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【怪談】ビジホの影

30代男性 Bさんから聞いたお話。


Bさんは仕事柄、短めの出張が多い。

ほとんどは1~2泊ほどでその都度仕事をする周辺のビジネスホテルに泊まるそうだ。



数年前、とあるビジネスホテルに泊まった。

そのホテルはいわゆる普通のビジネスホテルといった様相で、部屋もベッドと壁際に机が一つずつあるだけ、ユニットバスと短い通路があるだの何の変哲も無い部屋であった。


その日は仕事も早めに終わりホテル近くで夕食を済ませ、9時頃にはホテルに戻りシャワーも済ませ、今日は早めに寝ようとすぐにベッドに入った。

寝つきが良いBさんはすぐに眠りに落ちたそうだ。


寝ていると備え付けの電話が鳴った。

その音で目が覚めたBさんはすぐにベッドから立ち上がり、机の上で鳴っている電話の受話器を寝ぼけた頭で取った。


が、受話器から聞こえるのはスーッというノイズのみ。例えるなら、耳に水が入った時のような変な音だったと話していた。


Bさんはフロントの掛け間違えかな?と思い何度か「もしもし?」と話しかけたが返事は無かった。


せっかく気持ちよく寝付けたのにと少しイラつきながら受話器を置き、時計を確認したら深夜1時だった。


変な時間に目が覚めてしまったBさんは、ベッドに入りなおしたもののなかなか寝付けずに寝返りをうったりともぞもぞしていた。

それから数十分、また電話が鳴った。


Bさんは「おいおいマジか」と呆れとも怒りともとれる独り言を呟きまたベッドを出て受話器を取った。


またも妙なノイズ。


時計を見ると1時30分頃。Bさんの怒りは頂点に達した。

電話を切りすぐにフロントに内線を掛けなおした。


すると4,5コールでフロントマンが電話に出たのでBさんは怒り気味に

「さっきから無言電話くるんですがなんなんですか?!」

と聞いた。

しかしフロントマンはワケがわからない様子で「申し訳ございません、何の件でしょうか」と返してきたので、2回の無言電話の件を伝えたところフロントマンは電話をしていないという。


そんなワケがあるかと怒り心頭だったが、フロントマンは電話機器の故障の可能性もあるので、また同じ事があったらすぐに連絡をくれと言った。


Bさんは内心納得いかなかったものの電話を切り、次に同じことがあったらどうしてくれようと思いつつまたベッドに入った。


その瞬間、ユニットバスの扉が開いた。


ベッドに入っていたBさんが、なぜ扉が開いたのかわかったかと言うと、音がしたのだ。ゆっくりと

「カチャリ……キイィィィ…」


もともと少し開いていたのでは無く、ユニットバスの内側から誰かが出てきたような音がしたのだ。


Bさんは「えっ」と一言放ち、ベッドから上半身を乗り出しユニットバスの方を見ると、ドアが全開に開かれている。

ただ単に建付けが悪いドアだなと思ったが、何か異様な気配を感じたようにも思ったそうだ。


少し不気味だなと思ったBさんは、部屋の入口側の明かりを付けて寝ようと思い立ち、枕もとの照明のスイッチをいじると部屋の入口の照明が点いた。

ベッドから直接見えない位置で間接照明のような明かりが点き部屋が明るくなった事で少し安堵した。

ほっと一息つき、これで多少怖さが紛れるだろうと思い、起こしたままの上半身をベッドに戻そうと視線を床に送った一瞬、恐怖で固まってしまった。


床に人影が伸びてきている。


まるで、今付けた入口の照明のもとに誰かが立っているかのように。


Bさんは瞬間、「誰かいる?そんなはずはない。じゃあ幽霊?さっき電話してきたのもこれ?」

と様々な考えが頭を駆け巡ったが「これは幽霊の類だ」と結論づけた。

やばい、変な事に巻き込まれたという考えとは裏腹に、Bさんはベッドから飛び起き、すぐさま入口の方を確認した。


そこには白いワンピースを着た血まみれの女が…

という事は無く、誰もいなかった。


誰もいなかったが、何も無い空間から影が相変わらず伸びていた。


Bさんは意識せず「やばいやばい」という言葉が繰り返し出ている事に気付いている冷静な自分がいるのに驚きつつも、何をどうしたか覚えていないくらいの勢いで荷物を両手に抱え部屋を出てフロントがある2階に息を切らせて降りていた。


フロントマンが奥から出てきてどうされましたかと尋ねてきたが、Bさんは「チェックで!帰ります!」と叫びながらフロントの前でホテルのバスローブから着替えたそうだ。

そして怪訝な表情のフロントマンを尻目に着替えを済ませ持ち物のチェックとお会計を慌ただしく済ませホテルを後にして深夜の高速をかっ飛ばして帰ってきたそうだ。


あとからそのビジネスホテルで事件があったかどうか調べたが、そのような事件もなければ変な体験をしたという情報も無かったそうだ。


慌ただしく飛び出して来たせいか、チェックしたにも関わらず、アイコスの本体を忘れてきてしまったそうだ。

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