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島をくちずさむ ~ジュスにまつわる随想~ゲレン大嶋 【第5話】 笹子重治+ゲレン大嶋というソングライティング・チームの誕生

思えばココムジカの始まりもそうでした。すでに長年の飲み友達だった梶原順さんの「ゲレン、そろそろ何か一緒にやらない?」という魔法の言葉を受け、私はおそらく1週間もかからずしてココムジカの1stアルバムに収録した曲のほとんどを生み出したと記憶しています。そして今回も。「歌ものでもやりましょうか?」という笹子さんのミラクルな一言は、私にとってとてつもなく大きなインスピレーションとなったのです。こうなったら止まりません。次々と曲が浮かび、それらを片っ端からデモにしていきました。その中で「これはいけるかも」と手応えがつかめてきた私は、後日、改めて笹子さんに提案します。「過日の話、笹子さんが本気かどうかはわかりませんが・・・昔からある歌のようでありながら実は新味を多く含んでいて、ずっと歌い継がれる普遍性を持った、いわば“架空の島唄”のようなものを一緒に作りませんか?」と。とはいえ、前回自宅で飲んだ時には「やるのであればオリジナルで」と言う私に対して、「であれば、かなりのクオリティの曲でないと」とおっしゃっていた笹子さんを納得させられる曲ができているという確信は、まだ持てていません。そして、そろそろ梅雨の気配も感じられるようになった頃、スケジュールの間隙を縫って笹子さんが再び拙宅に来てくれました。乾杯の後、意を決した私は笹子さんにデモを聴かせます。「ダメだったら、今まで通りファンであり飲み友達でいればいい」。心の中で自分にそう言い聞かせながら。5、6曲を聴いた後、笹子さんが口を開きまました。「使えない曲は一つもないですね」。この瞬間、笹子さんと私とで音楽作りをすることが決まったと言っていいでしょう。新しい創造の旅の始まりに体中の細胞が沸き立っていました。

それからというもの、私はさらに曲を量産し続けていったのですが、ある時、一つの重大な問題に気がつきます。あーっ、か、歌詞が、な、ない・・・。笹子さんがご自分のインスト曲にタイトルを付けることすら苦手としていることは知っていたし、私も10年以上にわたってインスト・ユニットをやっていて、いや、それ以前にそもそも歌詞なんてほんのいくつかしか書いたことがない・・・。どうする?どうしよう?しかし私は、誰かを頼るのではなく、これから生まれる音楽についての明確なイメージを持っている私こそが歌詞を書くべきなのではないか、と思うに至り、覚悟を決めて原稿用紙を広げ、ペンを握りしめたのでした(実際にはパソコンで書いている)。しばらくは全くペンが走らなかった(パソコンのキーボードの上で指が止まっていた)のですが、ある瞬間、ふと言葉が浮かぶと、次々と詩らしきものがあふれ出してきました。こうして私は、大量のデモに加えて、一気に書き上げた歌詞も笹子さんにドサッと送りつけたのです。あーもう自制が効いてない。。さすがにちょっと迷惑かもしれない。。しかし、そんな心配をよそに、続いてもう一つ、とても嬉しいことが起こります。私の熱意に応えるかのように笹子さんも曲を作って、デモを送ってくれたのです。これがまた素敵な曲ばかり!そして私はこの時すでに作曲のみならず、作詞の方も“ゾーン”に入っていたので、笹子さんの5、6曲のデモに半日くらいで歌詞を付け、すぐさま笹子さんに送り返しました。そうなんです。この一連のやりとりは、創作の喜びと情熱に満ちた往復書簡だったのです。この時点で笹子さんも私も、二人が生み出そうとしている音楽の芸術的成功を予感していたと思います(経済的成功の予感は全然ないのですが。ハハ、ハハハー)。こうして笹子重治+ゲレン大嶋という新たなソングライティング・チームが誕生しました。

●笹子重治(作曲、アレンジ、ギター)
ギタリスト、作編曲家、プロデューサー。弦楽トリオ、ショーロクラブ(1989年-)のリーダーであり、ソロ・アーティストとしても優れた楽曲を発表。多くの尊敬と信頼を集める彼のサポートを求めるアーティストは後を絶たず、これまでに共演してきた歌手や演奏家は、畠山美由紀、Ann Sally、大島花子、純名里沙など、枚挙にいとまがない。また、古謝美佐子、大島保克、比屋定篤子、桑江知子といった沖縄出身アーティストとの共演も多い。

●ゲレン大嶋(作曲、作詞、三線)
1999年に沖縄系アンビエント・ミュージックのユニット、TINGARAのメンバーとしてデビューしたヤマトンチュ三線プレイヤーの先駆け的存在。その後ハワイアン・スラック・キー・ギターの名手、山内雄喜、宮良牧子、上原まきと組んだチュラマナなどを経て、2010年からは日本を代表するギタリストのひとり、梶原順とのインスト・ユニットcoco←musika(ココムジカ)で作曲と三線を担当し、三線音楽の新たな可能性を広げている。

●宮良牧子(ヴォーカル)
石垣島出身。民謡のDNAを大切に受け継ぎつつ、そのエッセンスを多彩でダイナミックな表現の中で輝かせるという、稀有なスタイルを持つヴォーカリスト。その圧倒的な歌唱力を絶賛するアーティストも多い。これまでにソロや、ゲレン大嶋とも共演したチュラマナなどで多くのアルバムをリリース。また2010年にはNHK連続ドラマ小説「ゲゲゲの女房」サウンドトラックに参加し、2012年の映画『ペンギン夫婦の作りかた』では主題歌の作詞作曲と歌唱を担当し活動の場を広げている。


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