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【怪談】結婚式の写真

十数年前に、当時 悠子さん(仮)30歳から聞いた話。


悠子さんは20代半ばで結婚した。
結婚式を挙げたそうだが、普通のホテルを借りて親戚とごく一部の仲の良い友人だけを招いたいわゆる一般的な式だったそうだ。


式には両家の親戚が数十人集まったそうだが、その中にはまだ小さい子どももたくさんいた。子ども達は式の最中も元気に、元気過ぎて大変だったと悠子さんは語っていた。


歓談の時に、新郎新婦のいる高砂席に子ども達が集まってきた。
新婦の事を可愛いだの新郎をカッコいいだのと騒ぎ立て、普段と違う雰囲気の2人を見た子ども達は会場の非日常感も手伝い興奮しているようだった。

そのうちの1人、小学校に入ったばかりの悠子さんの姉の子である姪っ子が気になる事を話した。


「おばあちゃんも来てるよ!」


悠子さんの祖母はとうの昔に亡くなっている。姪っ子にとって祖母に当たる悠子さんの母の事だろうかと思い尋ねてみると「違う違う!ばぁばじゃなくて!」と言う。
確かに姪っ子は悠子さんのご両親をばぁば、じぃじと呼ぶ。
おばあちゃんなんて呼ばないはずだ。
もしかして新郎の母、悠子さんの義母の事を言っているのかと思い義母を指差しあの人かと尋ねると違うと言う。


なるほど。両家の親戚合わせると「おばあちゃん」という年齢のご婦人は何人か招いている。
その中に、なぜか姪っ子の目に留まった気になる「おばあちゃん」がいたのかと思い直し、どの人かと尋ねた。

すると姪っ子は、えーっとねぇと呟き会場を一通り見回したが困った顔をして「いなーい」と答えた。

お手洗いに行ってるかもしれないし親戚に挨拶しに回っていて席にいないのかもしれない。しかもこの人数だ、テーブルに座っていなければ見失う事もあるだろう。
悠子さんはどこの席の人かと姪っ子にまた尋ねると、ずっと立ってたよ、と答えた。
悠子さんは不思議に思って姪っ子に尋ねようかと思ったが、子ども達の後ろで自分と一緒に写真を撮りたがっている友人らに気付いたし、姉や子ども達の親も迎えに来ていたのでそれ以上は聞かなかった。


その後、式は滞りなく進行し無事終えた。


それから数週間後、新婚旅行も済ませた悠子さんは、両親と姉家族が住む実家に式の写真を持って遊びに行った。
母と姉はあらー!楽しかった?疲れたでしょ!と迎え入れてくれ、お茶を飲みながら新婚旅行の土産話や式の話で盛り上がった。


悠子さんはふと、そういえば姪っ子が式の最中気になる事を言っていたのを思い出し、姉と母に何気なく話した。


すると、母と姉の動きが少し止まったように感じた。
悠子さんは、あれ?と思って2人に「え、何かあった?」と聞くと母と姉は困ったような、苦笑いのような表情をして事情を教えてくれた。

式が終わった後、両親と姉一家は実家に帰って来たのだが、すぐさま姪っ子が玄関から和室に駆け出したそうだ。
姉はどうした事かと姪っ子を追いかけたところ、姪っ子は仏壇の中の遺影を指差し「ほら!やっぱりおばあちゃんだ!」と興奮した様子だったそうだ。

姉は訳がわからず理由を聞くと、亡くなったはずの祖母が式に参加していたと言うのだ。
母にも一応話したが、母も姉も全く信じておらず気にも留めていなかったが、まさか式の最中に悠子さん本人に姪っ子が話していたとは思わなかったそうだ。
姉は申し訳ないといった感じだったが、悠子さんも特に気にしなかった。


微妙な空気が流れてしまったので、悠子さんは気を取り直し「式の写真出来たから持って来たんだった!みんなで見ようよ!」と提案した。

3人であーでも無いこーでも無いと談笑しながら写真をめくっていた。


しばらくすると母が「ひっ!」と悲鳴とも驚きともとれる声を発した。
悠子さんと姉はどうしたのかと母に尋ねると、母は口を押さえおののきながらとある写真のすみを指さした。


