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映絵師の極印(えしのしるし)第三話 中編・弐 -襲撃-

前回のあらすじ

鳳一家の長・鳳 鶯からの「封印が弱まっている」と聞き、封印の地へ向かった辺銀、弾、宝治一行だったが、鳳一家の襲撃にあい捕らえられてしまった。陸も何かに気が付いたのか、武市を訪ねるも虎に追い返されてしまった。不味いこと、とは一体...

宝治たちから連絡がないまま夜になってしまった。猫手会とも連絡を取るが、弾もまだ帰らないらしい。

「親父...なんかあったんやなかろうか...」
「...陸様、寒うございます、中へ入りませんと」
お付きの者に促され、部屋に戻り帰りを待つことにした。
すると、陸の電話に炎の入院する病院から連絡が入った。「もしもし?炎にぃに何か」

「陸さん!違います!宝治様と弾様が重篤な状態で運ばれて来はりました!!」

その一瞬で周りの音が無くなった。炎に続いて、宝治までもが。そのあとの電話も周りの声も何も聞こえず、ただひたすらに走って病院へ向かった。

「親父!!」

病院に着いた陸は、集中治療室のベッドに横たわる宝治と弾の姿を見た。
先に車いすで炎が来ていた。

「どういうこっちゃ、炎にぃ!」
「落ち着かんかい!俺もびっくりしとんねん...警察の話によるとや、真風山の登山道で二人とも倒れとったらしい...息はあるが、意識もなにもないみたいでな......それに...」
炎は周りを気にして、陸に耳打ちした。

「俺に盛られたクスリが高濃度で検出されたらしい」

陸は確信した。陸のいう不味いこと、が的中してしまったのだ。

「炎にぃ...これはもう鳳一家の仕業やと思う...」
「なんでや、ただの元やくざやん」

待合室のドアが開くとそこには、虎と武市がいた。弾のしらせを聞き駆けつけて来たのだ。しかし、二人とも冷静な表情であった。
「その話、聞かせてもらおうか、陸...俺も似たようなことを考えてるかもしれん」
「武市さん!」

待合室のソファに座り、ゆっくりとお茶を飲んだ陸は一言
「親父たちをこんな目に合わせたんは、鳳一家やと睨んでます。」

「その心は?」
用意されたお茶を飲みながら武市は問うた。
「炎にぃ、飲みに行った店、ペンギンの女将がやってたって聞いたで?」
「あぁ…そうや…『居酒屋のんだくれ』って店やったな。あんま見ぃひんな、と思ったらオープンしたばっかりやったみたいでな」

はぁ、と陸はため息を付き
「炎にぃ、途中からなんか様子がおかしなかったか?」
陸に問われた炎は首を傾げながら、考えていた。

「そういえば...女将が酒を取りに引っ込んでから、横で賄い食うてた店員の男がチェイサーの水を持ってきたんや。で、女将が酒を持ってきて、少ししたらおらんくなってたな...でも、そいつ...」

炎の前に出た武市は

「俺も調べた。あの店には店員はおらんねん。」
はぁ!と炎が叫ぶ。そして、ここまで聞いていた武市も苦い表情で割って入った。

「その男、小柄ですこしにやついた顔で、三毛猫種だっただろう」
「...そうや、そうやったわ。武市にいさん、まさかとは思うんやけど」
武市は座っていたソファから降り、炎と陸の前で土下座した。

「すまん、謝って償いになるかわからん!多分それはうちの三毛だ!」

炎は思い出した。陸と違い、跡目ということでよく宝治に帯同し、猫手会へ出入りしていた。そのとき、三毛とは少しだけ面識があった。だから、見覚えがあったのだ。

「実はな、虎と三毛は別件で怪しい動きをしてるって情報で内偵捜査してたところなんだ...鳥族、いや鳳一家ともつながってる。ここまではわかってたんだが...」
武市の気苦労も、炎への申し訳ないという気持ちもひしひしと感じ取れた。しかし、ことは重大だ。なにせ炎の体を壊してしまったのだから。

