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島をくちずさむ ~ジュスにまつわる随想~ゲレン大嶋 【第4話】 2021年春 「歌ものでもやりませんか?」

1993年夏の沖縄での出会いからしばらくは時々顔を合わせるくらいのお付き合いだった笹子さんと私ですが、1999年には私もアーティストとしてデビューをし、さらにたまたま同じ沿線の住民となった2002年以降は一緒にお酒を飲む機会も増え、親交を深めていきました。とはいえ笹子さんは、ショーロクラブ、さまざまな歌手たちとのコラボレーション、コーコーヤなどで、超がつくほどの多忙ぶり。一方の私もTINGARAやチュラマナなどを経て、2010年にこちらも名ギタリストである梶原順さんとココムジカを結成してからは、このユニットでの楽曲作りやライヴ活動に軸足を置いてきたこともあり、笹子さんと私とで事を起こそうという話が浮上することはありませんでした。しかし、時は流れて2021年春のある日、その既定路線が覆る瞬間がやってきたのです。そもそもこの日はちょっとイレギュラーでした。諸事情あって私の自宅で飲んだのです。もしなじみのお店で飲んでいたら、会話の内容もいつもの感じになり、ジュスに至る道は拓かれなかったかもしれません。無数にある選択肢の中から瞬間ごとにどの道をチョイスするかによって、人生は大きく変わるのだということを改めて強く感じます。そして、この家飲みの最中に奇跡のような瞬間が訪れました。笹子さんがふと「歌ものでもやりましょうか?」と口を滑らせたのです。願い事をかなえてくれる流れ星のようなこの言葉を、私が聞き逃すはずがありません。「いいですね!じゃあ、例えばこんな感じで・・・」などと盛り上がりました。しかし、ここまではミュージシャン同士で飲んでいる時によくある話。ほとんどが具現化されることなく、風に吹かれて消えていくのです。ではそうならないために必要なものとは何か。それは楽曲です。そして、この二人が組むならテーマはもちろん沖縄。三線を弾くコンポウザーである私はもとより、若い頃から沖縄各地を旅し、彼の地の素晴らしいシンガーたちとも多くコラボレーションをしてきた笹子さんも、島への思いはとても深いのですから。

●笹子重治(作曲、アレンジ、ギター)
ギタリスト、作編曲家、プロデューサー。弦楽トリオ、ショーロクラブ(1989年-)のリーダーであり、ソロ・アーティストとしても優れた楽曲を発表。多くの尊敬と信頼を集める彼のサポートを求めるアーティストは後を絶たず、これまでに共演してきた歌手や演奏家は、畠山美由紀、Ann Sally、大島花子、純名里沙など、枚挙にいとまがない。また、古謝美佐子、大島保克、比屋定篤子、桑江知子といった沖縄出身アーティストとの共演も多い。

●ゲレン大嶋(作曲、作詞、三線)
1999年に沖縄系アンビエント・ミュージックのユニット、TINGARAのメンバーとしてデビューしたヤマトンチュ三線プレイヤーの先駆け的存在。その後ハワイアン・スラック・キー・ギターの名手、山内雄喜、宮良牧子、上原まきと組んだチュラマナなどを経て、2010年からは日本を代表するギタリストのひとり、梶原順とのインスト・ユニットcoco←musika(ココムジカ)で作曲と三線を担当し、三線音楽の新たな可能性を広げている。

●宮良牧子(ヴォーカル)
石垣島出身。民謡のDNAを大切に受け継ぎつつ、そのエッセンスを多彩でダイナミックな表現の中で輝かせるという、稀有なスタイルを持つヴォーカリスト。その圧倒的な歌唱力を絶賛するアーティストも多い。これまでにソロや、ゲレン大嶋とも共演したチュラマナなどで多くのアルバムをリリース。また2010年にはNHK連続ドラマ小説「ゲゲゲの女房」サウンドトラックに参加し、2012年の映画『ペンギン夫婦の作りかた』では主題歌の作詞作曲と歌唱を担当し活動の場を広げている。

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