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映絵師の極印〜えしのしるし〜 第五話 前編・弐 -親友-

前回のあらすじ

炎、陸、武市の修行が終わり、ついに鳳一家討伐への作戦会議が始まろうとしていた。

そのとき、遅刻していた狼を迎えに出た武市が三毛を発見し追跡。虎を発見するも逃げられ、足止めとして現れた三毛と対峙することとなった。



「俺はお前を今でもちゃんと親友だと思ってる……だから、今俺は全力でてめぇを殴る!!」

そういうと武市は風で作られた槍を構えた。不思議と心は静かだった。

今まで虎とともに暗躍していた三毛をまだ親友と呼べるのか、自問自答したこともあった。

しかし、心の奥には三毛との思い出が蘇っていた。いつかまた、新たな思い出を作れるようになると信じながら。

「やぁってみなよぉ!!ぶぅちぃ!!!!」

そんな武市の思いとは裏腹に、三毛の手はすでに血で汚れすぎていた。そして今、虎や鳳一家に投与された『強化型ミミズ』により、凶暴になっていた。

静かに構える武市

両手の指の間に匕首をセットし、その場でジャンプを始める三毛

「来いよ、三毛」

三毛は、ちっと舌打ちし、ジャンプを大きくして壁や天井をはねまわりはじめた。

「余裕ぶってんじゃねぇよ!武市!君はいっつもそうだ!普段はやんちゃなくせに、いざとなったら落ち着き払って余裕…さすが弾様の息子だ!俺みたいな孤児とは違う、エリート様だもんなぁ!」

徐々に跳ねるタイミングを変え、槍を構える武市に少しづつ傷を負わせていく三毛。

「……俺がエリートね……だったらはじめから修行なんてしてねぇっての……お前も俺の苦しみをわかっちゃいなかったんだな」


ーーーーー十数年前

「なぁ武市、みんな、トップに立つ人間が下のモンを気遣うには、どうしたらいいよ」

武市がまだ二代目を襲名する前、猫手の食堂で幹部皆で飯を食べていたとき、弾が幹部に向けて聞いた。

「んー、休みは大事ですから、無理はさせないってことですかねぇ」

鉤尾は答えた。

「ふむ、虎はどう思うよ」

虎は考え、水を飲み答えた。

「そうですね…みんな事情を抱えて仕事してますからねぇ…何か心に闇を抱えていないか、仕事の中で見ていくってことですかね」

弾は頷いた。

「そう、大体二人のいうとおりなんだ。仕事するには休みや対価があってこそだ。それがなかったら心の闇っていうか、そいつ自身が持ってる傷や痛みが膨れ上がっちまう。それをちゃんと見てやるってことも重要だと俺は思うんだ。」

腕を組み、ぼんやりと宙を見る弾に、鉤尾、虎は「なるほど」と相づちをうっていた。

しかし、そばで聞いてた武市は「大人は大変なんだなぁ」くらいに捉えていた。そして、今二代目となり、それを思い出した。そんな武市が心の闇が破裂寸前になっている親友を見て、何も感じないわけがなかった。