「あんま武市にいさんの口から、そんな言葉聞きたなかったけど...もしかしたら、わしをこんなんにしたんは...さよけ、ほんだら三毛って野郎、今すぐふん縛って、俺の前に連れてきてもらおうか!」
武市は徐々に怒る炎に顔を向けることができず、さらに頭を下げた。

「俺が何を言っても始まらねぇ...必ず、三毛には償いをさせる!だからもう少しだけ待ってくれ!俺たちで必ず捕まえる!」
陸は武市の言葉に違和感を感じた。『俺たちで必ず捕まえる』ということ、つまり
「三毛さんは今猫手会にはおらへんってことですか?」
「あぁ、その通りだ。虎はいるんだが、従者として必ず隣に控えてるはずなんだが、一向に姿が見えん。」

武市の平身低頭に気は収まらないが、落ち着きを取り戻した炎がどこかに連絡を入れた。
「おう、俺や...おめぇら、今から猫手会に手を貸せ。人探しや。頼むで。」
手を貸すといわれた武市は思わず炎に近づいた。

「いいのか...」
「あぁ、いっつも強面の武市にいさんがそんな顔しとるんや。それに、なってしまったもんはしゃーない、俺はリハビリでもなんでもどうにでもなるわ。俺は俺、かわりはおれへんからな」
「すまねぇ、恩に着る...代わりにはなれねぇもん...代わり?」

炎の言葉を聞き、なにか思い出すかのように武市は考え込んだ。
「あの、武市さん。さきほど、聞きたいことがあって猫手会に行ったんです。そしたら、虎さんが対応してくれたんですが...様子がおかしかったんです。妙に辛辣というか。」

陸の言葉で確信を得たのか、ちょっとまて、と猫手会へ連絡を入れた。
「俺だ。今そこに虎はいるか?いない?どこにいった......もしもし?もしもし!どうした!!」

「お電話変わりました。鳳一家の木慈、と申します。」

「誰だてめぇ...」
「ですから、鳳一家の...」
「なんで鳳一家がそこにいるんだって聞いてんだ!!!」
炎も陸も、え!という表情で武市を見た。武市はスピーカーホンにして二人にも聞かせた。

「多分、そちらにD-HANDSの陸氏、炎氏もいらっしゃいますね。もうそろそろ逃げたほうがいいですよ。病院はすでに我々が包囲しております。まぁ、燕坊ちゃんから逃げられたら、ですが。あ、そうそう、私電話ではおしゃべりになるようで、もう一つだけ。猫手会、早く戻らないと皆殺しですよ?」

武市は電話を投げ捨て、待合室から外に出た。しかし、病院内はすでに静かに魔の手が迫っていた。通路には得体のしれないにおいが立ち込めていた。看護師が数名、倒れてしまっていた。
「ゴホッ!やばいな、もう来てやがるな、これは...」
「炎にぃはここで待っててくれ...え、何してんねん!」
陸に促された炎は、怒りに身を震わせていた。するとどうだ、麻痺しているはずの体が動き始め、炎は立ち上がろうとしていた。
「俺らのおる病院、猫手会が襲撃されてんねん...うちにも来てる!確実にや!どんだけ俺らをコケにしてくれてんねん!ボケがぁ!」
壁に手をつきながら立ち上がったが、さすがに無理があったのか、倒れてしまった。
「炎にぃ...」

「ふぅ...下がってろ...『猫手絵師ノ技 疾風迅雷・豹』!」
武市は空中に豹の絵を描くやいなや、通路の空気を切り裂くような突風を巻き上げた。

「いけ!まずは俺がなんとかする!陸は自分のところに走れ!」
「わ、わかりました...炎にぃをお願いします!」

陸は炎を武市に任せ、D-HANDSへと急いだ。

─────次回、第三話 中編・参 -対峙-

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