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映絵師の極印〜えしのしるし〜 第四話 中編・参 −焔槍−

前回のあらすじ

銀からの叱咤に思うところもあった炎。自ら座禅修行に向き合い、銀から許しをもらうのだった。

しかし、座禅修行は始まりに過ぎず、大量の木偶人形との戦いが待っていた。そして、炎は自らの「技」の片鱗をみるのだった。


「なんやこれ…」

炎は自分の手に握られた槍を見て呆然としていると、周囲の木偶人形から攻撃を受け、吹き飛ばされてしまった。瞬間、槍はふっと消えていた。

「ちょっと炎ちゃん!大丈夫?!」
「……あー、これやこれ…はは、やっと見つけたわ…俺を…」
郭公は一度木偶人形を停止させた。
「とりあえず一旦治療するわよ!ほら、立って」
郭公の手を振りほどき、動かぬ木偶人形の前に立つ炎。
しかし、ファイティングポーズを取りながら、そのまま前のめりに倒れてしまった。

「あかぁん……集中力切れて、足動かんようになってもうた…」
そう、炎の足はまだ完治していなかったのだ。

「ちょっと!パパぁ!銀さぁん!」

「どうした…炎坊!」

銀は支度部屋へ炎を運び入れた。

「大丈夫か!」

「なんの、集中力が切れただけやって、銀じぃ…でも見つけたで、俺の、俺自身の技!」

やっと『技』を理解した炎は興奮気味だった。しかし、体が言うことを効いていないようだった。

「くそっ…俺が悪いんやけどな…あぁもどかしい!」

「大丈夫だ、今日は休め。寝てねぇんだろ、昨日俺があんなこと言っちまったばかりに…お前はちゃんと成長したよ。」

銀はまるで自分の子供のように炎を包みこんだ。宝治から預かっている大事な二代目だから。いや、『英雄』のなかでは、武市も炎も陸も…今は敵になってしまった三毛も、大事な『未来の子供』なのだ。

心を鬼にして叩き直そうと思っていた。しかし、武市も炎もしっかりと成長していた。ちゃんと『未来』はつながり、啜んでいるんだと、銀も理解したのだ。

しかし、ひとつだけ、心配なことがあった。


ーーーーーところ変わり、宮殿…

舞踏会も開かれるような大広間で、ジャンは一人あぐらをかいて座っていた。

「おーい、聞こえてるかぁ?死んだかぁ?」

部屋の隅には陸が倒れていた。

「死んだなら俺の仕事終わりなんだけどよ、返事ぐれぇしろ!」

体に力が入らないのか、やっとの思いで体を起こす陸。

「ぐっ…くそっ…」

「あのよぉ、俺も弱っちぃヤツにいつまでも教えてらんねぇんだよ、ん?」

そういうと、ジャンは立ち上がろうとする陸を蹴り飛ばした。

「パッと立てや、アホ。あー疲れた…弱いやつに合わせると疲れるんだよな...さぁて、なんか飲もうっと...」

そう言いながら、大広間から出ていってしまった。

「くそっ…あんなのが皇帝でいいのかよ…あいつはただのーー」



「あいつはただの殺し屋、いや壊し屋だ。皇帝じゃなければ今頃生きてるか死んでるかわからねぇヤツだったんだ…だからどうなってるか、連絡よこせって言ってるのに、連絡もつかねぇ…」

銀は炎の横で、陸に対する心配を吐露した。

「そうやったんか...ほな、陸をそんな奴んとこにいつまでも預けてられへんな!」

立ち上がろうとする炎。しかしやはり少し休んだだけでは、力は回復していないようで、すぐによろけてしまった。

「無理はすんねい、炎坊...それに、修行がつらかったら、つらいって言ってくれていいんだ。」

「何をいうてんねん、修行がつらいんやったら、また逃げ出しとるわ。今俺がつらいんは...芝おじがうちを裏切ってしもうたことや...その芝おじを簡単に殺しよって...すまん、銀じぃ、いったん寝るわ...」

銀は、おう、と一声かけ、部屋を後にした。


翌日、翌々日と炎は滾々と眠りについた。その中で炎は夢を見た。自身のちゃんとした襲名式だ。
横には宝治、陸、見届け人で狼や銀、それに芝。それに犬族も猫族もほかの種族も分け隔てなく、自分の襲名を喜んでくれている。あぁ早くこういう時がこないものか、と思ったのもつかの間、気が付くと病院で縛られている自分がいた。両足がない。ない、ない!と探す夢に変わってしまうのだ。

悪夢ーーーとしか言いようがないくらい、希望から絶望へとたたき落されるような夢...