その写真は何の変哲もない、親戚を写したものだった。
テーブルから隣のテーブルの親戚らを写したものだろう、フラッシュが焚かれ写っている親戚らは明るく写し出されピースやら笑顔やらで、席に座ったままであったがフラッシュの影響で周りは暗くなっている。
他のテーブルや立っている人らが後ろにチラホラ写っているものの、ほぼ黒い人影のようになっていたが母が指差したのはその中の1人の老婆であった。

その老婆は奥のテーブルにお辞儀をしている姿勢で暗くぼやっと写り込んでいたが、見覚えのある顔で間違いなかった。


姪っ子の言っていた通り、それは亡くなった祖母だった。


これおばあちゃんじゃん?!と悠子さんと姉は驚いたが「あんたの結婚式にわざわざ来てくれたとかすごくない?」という姉の発言で、悠子さんは言葉を失ってしまった。

亡くなってなお悠子さんの事を気にかけてくれている、そして誰にも気付かれずともこうして式に出席してくれた。
そう思うと感動やら感謝で目頭が熱くなり何も言えなくなってしまったからだそうだ。


…しかし母がすかさず「ちょっと!違う違う!ホラ!」ともう一度祖母を指をさしたのだ。


何が?最初はわからなかったがすぐにその違和感に気づいた。


祖母が来ていたのは黒い着物ではあったが、それは黒留袖ではなく喪服だったのだ。


えっ!?なんで!?悠子さんと姉は驚いた。


あ、そうか、もう亡くなってるから…いや、それなら真っ白な死装束であろう。祖母は留袖を持ってなかったか?いや、曾祖母から受け継いだ留袖があった。母はサイズが合わない為それを着ずにレンタルして着ていたので式の同日は祖母の留袖はしまったままのはず。


考えると考えるほど祖母が喪服で現れた理由がわからなかった。

また部屋には微妙な空気が流れ、3人は無言になってしまった。

それから数十分後、姪っ子が学校から帰宅した。


ただいまーと聞こえるや否や姉が姪っ子をリビングに呼び出した。

姪っ子は悠子さんを見つけると嬉しそうに駆け寄ってきたが正直、3人はそれどころではなかった。

姉は姪っ子に「ねぇ、あんた結婚式でおばあちゃん見たんでしょ?どんな感じだった?」と切り出した。

突然の質問に姪っ子は一瞬動揺したがすぐに考えこみ、思い出しながら答えた。前に言った通りずっと立ってたよ、と。


母がどんな様子で立っていたのかと尋ねた。悠子さんは、にこにこ見守ってくれていた、というような答えが返ってくるだろうと思った。きっとおばあちゃんは着物を間違えただけだろうと。

しかし返ってきたのは予想外の答えだった。


「う~ん、泣いてるような怒ってるような怖い顔」


姪っ子はそう答えたそうだ。


悠子さんら3人は「そ、そうか…」と納得は出来なかったもののそれ以上この話を続ける気にはなれなかったそうだ。


・・・・

当時、悠子さんからお話を聞いた時には特にその後不幸な出来事や人死になどは無かったそうだ。

私はその写真をガラケーにメールで送ってもらって見たが、生きている人間と変わらないように写っていたのを記憶している。

ただ、お話の通り影になって写っていて顔の表情までは読み取れなかったが、知っている者がみると誰かわかるであろうくらいには目鼻口の形は辛うじてわかったし、どうやっても笑顔ではなかったし、何より一人だけ異様に目立つ黒い帯を締めていた。

それは確かに不気味だった。


メールを送ってくれた悠子さんは、そのあと私に


「この写真どうしよう。いちおう、おばあちゃんが写ってる最後の写真って事になるから困ってるんだよね。」


と笑いながら喋っていたが、私だったらすぐに手放すだろう。


孫の結婚式に喪服を着ている祖母の写真だ。私も、たぶん悠子さんさえも知らない何か普通ではない事情があるのだろうから、そのまま処分して忘れてしまった方が良い事だと思う。

悠子さんとはもう十年以上交流が無いので現在どうしてるかは不明で、せっかく送っていただいた画像も、私がガラケーとともに海で泳いでしまった為に現在は無い。

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