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【怪談】八甲田

※すみません、タラタラと書いたら思ったより長くなってしまいましたので、それでも大丈夫な方だけお読みください。文才が無くて申し訳ない。



地元の都市伝説ではあったものの、実際に体験されたというお話を又聞きできたので。


地元のとある山脈には昔から語り継がれる都市伝説がある。

詳しくはwiki等に書いてあるので割愛させて頂くが簡単に言うと、130年程前に冬の八甲田山脈で行軍演習していた部隊が遭難の末に200名近く亡くなってしまった八甲田雪中行軍遭難事件というものがある。

慰霊碑や伍長の記念像も建っている。


以来、その八甲田山脈付近では行軍している軍人の幽霊が現れると噂されるようになり、肝試しに行ったカップルが遭遇し発狂した等の都市伝説も囁かれるようになった。


現在は有名な温泉宿やそこの積雪量がニュースで流れる等、登山客や湯治客や観光客で山脈一帯は賑わっており、伍長の記念像付近もドライブインやお土産屋が点在しており観光スポットとなっている。


が、夜になると山中だけあって真っ暗な山道となり不気味な雰囲気をかもしだしている。


先述した通り記念像付近は凄惨な事件や夜の一面闇な雰囲気も手伝い都市伝説が今なお囁かれている。

しかし実際に体験した人がいるかというと全く情報が入って来なかった為、私個人としては幽霊がでるというのは正直デマだと思っていた。


先日、取引先の営業部長と会談していた時に去年の仕事の話になった。

彼が言うには、八甲田山脈一帯の道路保全や設備・施設保全の長期の仕事があったのだが断ったそうだ。


理由としては「夜勤もあるんだけど、幽霊がでるじゃん」という事だった。


彼とはもう15年来の付き合いで、現実主義な方だった為、その彼からそういった話が出るとは思わなかったから驚いた。

しかも、彼は条件が良ければ自社の従業員が嫌がる仕事であろうとも引き受け、条件が悪ければ報酬を引き上げたり次の仕事の約束を取り付けたりなど、よっぽどで無ければ仕事を断らないタイプの彼が、「幽霊がでるから」というオカルティックな理由で断った事に最初は冗談かと思った。


「私自身そういったオカルティックなお話が好きなんですが詳しく聞かせて頂けないか」と話したところ、彼も私のそういった一面を知らなかったらしく、だったらという事で聞かせてくれた。


彼は何度も八甲田山脈で不思議な体験をした事があるそうだ。

全て夜勤の時だそうだが、目撃や聞いたという人は彼だけではなく一緒にいる従業員も合計で15名ほどいるそうだ。


一つ目は奇妙な音。


十数年前の夏、道路の保全工事だったが夜勤の為、大きなライトを付けながらの作業だった。

複数人で作業していたが、一息入れようという事になり7人ほどでその大きなライトの元に集まりタバコを吸ったりジュースを飲んだりしていたそうだ。

心霊スポットだという事、山中の真っ黒な木々の影が風に揺れる不気味なザワザワとした音、深夜で車通りも皆無だった事もあってか、休憩中に無駄口を叩く者はおらずそれぞれ静かに過ごしていた。


と、作業員の一人が何か聞こえると訴え始めた。

木が風に揺れる音だろと誰かが答えたがそのあと無言で皆は耳を澄ました。

確かに木々が揺れる音に混じって何か音が聞こえる。

ズズ…ともボボ…ともつかない低い音が微かに聞こえた。

皆は「本当だ。何の音?」としばらく耳を澄ましていたが、ひとりが「音、大きくなってません?」と呟いた。

皆は無言だったが、多分全員それに気付いていた。


ズズ…ズ…ズズ…ズッズッ…


その音はまっすぐ続く道路からこちらに向かっているように聞こえた。

誰かが「イノシシとかだったらヤバくない?」と言ったので、一度みんな車に乗る事にした。

車は大きなライトのすぐ横に停めてあったので全員で何台かの車に乗り込み、窓を開けて様子を伺った。

しばらく待っていたが、野生動物らしきものの影は見当たらない。

が、音だけは迫って来ていた。

その音が実は結構大きな音な事に気付き車内では何だ何だとざわついた。


しかし雪国に住む彼らは内心わかっていたそうだ。

複数の人間が雪を踏みしながら歩く音だという事を。


この真夏に、雪も降っていない中、何人、いや何十人もの雪を踏んで歩く音が聞こえるのだ。それを認めるとはつまりそういう事だ。

なので全員、ひたすらソレが過ぎ去るまで黙っていようと決めたのだ。


ズズッズズズズズッズズッズズズズ…


その音は車の真横を通りすぎていった。

体感なので正確な事は言えないが、道路から山に向かっていったように聞こえたと教えてくれた。

その音が消えるまで一時間以上かかっていたそうだが、その間みな無言で過ごし、そのあと何事も無かったかのように作業に戻ったそうだ。

作業中は「アレなんだったんだー!めちゃ怖ぇー!」など敢えて陽気にワイワイ過ごし変なモノを牽制しながらの作業だったそうだ。



営業部長が体験した話をもう一つ。

十数年前、八甲田の山々の中腹あたりで発電所だったか水道関係だったかの仕事で地中に配管する仕事をしたそうだ。

本来はそういった事は無いのだが、工程が少し押していた為、営業部長含む複数人が現場の山の中にある作業所に残り、次の日に使う道具の準備や軽作業等を行っていた。


作業所はプレハブで外向きのライトも点いていた為、ド山中の木々の中であったが周りは明るかった。


次の日の段取だけなので、談笑しながらの短い作業だったそうだ。


ある時、作業員の一人が「あれ?なんかいますよー」とみんなに向けて叫んだ。

野生動物だったら危険なので作業を止め、その何かを確認する事になった。

作業所にある懐中電灯を手に営業部長は作業員に「どこ?」と聞きながらあたりをライトで照らした。


あそこっす、と言われた方向を照らすと確かに何かいる。

作業員みんなが集まってきて何だ何だと見てみると、もぞもぞと動く黒く複数の影が見えた。


木々が生い茂る真っ暗な山の中を、何十人かの人影が歩いているのだ。

距離としては100mほど先、ほぼ一列に揃った20人ほどのその黒い影はノロノロと山を下っているように見えた。


奇妙なのは、灯りを持っておらず全く足音や物音がしない。

それに、ライトで照らしているというのにその黒い人影は黒いままだった。


数十秒それをみんな無言で、呆然と眺めていたが営業部長は「撤収!」と叫び脱兎の如く車にみんなで飛び乗り麓まで降りてきたそうだ。


もちろん次の日は日勤の作業員さん達に「昨日全部ハンパにして帰っただろ!」と怒られたそうだが。




営業部長はオカルティックなものを信じる信じないには言及しなかったが、見たのは私だけじゃないからそういう事だと思うよ、と話してくれた。



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