押し当てられた羽の刃がひやりとした感触、これから自分がどうなるか虎はあらかた察していた。

「ふぉっふぉっふぉっ…迎え、ですかぁ……」

「えぇまだあなたには使いみちがございますから連れ帰れとの命です。抵抗、しませんよね?」

首筋の刃にぐっと力が込められた。

「えぇ、こんなことになったのは私のせいですからね…わかりましたよぉ…」

用意されていた車に乗せられ、虎は鳳一家へと連れられていった。


鳳一家へ到着した虎は、鳳 鶯のいる奥の間ではなく、すでに通じてしまっていた封印の洞穴へと連れられていった。

「これは…もうここまで…」

「そうだよネ、虎君。遅かったネぇ?」

松明が燃える中、ニコリと笑い振り向く鶯。そして封印の前には祝詞を唱える広橋。そして扉と向かい合わせに貼り付けられている少女を見つけた。

「まさか…もうすでにここまで進んでいたとは!」

驚きに声をあげる虎だったが、すぐに取り巻きに取り押さえられてしまった。

「フフフ…虎君……もうすでに封印解除は最終段階にきているのネ…あとは邪魔者の排除、そして…」

鶯は目を見開き、虎の目を凝視した。

「な、何を……」

「てめぇの洗脳を強化するに決まってんだろ、ボケ!」

虎はしまった、という表情を返してしまった。

「あ?!俺がしらねぇとでも思ってんのか?もう洗脳解けてんだろ?じゃぁまたやるしかねぇじゃねぇか!」

「そ、そんなわけ…ないじゃ……あ”ぁ”っ!!」

鶯の目が紫色の光を放ち、虎の目を見続けた。

虎の頭の中に入り込んだ光が、虫食いになった虎の記憶を保管するように、ネガティブな記憶に書き換えていった。そして虎は気絶した。

「よし。これでもう元には戻れないだろ、ったく余計な力使わせてんじゃねぇよ…おい、燕!あれもってこい!」

「はい、パパ」燕は例の虫が入った瓶を鶯に手渡した。

「無駄遣いすんじゃねぇぞ、もう…」

虫をまだ気絶している虎の口に押し込んだ。虫はうねうねと体内に入っていった。

「封印が解けたら『強化型ミミズ』の開発費も捲れるくらいになる。やっと10個できたんだ、幹部連中全員と、余ったやつは隊で一番つえぇやつに使え、いいな。」

鶯は瓶を1本手に取り、はりつけの少女の前に立った。

「苦労したぜぇ……」

松明の火を近づけると、そこには猫インコのアイコがいた。

「うぅ…」と小さく呻くアイコ、その声に広橋の祝詞が途絶えた。

「何をしている……その子に触れるなと申したはずだ。」

「すまないネ、触れてはおらんからネ……それよりも、あとどれ位かかるのかネ?」

広橋は錫杖を地面に刺し、立ち上がった。

「あとはこの子の力を使えば一両日中に……だからその子に触れるな。わしは依頼された事をこなすだけだが、妙な邪魔が入れば、こっちにも考えがある」

広橋は鶯を睨みつけた。

(「くそぉ……鳥族の伝承と違うじゃないかネ…広橋鋼…」)

鶯は再度封印の前に座る広橋を、苦虫を噛み潰したような顔で見つめた。

「懐のものをおさめろ、三代目。鍵と封印、そしてわしの祝詞とがセットでないと、貴様らの益に成らんぞ?それでもいいのか?」

広橋は顔を鶯のほうへ向け、動向を牽制した。舌打ちとともに、広橋から離れて、封印の間を出ていった。

「辺 銀……いつ相まみえる……」


三毛撃破の一報を受けた銀は深くため息をついた。

「本当に無茶しやがって…多分ここも完全にバレるまで時間の問題だ……早急にしかけねぇとな」

「OK、じゃあ早速、やっちまうかぁ?まずは…」

ジャンが纏まった作戦を確認しようと立ち上がった瞬間、銀の携帯が鳴った。

「…ぎぃん?」

「いや、すまねぇ………あ?紅玲(クレイ)…?」

それは、燕が戻って来る前の鳳一家の技術主幹であった紅玲、アイコの母からのものだった。

「どうした!」

「銀さん……アイコが……帰ってこないの……」

銀は、自身の心臓が止まるような、背中を嫌な汗がつたい、指先から冷えるような感覚に襲われた。

「ジャン……やばいことになった…アイコが、おそらくさらわれた。」

「……みてぇだな。あの娘にまで手が伸びちまったか…」

アイコの家族はとある事情により、銀よって匿われていた。そして、その事情はジャンも預かり知るところである。

「銀じぃ、アイコって誰や?」炎が疑問を口にした、すると鉄が

「あぁ!あの猫とインコみたいな女の子!!」

そう、炎が策略により『ミミズ』を盛られたとき、犯人さがしをしていた鉄たちの前に現れた少女である。

「あぁ……鉄は会ってるか…ちょっとアイコにまで奴らの手が伸びたってことは…もう完全に時間がねぇ。作戦変更だ、狼!」

武市の手当てをしながら、ごくごくと酒を飲み、肉を食らっていた狼は銀を二度見していた。

「なんや、もう俺の出番かいな!」

「あぁ、俺と一緒に奴らの中枢に突っ込むぞ」

一同はざわついた。

「ジャン、いいな」

「了解…じゃ作戦を伝達する。まず、鉄部隊は鳳の雑魚共を片付けろ。死人がでるかもしれん、覚悟あるやつだけでいけ」

鉄は一瞬ドキリとしたが、力強く頷いた。

「おうよ!皇帝!」

「よし…次に陸、今のお前ならあのデカブツの鶏野郎も倒せるだろうよ」

裏切り者とはいえ、自分の恩人でもある芝を殺した闘鶏への復讐、いやもうこうなっては復讐だけが目的ではなくなっている。

「はい、俺らの街を守るために」

「よろしい。その後は、武市と炎、お前らはおそらくもう二人…鳳の息子とその執事と戦うことになるだろう。」

武市は、三毛の顔を思い出していた。

「作戦の前に、一度行きたいところがあるんですが」

「ん?済ませられることは済ませてこい。さてはぁ…」

武市はごほんと大きく咳払いし、立ち上がった。

「あなたが考えるような野暮ったい用事ではありません!では、私は先に…」

そういうと狼に手当てされたところをさすりながら出ていった。

「街にはびこっとるモン、さっさと取り除きにいきますか!終わったら…みんなで酒でも飲めばえぇんですわ」

もしかしたらこの中で、一番冷静なのは炎だったのかもしれない。

こうして、D-HANDS、猫手連合軍は鳳一家討伐へ向け、動き始めたのだった。



「………おじ……さま…」

アイコは夢を見ていた。自分の胸にあいた鍵穴に入ろうとする、黒い影の姿を。

ひとつは獅子のような髪をなびかせ、ひとつは邪悪に輝く牙。

ひとつは羽を羽ばたかせ高笑いをあげる。

その周りには4体の影…

『早く出せ』『暴れさせろ』『クッフフフフフ!』

頭の中に流れ込み、おかしくなりそうだった。

悪夢、それですめばそれでいい。でも自分のちからのせいで何か起こってしまってはと少女は折れそうな心を震わせ、踏みとどまっていた。


─────次回、第五話 中編・壱 -鍵穴-


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