しかし、今の炎は違った。夢の中で叫んだ。

「足が無かったら!這ってでも、腕だけでも、首だけになっても俺は生き続けたるぞ!!!」

真っ暗な病室が光で包まれていった。


3日目、修行時間もタイムリミットが過ぎる中、炎はようやく起きた。

そして、炎の最後の修行の時間が訪れた。この修行は時間勝負になると銀から事前説明を受けた。正式に時間を計るため、スタートの合図が必要だったがそれは火喰が行なうこととなった。

「では、炎様、よろしいですかな?」

「あぁ、いつでもえぇ...」

炎はいつになく冷静であった。
自慢の弟が、あのいけ好かない皇帝について何をされているか気が気ではない。それに街も、鳳一家のことも気が気ではない。むしろ心は焦っているのは自分にもわかっていた。しかし、心は燃え滾る炎というより...

「炎ちゃん、まるで...」

「あぁ、まるでおきたての炭だな、こりゃ。どんどん熱くなってきやがる。はは、こりゃ、やるかもな」

銀は確信していた。炎は必ず修行をやり遂げると。

「では、1時間1本勝負 1万体の木偶人形対炎様!始めぇ!」
スタートと同時に、郭公がストップウォッチを押した。そして、火喰と銀は話があると出て行った。

「で、銀さんや、話ってのはどんな話だい」
「いやね、ジャンの野郎と連絡がつかんのですわ...無茶してなきゃいいんですが。」
やはり銀も陸の状態が確認できないのが、不安でしょうがないようである。
「ほっほ、奴めも考えあってのことだろうて...多分...言われたら奴もやりすぎる手合いがあるからのう...」
銀の気配に火喰も一抹の不安を覚えた。
それから暫く部屋で二人、鳳一家討伐の話をしていると、本堂からズドン!と大きな音が鳴り響いた。

銀と火喰が慌てて向かうと、本堂の壁が完全に崩れていた。がれきの中には郭公が倒れていた。

「おお…!郭公!どうした!」
「ん...パパ...銀...さん!ちょっと聞いてよ!あのバカ、マックスで力使っちゃって、一発で1万体倒しちゃったの!」

3人とも信じられないという面持ちで、本堂の方を見た。
するとそこには、二本の槍を持った炎の姿があった。
「......ふぅ...んお?銀じぃ、終わったで?」

「終わったでじゃねぇよ...なんだよこれ...」

「ん?んなぁ!!!なんじゃこりゃ!!!え、これ俺やったん?!」

なんと周りが崩れさるほどの力を使ったことに、炎は気がついていなかったのだ。

「で、その槍はなんでい」

「おぉ、これ?こないだ赤い方出したせいで、ぶっ倒れてんな。ほんだら、分割しましょ、分割ついでにちいちゃくしましょって考えてたらこんなんなりましたぁ」

炎の手には、先日も出した赤く燃える槍、もう片方の手にはなんと

「氷の...槍?」
炎の属性とは真反対の槍が現れていた。
「そ、そういうこと...みたいやなぁ...なんでやろ」

「炎様の槍は...まるでこの仏様のようじゃのう…陰と陽の力を使って世を平らかにした神様じゃ」
そう言いながら、倒れている木偶人形を確認し始めた。
「ふむ、確かにすべての木偶人形の急所を捉えておる...文句なしじゃ..して、郭公や、時間は?」

「え?うっそ……あんた、宝治おじ様より早いわよ…28分...15秒...」

タイムを聞くと、炎は自慢げに誇ってみせた。しかし次の瞬間、銀からのきついきつい拳骨が待っていた。
「一体どんな力使ったらこんなことになるんでい!!アホたれ!」
「いだぁ~...ま、まぁえぇやないの、修行のせいかやって」
「あんたね、あたしん家壊しといて、何言ってんのよ!」

すると、火喰が
「ほっほ、やはり炎様は炎様のようじゃのう。なぁに、この寺は時期に復旧する。ほれ、みてみぃ」

火喰が指を刺したところが、徐々に修繕されていった。

「この本堂は仏様からの不思議な加護を受けておるからのう、技を食らったくらいでは困らんよ」

「でも…うん…すんまへん…」
冷静になり、周りを見渡した炎はさすがに詫びを入れたのだった。

それから、改めて炎の技を外で見た銀は、太鼓判を押して炎の修行を終わらせたのだった。



「出せ………出せぇ!出しやがれ!!!」



─────次回、第四話 後編・壱 ─暴君─

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