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映絵師の極印〜えしのしるし〜 第四話 後編・弐 −継承−

前回のあらすじ

ジャンと修行していた陸だったが、ジャンの容赦ない攻撃に深手を負い、病院で治療にあたったジャンの従者・零(れい)と翡翠(ひすい)に戦いの基本を習い始めたが、ジャンに見つかり3名は倒され、陸は牢に入れられることになった。

すると、陸はジャンの過去を覗く夢をみるのだった。


「覚悟を決めたまえ、ガリアーノ・ジャン君」

母さんの名前はガリアーノ・マリア。3年前に、俺をおいてこの世から旅立ってしまった。

そんな母さんが唯一愛した男が俺の父親だった。

「俺はいつでも覚悟できてる……」

「それにしては、何か臆して見えるぞ?」

紳士は見抜いていた。『父親』が現皇帝のモルト公と聞いて動揺していることを。

「うるせぇな!…会わせろ」

「あぁ、入ろう」

門の前の衛兵が俺たちに気がついた。すると、何も言わずに門を開いた。紳士を見ると、敬礼をして出迎えたのだ。

「?! お前、何者なんだよ……」

「私はモルト公の第一執事、フィンクスだ。まぁこれからは君の教育係になるだろうがな」

そういうと、被っていたシルクハットを取り、片眼鏡を付けた。

「では付いてきたまえ、ジャン君。お父様に会わせよう。そこで……君が今覚悟していることが実行できるかどうか、見てみるといい。」

赤いカーペットに敷かれた長い廊下を二人歩いて、皇帝の寝所へとたどり着いた。

寝所の前にある応接間で待たされ、いよいよ俺は『父親』と対面した。

「…………え?これが……」

『父親』であるモルト公は、見るからに死の縁にいるとわかった。

医者が2名、看護師が3名。体には点滴が繋がれ、いろんな管やケーブルがあちこち繋がれていた。

「おい……これが『父親』だってのか…」

「えぇ、ジャン君……君が何を考えているか、この方をどれだけ憎んでいるか。私が調べているだけでよくわかっている。それでもなお、私はモルト公へひと目会ってもらえないだろうか。」

フィンクスは片膝をついて懇願した。それだけフィンクスはモルト公を尊敬し、助けたいかが俺にもわかった。

「……フィン……フィンクス……この匂いは……連れてきてくれたのか」

しゃべるのもやっとであるはずのモルト公が体を起こしたのだ。しかし、もうすでに目は見えてはいないようだった。

「は、皇帝。貴方様のご子息様をお連れいたしました。」

俺は思わず固まってしまった。今まで殺してやりたいと思っていた男が目の前にいるのに、もう命の灯が消えかけているのだから。

「俺は……」

「その声……マリアと似ておるのう……君たち家族には本当に申し訳ないことをした……」

「母さんはいつもあんたのことを話すとき、笑顔だった。でも明けども暮れどもあんたは帰ってこない。母さんが最後どうなったか知ってるか?ボロボロに痩せて……それでも明るくて……俺をここまで育てて……」

