見出し画像

映絵師の極印〜えしのしるし〜 第四話 前編・弐 −光明−

前回のあらすじ

修行に入った三人、まずは狼に修行をつけられる武市の話。狼のモンスターランチに付き合わされたがなんとか修行をつけてもらうようになる。
しかし、修行の場である、町外れの巨大な杉の木に武市は四苦八苦するのであった。

「まずは…こうか」
武市は自分の技を前ではなく、その場で留めた。しかし、力を持続させるのは生半可なことではなく、技はしゅるしゅると弱くなってしまった。

「くそ…こいつぁ大変だ…燃費が恐ろしく悪いぞ…」

『食え』

「なるほど、あれだけ狼さんが食うのも頷ける…まずは飯を買いに行くか…」
街へ戻った武市は修行しながら食べられるものをこれでもかと買い込み、また杉の木へ戻った。

「あとは、風を自由に動かすことができれば…」

『この木揺らすの何年かかんのかなぁ…これやったら、武器でも持ってきたほうが早いんと違うか?』

「そうだ、武器…といっても、俺には爪だから揺らすにしても…いや、あるじゃねぇかひとつだけ…あとは」

『木さんの機嫌損なったら、上からなんや落ちてくるかもしれんのに、危ないのぅ…』

「さて…ヒントと答えは見つかった…あとは、俺にできるかどうか…いや、これだけボロボロになったんだ、できなきゃおかしいだろ...」

武市にあった不安はいつしか消え去っていた。
病院で放った技のイメージから、緩やかな秋のつむじ風をイメージした。イメージ通りの風が現れた、がしかし、自身へまとわせようとすると消えてしまう。何度も何度も試みるが、なかなかうまくいかない。

「たまには自分を犠牲にしてみんかい」
後ろから、狼が声をかけた。

「これ以上何を犠牲にすれば...」
「あ?お前、まだまだくそ甘ちゃんやのう!おどれの今の考えが『驕り』いうんじゃ!二代目って名前だけ背負ってそれだけの甘ちゃんが、生意気いうとんちがうぞ、ゴルァ!」

武市は狼の怒気にはっとした。そして、狼と行ったあの時のことを思い出した。

あの時の視線はすべて自分に向けられたものだった。狼にはむしろ好意的な人間ばかりだった。しかし、無我夢中で狼に追いつこうと食らいついていたときには、皆応援してくれるまでになっていた。

「すいません...犠牲......そうか!」
今にもフラフラで倒れそうな足に、武市は鞭打つようにパァン!と張った。すると、つむじ風は自分の体に纏わりついた。しかし、つむじ風はぐいぐいと足から体へ、離れたかと思ったら今度は、武市のあごにクリーンヒットしたのだ。

「ごふっ......」
倒れこむ武市。俺は何をしてるんだ、もうこんなこと意味ないじゃないか…自然と頬に涙が伝っていた。

「なんや、できたやんけ」
涙を流す武市に狼は声をかけた。
どうして?と武市は体を起こした。違和感を感じた。

さっきまで制御できていなかった風が自身にしっかりとまとわりついていた。
「これは…」
「今の風からの一喝で力抜けたんやろ。お前は力入りすぎやねん。力まず、自分の技を信じたらよかったんや。」

簡単なことだった。しかし、真面目すぎる武市には『力を抜く』ことも難しく考えていたのかもしれない。
「ほんだら、あの木も揺らせるやろ?やってみ」
体にまとった風に武市は笑いかけた。自分でも今までこんな表情をしたことがないと感じていた。
木の前に立つと、今までのようなすぐに切れてしまうような緊張感はなかった。

「さて、武器はと…風か……じゃぁこんなイメージか」
力が抜けた風は、今までのように鋭く、しかししなやかに…自由自在のムチのようになった。

「よし、成功…んじゃいくぜ、せー……の?」

風のムチで木を揺らそうと構えた武市の前では、すでに木が大揺れしているではないか。

ズン…ズン…と大きな足音がして、木の影から巨大な龍が現れた。

「なんでこんなところにおんねん!伝説の龍やないか!!」

さすがの狼もうろたえていた。

「狼さん!!これ!!」

「しゃーない…倒すしかないやろ!!」

狼が自身の持つ大筆を構え、力を貯め始めた。

武市は龍の首に風のムチをかけ飛び乗った。

「狼さん!俺の風じゃ太刀打ちできないですよ!」

「やるんや!やれる!俺はまだ時間かかる!!」

「くそっ…やるしかないってか…」

龍の背に乗った武市は動く龍が起こす風を使い、この龍の弱点を探った。

「くそっ…どこだ…どこだ……ここだ!」

逆鱗、誰も触れたくない龍の逆鱗に一縷ののぞみをかけ、風のムチの先端を尖らせ、突き刺した。

すると龍は苦しみだし暴れだした。

「狼さん!!今です!」

「おうよ!!犬狼絶技・武雷槍!(けんろうぜつぎ・ぶらいそう)」

突き刺された風のムチを支点に、狼の技がヒットした。龍は力なく倒れた。

するとどうだろう。龍は一枚の映絵に変わってしまった。

「え、これ…絵?…しかもこの印は、銀さんの絵?!」

「その通りや!今の龍は銀に無理言って書いてもろたんや」

「ど、どうしてそんな手の混んだことを…まさか」

狼はニヤリと笑った。

「お察しの通り最終テストや、ほんで見事に合格や。ほんまはお前が倒さなあかんかったけど、あそこまで使いこなせてたら、もう問題ないやろ。」

それを聞くと武市は一気に気が抜けるかと思ったが、目の前の狼を見ると、それどころではなくなった。

「…今のお前なら、俺とドンパチできるやろなぁ…」

狼の表情は、それはもう満面の笑みを浮かべ、よだれを垂らしているのだ。狼は、もともとは『犬族でも最強の戦闘狂である』ともっぱらの噂だった。しかし、最近は鳴りを潜めていた。

それは対等に戦える相手がいなかったからだ。そして今、成長した武市に可能性を見出した。

「正直龍はびっくりしました。でも俺もまだ鍛え足りないなと思ってたんですよね」

「そうこな!あのチキン野郎共と殺し合う前に、いっちょここで殺りあってもえぇわな!二代目猫友、武市よぉ!」

「なんででしょうね、私もウズウズしてしまってます…はぁ、望むところですよ!まだあなたからは盗むものがありますから!」

二人は飽きるまで戦い、飯を食らい、鳳一家との戦いにより一層力を付けるのであった。

ーーーーー次回、第四話 中編・壱 −寺院−

よろしければサポートお願いします! がんばります!