廃屋がギシギシと音を立てている。

「おい、武市……!」

狼は見た。これほどまでに悲しく、冷たい涙を。

「三毛……終わりだ」

「ひゃひゃひゃひゃ!!!なぁにが終わり…だ?」

三毛は自分の腹から伸びる槍の先端を見た。赤い血がドクドクと流れ落ちる様を見て、体の震えが止まらなくなった。

「なっ…え……これは…」

「ごめんな、三毛……俺、こうでもしないと止められない俺を…許してくれ…」

三毛の口からは赤黒い塊がゴホッという咳とともに地面に落ちた。

「武市…お前……?!」

狼は赤黒い塊がうねうねとうごめいていることに気が付いた。

「なんやこれ!!」

狼が叫ぶや否や、赤黒い塊は激しく動き回り、そして息絶えたかのように地面に吸い込まれていった。

「ぶ……ち……」

「俺はここだ!三毛!ごめん…ごめん…気づいてやれなくて…」

三毛は力なく首を振った。

「いいんだ、自業自得だよ……君に止められるなら…本望だよ…」

三毛は武市の手を借り立ち上がった。すると奥の通路へとヨロヨロと歩き始めた。

「三毛!どこ行くんだ!」

「僕はもう大丈夫、ありがとう…武市」

そういうと、廃屋の奥へ消えた。



「虎様を止めなきゃ…今なら、まだ」

廃屋の奥にある隠し通路から外に出て、虎を追う三毛。体から血が抜けて、体はとうに冷えている。もう痛みも感じない。

数分ほど歩き、打ち合わせ通りの場所に向かった。

「よし…この角を…」

「こっぴどくやられたね、三毛?」

三毛が振り向くとそこには、鳳 燕の姿があった。

「いやね、虎さんから君の帰りが遅いからって言われてねぇ?随分やられたね……さ、手当てするから…あっちの茂みに、ささ」

燕に連れられて死角になる場所に入った。

「槍で一突きかぁ…やるねぇ、あのボス猫、クククっ」

「ボス猫…武市のことか…あんまり僕の親友を笑わないでくれ…」

「あぁ、すまない…じゃとりあえず、上着取るよ……」

燕が三毛の上着を脱がそうと背後にまわった。すると三毛の肩口にドンッと衝撃が走った。

「ぐっ!!」

「おっと我慢我慢。今すぐ『楽にしてやるから』」

肩口に感じた衝撃を今度は背中に感じた。

「ナイフって案外感触ないんだよなぁ、あるのは骨にあたる感触なのかな…あ、君はもう戦力外って言ってたよ、パパがね」

「なん…で…」

燕は懐から瓶を取り出した。その中にはうねうねとうごめく虫のようなものがいた。

「これはね、パパの精神汚染を更に効果アップさせる、僕が遺伝子操作した虫なんだ。君と虎さんの中にはこいつがいるわけ。わかる?これ…」

気を失いそうになりながらも、虎の元へいこうと這いながら動こうとする三毛を踏みつけ、更に罵倒まじりに燕は叫んだ。

「高かったんだよね、これ!!わかる?!凡人に俺様みたいな天才の所業を台無しにされたんだよ!えぇ!?」

三毛の傷口をグリグリと踏みつける。三毛は声にならない声をあげ、苦しんでいた。

「そうだよ、凡人は俺様天才の実験台で生涯終えればよかったんだ!お前ら猫手の運営資金を俺らに借りたのが運の尽きなんだよ!!きゃきゃきゃ!!!カメラで見てたからわかんだよ、虫を吐き出して精神汚染が途切れたのは明白だ!この約立たず…あ?死んだか?」

息はある。しかしもう体が動かない。血を流しすぎて、指一本動かせない。

燕は倒れる三毛につばを吐きかけ、去って行った。


「あああぁぁあぁっぁああぁぁあ!!!!!」

虎は苦しんでいた。

得体の知れないものが自分の思い出を喰らい尽くすように頭の中を這いまわっている。

「やめろ!やめろぉ!!その思い出だけは!!あぁぁぁ!!!」

映絵教室での子どもたちの笑顔

大会で狼に負けたときの敗北感


そして

我が息子のようにかわいい武市、三毛との思い出。

狂いそうになりながら、這い回る虫を必死で払いのけようとするが一向に虫には手が届かない。

「くそぉ!!くそぉぉおあ!!!」

はっと目を覚ます。

「最近、ひどいですね……この頭痛は……しかし三毛は遅いですねぇ…」

打ち合わせの場所へと戻る虎が見たのは、茂みから流れる赤い血だった。

「これ…は……まさか!!」

虎は慌てて茂みをかき分けていった。すると、そこにはおびただしい血を流し倒れる三毛だった。

「三毛……!!!!!」

倒れる三毛をみた虎にさらなる頭痛が襲った。

「い”っ!!!……ぎっ…くそ!三毛君!!」

三毛に駆け寄ると、まだ息はあった。

「三毛君!今病院……いや迷ってる暇はありませんね。行きますよ、三毛君!」

虎は三毛を担ぎ、近くの病院へ運んだ。

そして、誰の前からも姿を消したのだった。


一命をとりとめた三毛は、虎の姿を探した。

しかし動けない体では限界があった。

孤児だった自分にありったけの愛情を注いでくれた、父親のような人。

「虎様……どうか……ご無事で……」

三毛は久しく感じなかった頬をつたう涙に、虎の無事を願うのだった。



三毛が虎によって運ばれたとき、物陰では燕が見ていた。

おもむろに携帯を取り出し、どこかへと連絡を取り始めた。



「パパ、うん、やっぱり精神汚染、解けかけてるね。」



ーーーーー次回、第五話 前編・参 -汚染-

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