モルト公に話す俺はいつの間にか、ぽろぽろと涙を流していた。すると、看護師と医者に支えられながら、モルト公は立ち上がったのだ。

「皇帝!」フィンクスは慌てて駆け寄り、支えになった。そして、俺を抱きしめたのだ。

「すまない……すまない……マリアを助けてあげられず……君も不幸にしてしまった……」

もう見えていない目を開き、俺をしっかりと見据え、涙を流していた。

俺は声を上げて泣いた。


俺は暖かさが欲しかった、家族がほしかった。

憎んでも憎みきれない。

モルト公に包まれ、俺はどこか安心したのだ。

数日後、モルト公は亡くなった。天涯孤独の身となった俺は、そのまま次期皇帝であったハツカ様の第一公設進官として努めた。


「そして、今俺は皇帝としての力を得たってわけ」

ここで陸は目を覚ました。

「え...?」

耳元で突然声が聞こえ、バッと起きた。そこはまだ静寂と暗闇が広がる地下牢。すると外から押し殺したような笑い声が聞こえた。

「くっくっくっく......汚ねぇ顔......ぷっ!」

陸は皇帝だと気が付くと、怒りのまなざしを持って鉄格子に向かっていった。

「あんた!どういうこっちゃ、なんで俺が地下牢に!そもそもあんた、自分の部下をなんだと!!」

「まだそんなこと言ってんのかよ......もういいぞ」

皇帝が合図すると、今まで広がっていた闇が一気に白んだ。思わず目を背けた陸。目が慣れてきて見ると、皇帝の横には零と翡翠が何食わぬ顔で立っていた。

「零さん、翡翠さん、無事だったんですね。」

「ごめんねぇ、陸様......ジャン様やりすぎちゃって、ここまでやるとは思わなくて」

翡翠が何を言っているのか、陸はわからない。しかし、どこか様子がおかしい。

「ジャン様、陸様には説明は」

「ん?いや、先に『わけわかんねぇ』って顔見たくて、まだだ」

「だぁからあんたいっつも勘違いされるんだって何回言えばわかんだ!」

零も翡翠と同様、様子がおかしい。

しばらく考えていると、ジャンが廊下に正座した。

「すまん、やりすぎた......いや、違うんだよ、ほら、お前弱いじゃん?だからさ、どっかで本気になってもらわんと困るんだよ......だから」
「だからって、自分の部下を酷い目に……あれ?」

陸は零から差し出された水を飲み干し、改めて考えた。
武道場でのことが何日前かわからないが、それにしても二人とも何ともなさそうな様子。

「えっと、零さん翡翠さんは、大丈夫なんですか?」
「あぁ、あれしきの攻撃凌げないのであれば、ジャン様の傍には居られませんので。」

つまり
この宮殿にきて、今この状態は全て

演技

ということだった。

「いや、このままだったら、お前らは鳥野郎共に瞬殺されてた。で、考えたんだ……宝治からな、お前の力を覚醒させてやってくれ、って言われててな。俺が煽れば発奮するかなって思ったんだけど」

「それで二人ともやられた演技を…」

「そゆこと。で、気絶する寸前、ちゃぁんと覚醒した。でも、あの後、お前は暴走した。」

やはり、と言うべきか
陸は映絵師の中でも珍しい『ふたつ持ち』という、属性が二つ宿る体なのだ。
しかし、属性によっては、覚醒後に暴走することが確認されていた。

「俺もふたつ持ちなんはわかってたけど…」
「お前らDの中でも、狼とお前2人だけだ」
狼は『火』と『鬼』という属性を持っている。それは陸も、子供の頃から聞いていた。

「そうか…俺もふたつ持ちになったのか……あ、そうだ」
陸はさっき見た夢を思い出した。

「さっき、俺が気絶してるとき、夢を見たんだけど…」
「あぁ、あれ夢じゃねえよ」

もう陸は目が覚めてから、驚かされてばかりだ。

「陸様の見たのは、私の力で『過去を脳に刷り込んだ』んですよぉ」
「刷り込んだ……?」
翡翠の能力は『光』の属性のなかでも強力な『精神干渉』で、ジャンの記憶と眠っている陸の脳を繋いでいたのだ。

「あの記憶はマジなやつな。親父が死んで、ハツカおばさんに代替わりしたとき、修行として俺もここに入ったんだよ。元々が凶暴だったから、フィン爺も最後は疲れてたけどな…で、今のこの強さがあるというわけ」

そこで、牢の鍵が開けられた。

「とりあえず今日からは部屋用意してやる。風呂はいって、身だしなみ整えろ、明日からは…力の使い方教えてやるよ」

「デレたな」
「デレたわね」
「うるせぇ!いいな!明日は暴走しないように、今日はゆっくり寝ろ!」

陸は石段を登りながら、まじまじと自分の体を見た。
属性のふたつ持ちになって何かが変わってるのかと思ったが、特に無かった。

風呂で鏡を見た時に、自分の顔の酷さに驚くことになるがそれはまた別のお話。
用意されたご飯とベッドに、陸自身も冷静さを取り戻した。


そして、翌日

「───はぁ…はぁ…もういい、上出来だ……疲れた……合格!!」



─────次回、第四話 後編・参 ─修了─


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