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【怪談】土蔵の整理

Gさん50代男性から聞いたお話。


Gさんが中学生くらいの頃の夏休み、家族と田舎にある父方の実家に帰省し、祖父母や従弟たちと一週間ほど過ごしたそうだ。


滞在中のある日、祖父から蔵の整理を頼まれた。

田舎で過ごすには中学生にはつまらないだろうと、祖父が思い付きで言いつけたようだった。


同い年くらいの従弟と3人で「ダリー、めんどくせー」と言いつつもみんな少しワクワクしていた。

実家は代々農家で敷地も家屋も平屋でとても広く、田舎の金持ち然としていて、敷地の奥に「THE★蔵」という古く物々しい大きな土蔵があった。


扉についていた南京錠も既に錆びついており開錠出来ず、父が大きなハンマーで壊してやっと扉を開けた、と言うほどには長い年月開けられていなかったようだ。


中は、土蔵の2階の明り取りから日差しが少し差し込む程度でほぼ暗闇、ホコリ臭く、大小さまざまな木の箱や、錆びついて使い物にならなくなってしまったような農具が乱雑に積み上げられていた。


正直、一日二日では終わらない様子だったが、ヒマつぶしになるし何より子どもの探求心に火が付かないワケが無かった。


「よっしゃやるか!」の一声から始まり片っ端から箱を開けてはゴミを外に投げ捨て、発見したよくわからない冊子にみんなで集まってはアーでもないコーでもないと言い合い、古い着物や古銭なんかは祖父に逐一どうするか聞きに行って楽しく過ごした。


二日目ともなると、似たようなモノしか発掘されなくなり作業感が前面に出てきてダルくて堪らなかったが、3人は黙々と片づけを進めていた。


そして、ある時だった。

出入り口の扉を開放しているとは言え薄暗い土蔵の中、突然空気が変わったとGさんは話してくれた。


何がどう変わったかはよくわからないが、何となく、音が無くなり風景の色が褪せて見えるような感覚だったそうだ。


Gさんの手は止まり体は固まってしまった。なんだ?何が起こった?いや何も起きてない。なんなんだこの違和感は。


Gさんは突然の違和感に恐怖を感じ、変な汗がドバッと吹き出したが、土蔵の中を見回しながらその違和感の正体を探った。


土蔵の一番奥、まだまだ木箱などが積み重なっている陰、何も置いていない空間がある。

薄暗く木箱のタワーの裏にある空間なのでハッキリ見えないが、その空間だと直感が囁いた。


あそこだ、あそこが変なんだ。木箱の裏に何かあるのか。

数十秒ほど木箱の裏にあるはずの何かを凝視していたが、はたと我に返った。

俺は何してんだ、他の従弟たちにバレたらサボってると思われてしまうな、と気付き従弟2人に向きなおした。


すると、従弟2人も全く同じ方向をみたまま固まっている。

ゴミを抱えて外にでようとしたまま、もう一人は木箱の中を漁ったまま、頭だけを例の空間に向け、口と目を開いてジッと見つめている。

ただ事ではない。


自分が感じた違和感はやはり気のせいではない。

何なのか。


Gさんは従弟2人に小さく声をかけた。

「おい…やっぱり…?」


すると従弟2人は驚いた表情のままこちらと例の空間をキョロキョロしながら首を縦に振った。


3人は動けなくなってしまった。

目を離すと何か悪いものが例の空間から出てきそうな気がして。



三人と空間のにらめっこは数分程続いた。


すると、暗いその空間、木箱の裏、人の足が、つま先からすぅ~っとゆっくりと出てきた。


土蔵の奥のほぼ暗闇では足は膝から下しか見えなかったが、それはズボンらしきものは履いておらず、草履のようなモノは履いていたように見えた。


そして木箱の影から反対の足も出てきて、こちらに正面を向けたのがわかった。


木箱に隠れていた何者かが出てきて、三人に対して仁王立ちしている状況だ。


Gさんはパニックで動けなくなっていた。物音ひとつしないあたり、従弟達も固まって凝視しているようだ。

3人と何かの睨めっこは1分ほど続いたが、その何かは足以外暗闇で見えない為、正確にはにらめっこかどうかは定かではなかった。


さすがに1分程も経つと、Gさんはどうするべきかと考え始めた。

逃げるか、話しかけるか、いや親戚の誰かが隠れているなんてありえない、不審者か、脱兎の如く逃げ出し警察を呼ぶか、いやいや近隣の誰かが紛れ込んでずっと隠れてた?なんにせよこの状況どうしよう…


Gさんは、その時は幽霊の類という発想は無かったが、先ほど感じた違和感がまだ残っていた。


その時、何かの足が動いた。ゆっくりと前へと歩き始めたのだ。


相手がアクションを起こした事にドキッとしたが、正体を見極めようとじっと見つめていた。


奥の暗闇から手前の少し明るい所まで数歩ほど歩いて出てきたが、その正体にGさんらは驚愕した。


膝から下しか無かったのだ。

暗闇で上半身が見えなかったのではなく、もともと膝から下しか無かったのだ。

薄明りに照らされた膝から下しかない、草履のようなものを履いたそれは徐々に歩みを速めた。


やばい、こっちに来る、そう感じたがGさんの体は恐怖と驚きで動けなかった。


が、従弟の一人が「うわああああああ!!!!」とふり絞ったような叫び声を挙げた。


それを皮切りに他の従弟もGさんも声にならないような声で叫ぶと、体がフッと軽くなるのを感じた。

そして三人で脇目も振らず駆けだした。


「うわああああああ!!!!」と三人で叫びながら、転がるように土蔵から逃げだした。

外に出て尻もちを付きながら土蔵の中を確認すると、足はまだ、そこにいた。

ゆっくりと歩いて土蔵から出てこようとしているようだった。


三人は、それが幻覚では無い事をアイコンタクトで確認しあうと、また全員で叫びながら走り出した。


すぐさま祖父のいる家屋に駆け込み、必死に祖父へ今あった事を伝えた。


ノリの良い祖父は「え!?マジ!?幽霊!?うそうそ!?マジ!?確認するぞ!」と、玄関脇にある農具小屋からナタを取り出すと、三人を引き連れて土蔵へ戻った。


が、案の定、そこにはもう何も無かった。

三人はホッとしたが、祖父の落ち込み様は凄まじかったそうだ。

幽霊見たかったのにぃ…と小さな子どものようにグチを零した。



土蔵の探索&清掃は中断となり、三人は祖父に何か心当たりがあるか尋ねた。


祖父は「う~む…」と深くうなった後「実はな…」とご先祖様の中に非業の死を遂げてそれから一族に様々な呪いがふりかかった、という話を長々と喋った後に「全部ウソだけどな」「ぜんっっぜん心当たりねーわ」と続けたそうだ。


後日、諦めきれなかった祖父が土蔵の中を探してみると、木箱の裏の例の空間には割れた小さな小皿があったそうだ。

祖父の推測によると、いつかわからないが、その小皿に盛り塩でもしていたんじゃないかという事だったが、それ以外は有力な情報源やお札の類など魔除け的なモノは見つからなかったそうだ。


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Gさんはそれからも年に数回、祖父の家に帰省し、そこに住んでいる従弟達や親戚といつも「アレ何だったんだろうな」と酒の肴にして呑む事があったが、やはり何か云われがあるという事実は発見出来なかったそうだ。




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